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2003/06/05 産経新聞朝刊
【主張】中東和平会談 「圧力」による大きな成果
 
 ブッシュ米大統領はイスラエル、パレスチナ両首相との三者会談によって、二〇〇五年までにパレスチナ国家樹立を目指す新和平案(ロードマップ)を実施に移す足場を固めた。イラク戦争の終結をきっかけに、中東和平が歴史的な一歩を踏み出したことを歓迎したい。
 ブッシュ政権は、イラクのフセイン政権を打倒する構想の段階から、「バグダッド陥落」を経由して「中東和平」に至る道筋を描いていた。パレスチナ過激派を背後から支援していたフセイン体制を崩壊に導けば、流血のパレスチナに和平をもたらす地平が開けるとの適切な判断である。
 昨年三月にはフセイン政権に圧力をかけつつ、一方で、国連安保理にイスラエルとパレスチナ自治政府が「二つの国家」として共存する和平交渉の再開を求める決議案を提出している。そしてイラク戦争の終結が、フセイン政権に気兼ねしていたアラブ諸国に対して、和平への関与ができる環境をつくった。
 パレスチナ抗争の歴史は、米国の圧倒的な力を背景としなければ終結しないことを認識せざるを得ない。
 しかし、国際社会は過去の和平交渉が、何度も失敗していることを知っている。湾岸戦争後に開かれた中東和平国際会議で、確かに双方がテーブルにつき、一九九三年のオスロ合意につなげた。この歴史的な合意を無残に打ち砕いたのは、双方に巣くうテロリストの暴力であった。イスラエルの和平推進者、ラビン首相が暗殺され、パレスチナ人による自爆テロが繰り返された。これに、イスラエルがそのつど報復するという悪循環である。
 今回の和平がこれまでと違うのは、テロ支援のフセイン政権が崩壊したことと米国の圧力によってイスラエルが建国以来、はじめて「パレスチナ国家」の樹立を承認したことである。
 ブッシュ大統領はエビアン・サミットを途中退席して、間髪をいれずエジプト、サウジアラビアなどアラブ穏健派四カ国首脳と会談して新和平案への全面的な支持を取り付けた。次いでヨルダンのアカバで、三者会談に臨み、新和平案の実施を求めた。和解をはばむ敵はテロリストたちであり、両当事者と国際社会は暴力に耐えて断固、和平の合意を貫くべきである。
 
 
 
 
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