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2003/05/25 産経新聞朝刊
日米首脳会談 世界的視野の「新同盟」
■東アジア限定から脱却へ 米、日本に自立促す
 【クロフォード=近藤豊和】テキサスの広大な牧場にある私邸に小泉純一郎首相を招いたブッシュ米大統領は、日本との同盟関係を東アジアの安全保障という局地的な目的にとどまらず、世界規模の諸問題に対処するグローバルな視野をもった関係へ発展させることを会談の狙いとした。
 二十三日の公式会談後、ブッシュ政権高官は「日米同盟は、東アジアの安定に過去数十年間寄与し続けてきたが、今後は世界が直面する主要な問題に共同で対処する同盟関係へと発展する」と述べ、成果を強調した。
 ブッシュ大統領と小泉首相は、公式会談に先立ち二十二日に大統領私邸のプールサイドで約二時間にわたって通訳だけを交えて非公式会談を行った。この時、話し合われたのは、国際テロ組織アルカーイダや、イラク戦争開始前の欧州各国などの姿勢、イラク復興、パレスチナ和平など多岐にわたるもので、主要テーマと目されていた北朝鮮問題については「二十三日の公式会談で協議するから簡単に触れただけだった」(小泉首相)という。
 北朝鮮問題という東アジアの安全保障上の重要問題だけでなく、両首脳のまなざしが世界各地に向かっていたことを物語っている。
 日本がグローバルな視野をもった同盟国に“脱皮”することをブッシュ大統領が願う背景には、欧州内に見られる米国離れの動きが一つにはある。
 同盟関係にあったフランス、ドイツや、ロシアは、イラクへの武力攻撃を容認する国連安保理での新決議案に反対の姿勢を貫いた。
 ブッシュ政権は、仏独を「古い欧州」(ラムズフェルド国防長官)と決めつけ、いまだに冷たい関係が続いているが、一方で、スペイン、東欧、北欧諸国などに見られる米支持の姿勢を歓迎し、イラク戦への支持、不支持は米国が同盟・友好国を峻別(しゅんべつ)する最大の判断材料となっているのが現状だ。
 反テロ戦や一国主義、ミサイル防衛(MD)促進に象徴される米国の新世界戦略に同調する新たな同盟連合の編成こそが主眼となっているわけだ。
 こうした中で先進主要国の一つである日本が単に東アジアの安全保障を主眼とした同盟国にとどまっていることは、ブッシュ政権にとって、許容することができなくなったといえる。
 日本が同盟国としてもっと信頼を得るには、米政府で対日政策を主導しているアーミテージ国務副長官がかねて集団的自衛権の問題などで発言してきた、「日本が独自で決める」という、米頼みでない自立した同盟関係の樹立が望まれている。
 この点からは、イラク復興の日本の役割などについて、今回の会談後の小泉首相が何度も強調した「日本が決めること」という発言は、ブッシュ大統領の狙いが小泉首相に通じた結果ともいえよう。
 
【写真説明】
ブッシュ米大統領の牧場で、記者会見を終えて大統領に手をさしのべる小泉純一郎首相(ロイター)
 
 
 
 
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