2003/05/02 読売新聞夕刊
対イラク戦闘終結宣言 対テロ、一つの勝利 「ならず者国家」に警告
【ワシントン=永田和男】ブッシュ米大統領は一日の演説で「イラクでの戦争は二〇〇一年九月十一日に始まったテロとの戦いの中での一つの勝利」と位置づけ、フセイン政権の打倒が対テロ戦争の流れの一部であったことを強調するとともに、フセイン政権が代表していた「ならず者国家」によるテロ支援や大量破壊兵器の取得を許さない姿勢を強く打ち出した。
大統領は「テロ組織がイラクから大量破壊兵器を受け取ることだけはもうない。その体制が消滅したからだ」と述べたうえで「テロ組織とつながりを持ち、大量破壊兵器の保有をもくろむ無法者国家は、文明社会への脅威であり、我々はそれに対抗する」と断言。フセイン政権が武力で排除された事実を「ならず者国家」が真剣に受け止めるべきだと警告した。
ブッシュ大統領は最近のインタビューで「次の戦争は念頭にない」と語っているが、テロ支援国家に指定するシリアにはパウエル国務長官を派遣。同長官は三日のアサド大統領との会談で「イラク戦争後の新しい状況」(同長官)を説明し、テロ支援や化学兵器開発の断念を強く迫る意向だ。
米国は北朝鮮の核開発問題でも当面は外交的解決を追求する方針だが、最終的に軍事的選択肢は排除していない。イラク戦争で見せつけた力と決意を背景に、核拡散を許さないという原則を貫くと見られる。
一方、一日にはラムズフェルド国防長官も訪問先のアフガニスタンで同国内での大規模な戦闘は終結したと宣言。対テロ戦争の一つの区切りの日となった。
フライシャー米大統領報道官は「経済により関心を注げる段階へ移りつつある」と語り、戦闘終結宣言を区切りに大統領が内政問題にも力を入れる考えであることを示唆した。
ブッシュ政権の内政の看板である大規模減税に対しては、共和党内からもイラク戦争の戦費を理由に小幅な減税にとどめるべきだとの異論が上がっている。戦闘終結宣言はこうした議論を抑え、大幅減税への支持を訴えるうえでも不可欠の儀式だった。
三日には来年の大統領選に名乗りを上げる民主党候補九人が初のテレビ討論会を行うが、その直前の戦闘終結演説は、大統領が今後浮上してくる民主党のライバルに「格の違い」を見せつけておく機会ともなった。
アメリカン大学のアラン・リヒトマン教授(政治学)は「大統領は演説を境に頭の上の軍最高司令官の帽子を半分だけずらし、頭の残り半分には再選を目指す大統領としての帽子をかぶせる」と指摘。この日の演説が、同時テロ以降の強い指導者像を引き続き印象付けながら徐々に「選挙戦モード」に移行して行く節目ととらえている。
写真=1日、米カリフォルニア州沖の米空母エイブラハム・リンカーン艦上で、乗組員に囲まれるブッシュ米大統領(中央)=ロイター
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