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2003/04/10 読売新聞朝刊
[社説]イラク戦争 フセイン政権はもう崩壊した
 
 フセイン・イラク政権の崩壊は、もはや否定しがたいということだろう。
 バグダッド市内で、市民たちによる略奪が始まり、外国人ジャーナリストに付き添っていた情報省職員も姿を消した。
 イラクの政府機能が、全く働いていない。国営テレビ放送は中断したままで、ラジオ放送の出力も弱い。英首相スポークスマンは、イラクの指揮系統が崩壊したようだ、と語った。
 フセイン大統領ら指導部は消息不明だが、イラク戦争は最終局面を迎えた。
 首都の一部で散発的な衝突が続いている。しかし、イラク国民の血をこれ以上、無用に流さないためにも、一刻も早いイラク全軍の即時降伏が望ましい。
 戦後処理を速やかに開始し、復興への道を探るときである。それと並行して、米英軍が制圧した地域で始まったイラク国民による略奪行為を阻止するなど、治安の回復に早急に着手すべきだ。食糧や水、医薬品といった物資の緊急援助にも取り組まなくてはならない。
 フセイン政権が崩壊しつつあるのは、質量ともに圧倒的な米国の軍事力によるものである。
 イラク戦争は先月二十日、イラク政権要人が潜む場所を、ピンポイントで攻撃した「衝撃と恐怖」作戦で始まった。進軍のスピードが一時的に鈍ることはあったが、米英軍は、最速シナリオの範囲内でバグダッドに進攻した。
 イラク正規軍はもちろん、精鋭部隊と目されていた共和国防衛隊や特別共和国防衛隊の抵抗は予想をはるかに下回り、米英による攻撃の効率性の高さと、イラク軍の士気の低さを内外に示した。
 ただ、フセイン大統領の生死が確認できない状況では、楽観は禁物だ。敗北宣言もまだ出ていない。イラク軍が最後の抵抗手段として生物・化学兵器を使い、逆襲に出る可能性も捨てきれない。
 米英首脳は、イラク戦争後をにらみ、暫定行政機構の発足を打ち出すなど戦後統治へ動き始めている。
 復興問題をめぐり、国連が果たす役割などまだ不透明な部分は多いが、フセイン政権が体をなさなくなった以上、できるところからイラク国民に対する援助の手立てを講じるべきだ。
 米英の軍事行動を支持し、戦争の早期終結を願ってきた日本にとっても、状況の進展は歓迎すべきものだ。今後は、戦後復興の面で積極的にかかわっていかなければならない。
 イラクの復興が成って、初めて戦争に勝利したことになる。これからが国際社会にとって正念場と言っていい。
 
 
 
 
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