2003/04/11 読売新聞朝刊
[社説]イラク戦争 正しかった米英の歴史的決断 日米同盟の意義を再確認せよ
わずか三週間で、米英軍は、フセイン・イラク政権を崩壊に追い込んだ。圧倒的な軍事力で、バグダッドを制圧した米軍兵士を、首都住民は「解放者」として歓迎した。
長期にわたる圧政から解き放たれた人々の様子からも、米英の選択が正しかったことが証明された、と言えるだろう。イラク戦争について、まずその点を確認しておく必要がある。
イラクへの対応を巡り、国際社会は分裂した。大量破壊兵器という、世界の平和と安全にとっての重大な脅威を武力で排除しようとする米英と、国連による査察の続行を主張する仏独露が対立し、国連安保理は機能不全に陥った。
しかし、湾岸戦争以降の十二年間、フセイン政権は、国連決議を無視し、あるいは小出しの協力ポーズで乗り切ろうとするなど、大量破壊兵器放棄を明確にしなかった。米英が、武力行使に踏み切ったことは、勇気ある決断だった。
バグダッドでは、本格的な市街戦も起きなかった。しかも、三週間という短期間で大勢が決着したことで、人的犠牲は最小限に抑えられた。
米英軍は、全土を掌握するため、共和国防衛隊などの残党が抵抗を続ける北部で掃討作戦に入っている。フセイン父子の捜索や大量破壊兵器の発見にも全力で当たっている。
米英は、戦後統治へ向けた動きも本格化させている。今月中旬にも、反フセイン派による会合を開き、「イラク暫定行政機構」設立を加速させる。
戦後統治の形態を巡っては、仏独露などが、国連に中心的な役割を担わせることを主張している。これについて米国は、戦争で血を流さず、戦後の利権だけを狙ったものだとして強い不快感を示している。戦争を遂行した米英が主導すべきだ、という米の主張は当然だろう。
首都が陥落し、権力の空白が生まれつつある中で、バグダッドやバスラなどでは、一般市民らが、商店や省庁の建物を襲い、略奪行為を働くなど無政府状態となっている。混乱を収拾し、治安を回復することが、当面、最優先の課題だ。
これに対して、国連に有効な手立てがあるかといえば、極めて疑問である。強力な「国連軍」の編成は可能なのか。編成するにしても相当の時間を要することは明らかだ。米英でやる以外にない。
当面は、軍事力を背景にした米英の庇護(ひご)のもとで、宗教や民族などの相違を乗り越えたイラク各派が、実質的な統治にかかわっていくのが現実的だ。
イラク戦争を巡る顛末(てんまつ)を、核開発を進める北朝鮮などは直視すべきだ。脅威が放置され続けることはあり得ない。
米英の勝利は、開戦前に米国支持を鮮明にした日本政府の対応が正しかったことも裏付けた。
小泉首相は、「国連決議を無視し続けたイラクに非がある」との立場から、米国の武力攻撃支持を決断した。
開戦直後の記者会見では、「米国は、日本への攻撃は米国への攻撃とみなす、と言っているただ一つの国だ。それが大きな抑止力になっていることを忘れてはならない」とも強調した。
北朝鮮が核開発を進めている現実に目を向ければ、大量破壊兵器の拡散問題は日本にとっても他人事ではない。
北朝鮮は、日本を射程におさめる弾道ミサイルを配備済みだ。日本の安全保障上頼りになるのは、国連などではなく、同盟国の米国しかない。
国益の観点から日米同盟の重要性を率直に訴えた首相の姿勢は、国民の理解も得た。読売新聞の三月下旬の世論調査では、米国支持の首相方針を容認した人が七割を超えた。
正しい判断であれば、率直に説明することで、国民の理解は得られる。とかく説明不足を批判される首相である。そのことを肝に銘じるべきだ。
疑問なのは、米国支持の政府方針を批判し続けた野党などの姿勢だ。
民主党は、米国のイラク攻撃を「大義なき戦争」と決めつけたうえで、首相は「国際協調より日米同盟を選択した」とし、「外交の失敗」と批判した。
菅代表らは「安保条約で米国には日本防衛の義務がある」「イラク攻撃に不支持を表明しても日米関係に決定的なマイナスとは思わない」などとも語った。
不見識、無責任な同盟観である。歴史をみれば、同盟条約が簡単に破棄された例はいくらでもある。今回、日本が米国批判を続けていたら、日米同盟に修復しがたい亀裂が入ったことだろう。
仏独は武力行使に反対したが、開戦後は米英の早期勝利を期待する、との姿勢を表明した。民主党などから、そうした声は聞かない。
フセイン政権の崩壊は、国際社会の平和維持において、米国の役割がいかに大きいかを浮き彫りにした。同時に、日本の安全保障にとって、米国との同盟が極めて大事であることも示した。
改めて国益を踏まえた外交の重要性を確認しなければならない。
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