2003/03/21 読売新聞朝刊
イラク戦争、戦略変えた最先端兵器 「米の描く新同盟像」支えるのは・・・(解説)
「イラクの自由作戦」が開始された。米英軍は、圧倒的な軍事力でフセイン政権打倒をめざす。その主役を担う最先端の精密誘導兵器は、戦争のやり方だけでなく、米国の同盟戦略にも変化をもたらしている。(解説部 勝股秀通)
イラク戦争は、フセイン大統領とその一族の所在地に対する、精密誘導兵器によるピンポイント爆撃で始まった。開戦二日間で、米軍は「超」がつくほどに進化させた三千発もの精密誘導兵器を投じることにしている。
米国防総省などの資料によると、ハイテク戦という新語を生んだ一九九一年の湾岸戦争で使われた爆弾は約二十二万七千発、そのうちスマート(賢い)爆弾などと称される誘導兵器は、約一万七千発、全体の7.5%だった。九九年のコソボ戦争で、その比率は約35%に増え、二〇〇一年のアフガニスタンでの対テロ戦争では約60%が誘導兵器だった。それが、今回のイラク攻撃では約80%にまで達するという。
数字以上に違うのは、誘導兵器の性能だ。湾岸やユーゴでは、爆弾を投下する航空機が攻撃目標にレーザーを照射し、その反射波を爆弾が感知するレーザー誘導弾が主流だった。航空機は爆弾が命中するまで目標方向に飛行し続けなければならなかった。レーザー光は空気中の水蒸気やチリに吸収されてしまい、雲や霧、煙などに覆われた悪天候では、爆撃が中止されることも多かった。
それに比べ、今回はB52やF15、FA18などの攻撃機に搭載される爆弾は、ほぼ全弾が、GPS(全地球測位システム)とINS(慣性航法装置)が内蔵された爆弾だ。目標が投下段階で入力されるため、航空機は爆弾を投下すれば引き返すことができる。射程は二十―六十キロだが、悪天候でも目標の位置情報だけで爆撃可能だ。
それでも、空爆の激化に伴って、民間施設や住居などへの誤爆も予想される。民間人の犠牲をできる限り避けるため、今回の作戦で、米軍が初めて本格的に投入するのが、陸軍の地上部隊が攻撃目標に光線銃を当て、その反射光が上空の航空機に伝わり、爆弾を誘導する方式だ。米軍しか持っていない最先端兵器を駆使することで、国際社会が望んでいる戦争の短期終結が実現するかも知れない。
最先端兵器の大量投入がもたらす変化は、戦場での戦術面だけにとどまらない。
超精密誘導兵器によって、消費する弾薬や燃料の量は大幅に少なくなるだろう。実際に、アフガンでの対テロ戦で使用された爆弾の数は、湾岸戦争のわずか5.2%に過ぎなかった。それでも、対テロ戦ではアフガン周辺国に物資の集積場など大規模な補給基地の提供を要請した。だが、今回のイラク攻撃を前に、米軍は同盟国や友好国、周辺諸国に対し、そうした要求はほとんど行っていない。
日本は、湾岸戦争で米国から一緒に“汗を流す”ことが求められた。対テロ戦が始まって以来、海上自衛隊が米英などの艦艇に燃料補給を続けていることもあるが、今回は補給や輸送などの後方支援を含め、米国から軍事的な要求はない。ラムズフェルド米国防長官が「米国一国だけでも攻撃を実施する」と、強気な発言を繰り返していたのも、戦争のやり方さえも一変させるこうした最先端兵器のなせる業なのだろう。
ただ、気になることもある。今年一月の一般教書演説で、ブッシュ米大統領が「連携した諸国を率いて・・・」と表現し、国連安保理に新決議案の採択を求めた際の演説では、同じ意志を持つ仲間という意味で、「有志連合」という言葉を使った。さらに、昨年九月に公表した「国家安全保障戦略」でも、同大統領は「国際的安定に依存する国は、大量破壊兵器の拡散を防止するために協力しなければならない」と述べている。
同盟国であっても、対イラク武力行使に反対するフランスやドイツに言及しないのは理解できる。だが、米国が「同盟国」という表現を用いず、あえて別の言葉を使い続けているのは、たとえ同盟国や友好国であっても、テロや大量破壊兵器の拡散といった脅威を、米国と一緒に共有しない国は、今後、相手にしないという強い意志表示にほかならない。
イラクに武装解除を求める今回の戦争は、追随を許さないほどに進化させた最先端兵器を背景に、米国が新しい国際秩序づくりに乗り出す第一歩ともみえる。
写真=精密誘導兵器を搭載してバグダッド攻撃に備える米軍のFA18ホーネット戦闘攻撃機(空母キティホーク艦上で、9日)=AP
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