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2002/12/31 毎日新聞朝刊
[民主帝国アメリカン・パワー]第1部 イラクとの戦い/2 狙いはOPEC弱体化
◇「フセイン後」の石油権益探り
 今月12日、ウィーンで開かれた石油輸出国機構(OPEC、加盟11カ国)総会は、イラク攻撃に伴う石油危機への懸念が色濃く漂っていた。毎日新聞の取材に応じたラシド・イラク石油相は「米国はOPEC弱体化を狙っている。OPECが自主的に動くのが嫌なのだ」と米国への敵意をむき出しにした。
 米国のイラク攻撃計画を、イラク側は「石油のための戦争」と主張する。世界第2位の埋蔵量を誇るイラクに親米政権を樹立すれば、米国の石油権益は一気に拡大する。OPECに代わって世界の石油供給を牛耳ることこそ米国の狙いなのだ、と。
 今年6月20日、米下院外交委員会の公聴会で、共和党の重鎮、ギルマン議員が質問した。「OPECの法外な石油価格が、米国の世界的な(経済)開発を危うくしている。OPECをつぶす手段はないのか?」
 参考人として出席したギャフニー元国防次官補は「(OPECの)力をそぐのは米国の戦略的利益だ」と応じ、OPEC加盟国に流れるカネは「我々が戦うテロ組織に渡っている」とも指摘した。
 OPECを支配するのは世界の石油埋蔵量の4分の1を持つサウジアラビアだ。昨年9月の同時多発テロの実行犯の多くはサウジ出身。テロは、もともと米国内にくすぶっていた反OPEC感情を増幅させた。国務省高官は「イラクで起きることはOPECの終わりの始まりになり得る」と述べ、米政府が「OPEC体制」の変革を視野に入れていることを示唆した。
 
 湾岸からの石油の安定供給に懸念が強まる中、米国はロシア(旧ソ連)から石油を輸入しないという冷戦時代からの戦略を転換した。
 米テキサス州ヒューストンで、10月1日から米露エネルギーサミットが開かれ、両国は石油分野での関係を強化した。輸入先を分散したい米国と、国際石油市場への進出拡大を目指すロシアの思惑が一致した成果だった。
 ルイス・ギウスティ前ベネズエラ石油公団総裁は、米露の急接近について「米国にはロシアという友人もいる、というメッセージをサウジに送る狙い」と解説する。これを受けてサウジは同月、ロシアの石油輸出量の8割をのみ込む欧州市場で石油価格を下げ、「米露協調」に挑戦するような動きを見せた。
 米露とサウジの駆け引きについて、米国の石油コンサルタント会社「ペトロリアム・ファイナンス」のザノヤン社長は「イラク石油が本格的に開発されれば、ロシア石油は米国には必要なくなる」と指摘し、ロシアは「捨て駒」と強調する。
 対イラク戦が始まり石油供給が混乱すれば、ロシアなどの石油が米国にとって重要になる。だが、中東原油の採掘コストが1バレル=約2ドルなのに対し、ロシアは約10ドルと高い。その意味でサウジは米国にとって重要であり、ロシアはいずれ「親米化」されたイラクにはじき飛ばされる可能性が強いという。
 
 神奈川県・横須賀基地。12月16日、乗員約250人を乗せたイージス艦「きりしま」が米軍支援のためインド洋に向け出港した。防衛庁中枢の人物はイラクの戦後復興にも言及し、「イラクには石油がある。米国のおこぼれにあずかれるかどうか、ということだ」と打ち明ける。
 日本には苦い教訓がある。アラビア石油が1957年に開発に乗り出したサウジ・カフジ油田の契約更改交渉が決裂し、00年2月に採掘権を失ったことだ。欧州在住のサウジ王室に近い筋は「米国がサウジに圧力をかけた」と決裂の背景を証言する。権益拡大を狙う米国が、日本の契約更改を嫌ったというのだ。
 現地で交渉を見守った星出拓・元アラビア石油リヤド事務所長は「米国圧力説」は否定しながらも、「交渉決裂は日本とサウジの外交関係の象徴になっている。サウジは、いざという時に日本に石油を供給するとは決して言わないだろう」と失った権益の重さを指摘する。
 米エネルギー省は11月、米国の原油輸入依存率が2025年に、現在の55%から68%にまで拡大すると予測した。エネルギー安全保障は米国の最重要課題。攻撃反対派には、対イラク戦の準備と石油戦略がコインの裏表と映る。
(「民主帝国」取材班)=つづく
◇OPEC
 60年9月、イラク、イラン、サウジアラビア、クウェート、ベネズエラの5大生産国が創立を決定。現在は11カ国が加盟。最盛期には原油生産の70%を占めていたが、01年には38%に低下。加盟国の埋蔵量は世界全体の8割を占める。来年1月から事実上の減産に踏み切るため、石油価格の高止まりが懸念される。
 
 ■写真説明
 イラク攻撃が始まれば国際石油市場にいかなる影響を与えるのか。世界の金融センター・ウォール街も注視する=加古信志写す
 
 
 
 
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