日本財団 図書館


 一方、POS/MVとDMSのヒーブデータには、両者に振幅の違いが表れている。これは送受波器位置のヒーブ値算出において、船の重心をPOS/MVが設置してある位置と仮定したため、あるいは両者の加速度計の違いを示しているものと考えられる。
 
 ヘディングの誤差は、ソナーヘッドの取り付け角度の誤差と方位センサー自体の誤差も考えられるが、ここでは収録したヘディング値について検証を行った。図24はPOS/MV、GPSジャイロ、コンパスの方位センサーのヘディング値を表したものである。
 
図24. コンパスの方位センサー、GPSジャイロ、POS/MVのヘディングデータの比較
 
 コンパスの方位センサーデータは、POS/MVに比べて、-4度前後のオフセットがある。名古屋港海域の磁気偏差量(真北と磁極の方位との差)は、海図No.1055Aより7.00Wとされており、POS/MVのヘディング値よりも高くなるはずが、逆に低い数値となっている。この原因は、船体磁気またはコンパスそのものに磁気を帯びているためと推定される。
 名古屋港実験のような水深10m以浅の海域では、SeaBat8101の発信間隔が最大30Hzとなるために、収録間隔が1Hzであるコンパスの方位センサーでは、本研究の目標値を達成することはできない。一方、GPSジャイロは、POS/MVに比べてバラツキが目立つ。図中のヘディング1度の変位は、外側ビームで計測された水深値位置誤差が、約67cmとなる。
 POS/MVはデータ収録間隔を50Hzに設定した。図中からでは確認できないが、収録間隔0.02秒に対して、2、3個のデータ(0.06秒)が欠損することがあるが、この時間帯は前後のデータから線形に補間して値を求める。最大、数分間欠損することがあるが、この場合は、本研究の目標値を達成することはできない。欠損の原因は、補足した衛星の数が3―4個の時であり、名古屋港実験のデータを検証した結果、安定したデータ収録を行うためには、6個以上の衛星数が必要であることが確認された。
 
(c)水深データの補正
 水深値とは、最低水面から海底面までの深さである。収録した水深データからこの水深値を求めるためには、様々な補正を行う必要がある。クロスファンビームによる航跡方向の分解能は、プロジェクターアレーの長さによって決定される。一方、航跡方向に直行する横方向の分解能は、ハイドロフォンアレーの大きさによって決定される。探査幅は最大150度(1.5度×101本)となる。主要な測深誤差は、潮汐補正、ロールバイアスと音速度に起因する。本研究では、以下の5つの補正を実施した。
 
(1)ロールバイアス
 バイアス補正には、ヨー、ロール、ピッチバイアスがあるが、それらの中で最も誤差に起因するのは、ロールバイアスである。この影響は斜距離が大きくなる外側ビームになるにつれて大きくなる。これは素子特有のものであり、長期間の温度変化による劣化等が考えられる。名古屋港実験で設定した値は以下である。
ヨー(yaw):-3.8度
ロール(Roll):0.0度
ピッチ(Pitch):+0.4度
 
(2)動揺補正
 音波の発信時及び受信時における動揺補正の内容を表11に示す。
 
表11. 動揺補正
動揺補正項目 動揺補正のタイミング
ヒーブ 発信時及び各ビームの受信時の平均値
ロール 各ビームの受信時
ピッチ 発信時
ヘディング 発信時
 
 クロスファンビーム方式で得られた水深データの動揺補正は、表11に示すように、発信時のヘディング及びピッチ値から送波ビームの方向を求め、各ビームの受信時におけるロール値から両者の交点を求める。ヒーブ値は発信時と各ビーム受信時の平均値を使用する。実際には、一定間隔で収録される動揺データに対して、発信時及び各ビームの受信時の時間に合致したデータは存在しないので、前後の動揺データから線形補間する方式をとる。特に外側ビームの水深値の誤差に影響を与えるロール値については、直下ビームを受信してから外側ビームを受信する極めて短い時間内において、十分なデータを収録する必要がある。したがって、動揺補正に必要な動揺データのサンプリング間隔は、直下ビームと外側ビームを受信する時間間隔以下となる。例えば水深10mの平坦な海底面では、直下ビームを受信してから外側ビームを受信するまでの時間間隔は、0.038秒である。片側50本の各ビーム受信時の動揺を正確に測定するためには、この数値よりも1/50の間隔の動揺データが必要であるが、実際の動揺データからは、0.038秒という極めて短い時間で、1度を超えるような大きな動揺は、認められない。
 以上の結果から、仮に水深が10mで平坦な海底面での計測においては、直下ビームを受信してから外側ビームを受信するまでの時間間隔(0.038秒)と同等以上のサンプリング間隔(30Hz以上)で動揺データが収録できることが望ましい。
 
(3)潮高補正
 潮高の変化による誤差は、各地に設置された験潮所の潮高データを使用することにより、補正が可能である。図25に潮高データの例を示す。
 
図25. 名古屋港実験における気象庁名古屋験潮所の潮高データ
(気象庁名古屋験潮所位置:北緯35度05分28秒、東経136度52分51秒)
 
(4)音速補正及び屈折補正
 音速補正は音速プロファイルの情報が不可欠であるが、日中の移動距離(海域の変化)、河口付近における水温変化、太陽熱による表面水温上昇等のパラメータによる影響も考えられる。しかし、名古屋港及び扇島南東沖実験の調査海域のように、非常に狭い範囲内で短時間の測量においては、これらのパラメータによる影響は、無視できるものと考えられる。音速プロファイルの例を図26に示す。
 
図26. 名古屋港内の音速プロファイル(11月14日午後2時52分に収録)
 
 一方、屈折補正はスネルの法則を用いる。図27に示したように音速V1の媒質から音速V2の媒質に入射した音波の角度がΘ1からΘ2に変化したとすると次式が成り立つ。
 
図27. スネルの法則
 
 図28は、図26.の名古屋港内の音速プロファイルを用いて算出した音波の海底面への入射補角に対する屈折の変位を表したものである。青線は1m毎の音速プロファイルを用いて屈折補正を行った場合の変位、赤線は2m毎の音速プロファイルを用いて屈折補正を行った場合の変位を示す。音速プロファイルが無く、屈折補正が未実施の場合も同様にプロットした。水深10mの平坦な海底において、外側ビームで計測された水深点は、1m毎の屈折補正で得られた約0.8度の変位により、水平距離で2.0mの補正が可能となる。また2m毎の屈折補正との差は、水平距離で約5.2cmとなり、目標値に比べて十分に小さい。
 
図28. 入射補角に対する屈折の変位







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION