(5)喫水補正
測量船の喫水値を使用する。名古屋港実験での測量船いせしおの喫水は0.8m、扇島南東沖実験のはましおの喫水は1.08mであった。
(6)不良データの除去
(1)〜(5)までの補正を実施しても不良データが残る場合がある。図29は入射補角40度を超える外側ビームで計測された水深値の不良データの例である。
不良データの最大の要因は、入射補角が40度を超える外側ビームにおいて、照射覆域が急激に大きくなるため、データ密度の均一化が困難となり、結果として動揺センサーなどの誤差成分への関与が増加し、測深精度が劣化するためである。またロールバイアスの設定による原因も考えられる。メーカーによる報告では、このような症状は素子特有のもので、長期間の温度変化による素子の劣化等が考えられるそうである。
不良データをそのまま使用すると地形歪み除去を行う上で誤った補正を行う原因となるため、近傍の水深値に比べて著しく異なる点を手作業によって削除した。
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図29. 外側ビームで計測された不良データの例
(1)〜(6)の補正後の地形図を図30に示す。図からは判別できないが、測位データや動揺センサーの精度による水平方向及び垂直方向の誤差が含まれているものと推定される。音速補正、ロールバイアス、ピッチバイアスによる誤差も考えられるが、同図からは認められない。以上の結果から、同図は地形歪み除去に十分使用可能な水深データであるものと判断した。
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図30. 各種補正後の地形図(グリッドサイズ30cm)
(7)グリッドサイズの選定
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図31. グリッドサイズを60cmにした場合の地形図
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図32. グリッドサイズを30cmにした場合の地形図
水深データのグリッドサイズの選定は、地形歪み除去精度に大きな影響を与える。グリッドサイズの選定には、各ビームの照射覆域を考慮する。名古屋港の実験海域は、水深約10m弱であり、送受波器直下の照射覆域の大きさは、約26cm四方となる。ターゲットの大きさが、1.8m四方であることから、グリッドサイズを30cmとすると、6×6のグリッド数で表現することができる。
図31及び図32は、ターゲット周辺域をグリッドサイズ60cmと30cmで表した地形図である。グリッドサイズ60cmは、それぞれのターゲットの高さを把握することはできるが、ターゲットの設置方向を確認することはできない。グリッドサイズ30cmは、グリッドサイズが60cmに比べて細かいために、ビームとビーム間の抜けが顕著に表れているものの、ターゲットの高さ及び設置方向を明瞭に確認することができる。またターゲットの台の上に設置した高さ50cmのベニア製箱を捉えていることから、30cmが妥当なグリッドサイズであると判断した。
また入射補角40度以内においては、各ビーム間の水平距離間隔が外側ビームよりも狭いために、この範囲内にターゲットがあれば、密度の高いデータ収集を実施することができる。
扇島南東沖実験海域の地形図を図33に示す。図は20測線分のデータから作成したものである。
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図33. 扇島南東沖実験海域の地形図
(4)水深データの水平方向の誤差の検証
名古屋港実験の水深約10mを考慮し、水深10mにおける各ビームの伝搬時間、送受波器直下からの水平距離、照射覆域について検証を行った。
(a)水深データの水平距離の誤差
水平距離の誤差は、測位、音速補正、屈折補正、動揺センサーの精度(特に各ビーム受信時のロール誤差)、潮高補正、喫水補正から生じる。
入射補角40度を超える外側ビームで計測された水深値は、ビーム間の測深間隔が粗くなることを考慮すると、水平距離の誤差の大きな要因は、音速補正を含む屈折補正及びロールセンサーの測定誤差によるものと考えられる。屈折による誤差は、図28で示したように、屈折補正を実施しなければ、外側ビームにおいて約0.8度の変位が生じるが、綿密な音速プロファイルの収録により、水平距離で2m弱の補正が可能となり、誤差を最小限にすることができる。
POS/MVのロールの測定精度は、0.02度(±30度)であり、同様に水深10mの平坦な海底面で例えると、外側ビームにおいて水平距離で±5.2cm以内となる。したがって水平方向の誤差は、ロールの測定誤差よりも屈折補正の影響が大きい。
図34は、水深データの入射補角に対する伝搬時間の関係、図35は送受波器直下からの水平距離の関係を表したものである。共に水深10mとした。クロスファンビーム方式のため、送受波器直下ビームから外側ビームになるにつれて測深間隔が粗くなる。入射補角が40度付近から、送受波器直下からの水平距離が大きくなることが分かる。
図34. 各ビームの入射補角に対する伝搬時間の関係
(水深10m、音速1500m/sの場合)
図35. 各ビームの送受波器直下からの距離
(水深10m、音速1500m/sの場合)
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