日本財団 図書館


2 ダグラス・ブルックスさんの招聘
◎日本財団助成事業内容
(1)「たらい舟」公開製作
 米国の和船研究家Douglas Brooks氏を新潟県立歴史博物館へ招聘し佐渡の「たらい舟」の公開製作を実施する。
 
(2)「消えようとする伝統技術の復元・継承」というテーマでの記録映像の製作
 Douglas Brooks氏の活動を映像記録化する。内容は、以下の通りである。
・Douglas Brooks氏の「たらい舟」の設計図作りにかかわる努力
・最後の「たらい舟」職人、藤井さんとDouglas Brooks氏
・Douglas Brooks氏の佐渡での調査の様子とかかわる佐渡の人々
・Douglas Brooks氏の技術継承の取り組み
・たらい舟による漁獲方法
・地元での復元・継承の動きの起こり
・県立歴史博物館での公開製作と県民の関心
・氏の目指すもの(和舟プロジェクト等)
 
(3)製作した記録映像により県民に啓発していく。
 製作する記録映像は、20分前後のものと4分前後のものの2種類を製作する。前者は、佐渡の子どもたち等への普及啓発用ビデオとし、後者は、県立歴史博物館の来館者に対する普及啓発映像とする。
 
(4)製作した記録映像を使用した佐渡での「出前授業」の実施
 新潟県佐渡郡小木町の小学校で新潟県立歴史博物館の職員が「出前授業」(出張授業)を行い、消えゆく「たらい舟」の製作技術についてやDouglas Brooks氏の活動について、共に考えながら、普及啓発していく。
 
(5)事業目的
 日本の和船の製造技術は、伝統的に親方から弟子に受け継がれてきたが、製造のためのマニュアルや図面はなく、技術は体全体で徹底的に仕込まれ、微妙な製作にかかわる技術も勘を磨き込まれて、これまで継承されてきた。近年、後継者難から和船製造の技術は急速に現代社会から消えようとしている。新潟県の佐渡地方で使用されている「たらい舟」もこの例外ではない。製造技術を後世に残すために米国のDouglas Brooks氏が丹念に調査・記録を行っている。現在、後継者がほとんどいない状況においては、氏の活動は特筆すべきものである。今回の事業目的は、氏の活動を映像化することにより、県民に対して伝統技術継承について啓発していくものである。また、地元佐渡の子どもたちと共にこの現状を考えて行こうとするものである。
 
(6)事業目標
(1)Douglas Brooks氏による佐渡の「たらい舟」公開製作
 Douglas Brooks氏を新潟県立歴史博物館に招聘し、「たらい舟」の公開製作を行う。これにより米国青年が、消えようとしている佐渡の「たらい舟」の技術継承に懸命に取り組んでいることを県民に知らせていく。また、このような和船の製作技術を始めとした日本の伝統技術が、現在、消えつつあることに気付かせていく。
 
(2)「消えようとする伝統技術の復元・継承」というテーマでの記録映像の製作
 新潟県立歴史博物館での公開製作と氏の佐渡での技術継承のための諸活動並びに「たらい舟」にかかわる調査活動を映像記録化し、啓発のための媒体としたい。内容は、消えようとしている「たらい舟」の製造技術を、米国の青年が、懸命に後世に伝えようと取り組んでいること、彼の情熱と彼を支援する佐渡の人々の心、そして、地元で復元に取り組もうとする動きが出てきた点について、とする。映像は難解にならないように編集・制作し、小学校高学年でも教育利用できる内容にする。また、新潟県立歴史博物館の映像情報コーナーでも鑑賞できるように、短時間での編集も試み、来館者への啓発を図りたい。
 
(3)記録映像をもとに佐渡の子どもたちと共に考える授業の創造
 佐渡の教育委員会や学校と連携し、記録映像をもとに普及啓発を図りたい。具体的には、佐渡郡の小木町の小学校において、博物館職員が記録映像を利用した「出前授業」を行い、子どもたちとともに「たらい舟」造りの現状について、共に考えていきたい。
 
(7)事業成果物
(1)記録映像(20分前後のビデオ)
 佐渡の小中学校・教育関係機関・行政機関・観光施設等への配布、県内教育関係機関・希望団体への配布用
 
(2)記録映像(4分前後のデジタルデータ)
 新潟県立歴史博物館の映像情報コーナーでの観賞用、希望者への配布
 
(3)記録映像を利用した佐渡での「出前授業」のレポート(館内印刷)
 佐渡の小中学校・教育関係機関・行政機関・観光施設等への配布、県内教育関係機関・希望団体への配布用
 
◎公開製作の概要
 
(7)「復活!!たらい舟」展とダグラス・ブルックスさんによる「たらい舟」公開製作
 新潟県立歴史博物館では、去る4月12日から10日間、米国人ダグラス・ブルックスさんを招き、たらい舟の公開製作を行い、併せて、小企画展「復活!! たらい舟」を開催した。まず、その概要について触れてみたい。
 当企画展では、新潟県内に残る消えゆく伝統技術の1つとして「たらい舟」を取り上げた。この展示を通して、伝統的な技術(造り方・漁法等)が、地元の自然条件に対応したものであり、かつ、地元の素材そのものの特性を生かしたものである点を強調しながら、消えようとしつつある技術を継承とする動きが出てきた点を、ダグラス・ブルックス氏の活動と地元小木町での「たらい舟職人養成講座」等を取り上げながら、地元が一体となって伝統技術の継承に取り組んでいる様子を、技術消失の危機打開のための典型例として展示啓発を試みた。
 日本の和船の製造技術は、伝統的に親方から弟子に受け継がれてきたものの、製造のためのマニュアルや図面はなく、技術は体全体で徹底的に仕込まれ、微妙な製作にかかわる技術も勘を磨き込まれて体得するという伝承方法しかなかった。近年、後継者難から和船製造の技術は急速に現代社会から消えようとしており、新潟県の佐渡地方で使用されている「たらい舟」もこの例外ではないが、幸い製造技術を後世に残すために米国のブルックスさんが丹念に調査・記録を行い、自ら製作技術をも会得している。昨年までの後継者がほとんどいない状況においては、氏の活動は特筆すべきものがあった。氏の「たらい舟」の公開製作が助成を得て実現可能となったことで、この展覧会を併せて行い、伝統技術についての啓発を行うことは当館の役割として重要と考えた。
 
(8)ダグラス・ブルックスさんの紹介
 氏は、米国ウィリアム大学で海洋学を、オレゴン大学とトリニティ大学で哲学、文学、宗教学等を修めた。2000年、マサチューセッツ州ピボディーエセックス博物館世界船舶展でたらい舟を製造。1997年、ヴァーモント州シェルバーン博物館で1906年建造の大型外輪蒸気船を修復。1994年から現在まで、マサチューセッツ州ケンダル捕鯨博物館の顧問研究員。これまで多くの博物館で古船の修復・復元に携わってきた。また、最近は和船建造の技術に関心を持ち、日本各地の海洋博物館を訪ねている。氏は、米国フリーマン財団の支援を受け、この秋から和船プロジェクトを立ち上げ、消えつつある伝統技術を細部にわたり記録し、後世において復元が可能となるように活動を行う。
 
(9)ブルックスさん招聘のきっかけ
 ブルックスさんを招聘するきっかけは、当県内に居住する中学校の美術教師荒川洋子さんからのメールに遡る。荒川さんは、2年前にアメリカを旅行した時に、ブルックスさんがピボディーエセックス博物館でたらい舟を製造しているところに遭遇し、氏と友人となった。そして帰国後、たまたま私にメールを送ってきたのである。「アメリカ人のたらい舟職人がいると」そんな、ところから話が進んでいき、日本財団の助成を得て、氏を招聘することが実現したのである。
 
(10)公開製作の意義
(1)公開製作と展示の一体化
 今回の企画展の目玉が、この公開製作であったが、製作場所をどこで行うかについては、直前までもめた。企画展示室前のロビーや館外のスペース等も検討されたが、最終的に企画展示室で行うことにした。懸念材料は、ほこりやカンナ屑が出る点、そしてタガを組む作業スペースの問題やその安全性、タガを締める時の衝撃の問題等であった。これらは予測したほどの問題とはならなかったが、虫に若干悩まされた。冬寝かせていた材木であったため小型のカミキリムシ?が大量に発生したが、燻蒸担当の奮闘により、1日で駆除できた。
 やや話が横道にそれたが、一枚の材木が加工され、少しずつたらい舟が完成していく様子は、見ていて楽しいものであった。中には、じっと1時間くらい眺めているお客様も多くいた。地元民放局も経過を連続して放映してくれ、県民の関心も高まったといえる。公開製作中の不安は、その終了後の企画展示室が空洞化することであった。案の定ブルックスさんがいなくなってからの展示室は○○を入れないコーヒーのようであった。救いは、テレビを見て、来てくれた子ども連れのお客さんたちが、たらい舟を見つけて「これだ!これだ!」と記念撮影してくれたことである。
 
(2)たらい舟作りの技術継承の実現
 今回の公開製作にあたり佐渡の若手大工である樋口隆さんへの技術伝承も行われた。樋口さん曰く「日本人が、アメリカ人から日本の伝統技術を習うという点について、複雑な気持ちです。日本の伝統技術のすばらしさを、なぜ、日本人が気付いてこなかったのか」。樋口さんは、ブルックスさんの弟子という形で、今後も技術伝承に取り組んでいく。当館での公開製作後、2人は佐渡で鼓童文化財団の支援のもと製作技術の向上(特にタガ組)を図るために様々な調査活動を行った。
 
(3)外国人の目を通して、失われつつある地域の伝統文化を見つめ直す契機に
 樋口さんのところでも述べたが、日本人の手によって継承されない地域の伝統文化が、今、外国人の目によって評価され技術継承への試みが行われていることについては、失いかけた地方文化に対する自信の回復という点で、注目すべきことである。この事例を通して、身近な伝統文化を見つめ直す起点としたいものである。
 
(4)マスコミを活用した地域の伝統技術継承についての啓発
 いろいろな意味で今回の公開製作は、多くの反響があった。予定外の信濃川での進水式を行ったのも、ニュース性を持たせることにより、多くの人たちに地方文化の現状に気付いてもらいたかったからである。多くのテレビ報道により、地元で技術継承に取り組み始めた人たちにも刺激を与えている。今後、より多くの人たちが、「たらい舟の文化」の継承に関わっていくことを願うものである。
(musee掲載文章より)
 
3 「復活!! たらい舟」ビデオの制作
 日本財団の助成により、たらい舟の文化とその伝承にかかわる映像製作に取り組むことができた。以下は、その映像の概要である。
 
【復活!たらい舟〜消えゆく技術の継承〜】映像の概要
 
●プロローグ
佐渡観光イメージ、たらい舟、たらい舟イメージ、佐渡地形
●たらい舟の漕ぎ方
観光舟、櫂、ケイビキ
●たらい舟による漁
磯ネギのシーン、ベテラン漁師坂口良吉氏インタビュー(魚貝の生態と海底の地形、潮流の把握)、磯ネギの道具(ヤス、ケイカギ、カマ、モゾクトリ、イゴトリ、タコカギ、タコヤス、サザエヤス、ケエベラ)、高藤一郎平氏インタビュー(漁具の機能と使用する木の性質)
●最後のたらい舟職人
最後のたらい舟職人藤井孝一氏について、藤井氏製作シーン
●ダグラス氏と藤井氏
ダグラス氏製作シーン(新潟県立歴史博物館公開製作場面)、信濃川での進水式シーン、ダグラス氏インタビュー(日本で活動する理由・やりたいこと、和船やたらい舟の魅力、子どもたちへのメッセージ)ダグラス氏製作シーン(佐渡で)、ダグラス氏弟子の樋口氏インタビュー(日本人としてダグラス氏の活動をどのように考えるか)
●タガの技術
ダグラス氏の味噌蔵調査、ダグラス氏の元樽職人への聞き取り
●地元での復元・継承の動き
小木町主催たらい舟職人養成講座風景(元桶職人本間勘次郎氏指導)、本間勘次郎氏インタビュー、本間氏のダグラス氏へのタガ組み指導、鼓童稽古風景、菅野敦司氏インタビュー(鼓童のたらい舟保存事業)
●残したい「たらい舟の文化」
佐藤利夫氏インタビュー(たらい舟作りの技術)
●エピローグ
フラッシュバック







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