3.3. クランク角度検出方法の検討
3.3.1 クランク角度検出機器の調査・検討
クランク角度の検出に使用する各種機器の調査を行い、4ストロークエンジンの燃料噴射制御装置として対応可能な機器の検討を行った。
表1に各種機器の調査結果をまとめたものを示す。
表1 クランク角度検出機器の調査結果
検出機器 |
絶対位置検出 |
コスト |
応答性 |
耐振性 |
光学式アブソリュートエンコーダ |
○ |
高 |
○ |
× |
磁気式アブソリュートエンコーダ
(レゾルバ) |
○ |
高 |
× |
○ |
近接スイッチ |
× |
低 |
× |
○ |
電磁式ピックアップ |
× |
低 |
○ |
○ |
|
(1)光学式アブソリュートエンコーダ
絶対位置の検出が可能であり、性能も仕様を満足する。しかしエンコーダ内に用いられているスリットの入った円盤状のプレートが振動に弱い為、機関付きで使用するのは難しい。
(2)磁気式アブソリュートエンコーダ(レゾルバ)
振動や温度などの耐環境性において優れており、絶対位置の検出も可能であるが、エンコーダからの信号を角度情報へと変える変換器が必要であり、変換速度も遅いので検出角度の精度が確保できない。またコストも高い。
(3)近接スイッチ
コストも安く悪環境での使用も可能である。ただし応答周波数が低い為、4ストロークエンジンの回転数に対応できない。
(4)電磁式ピックアップ
コストも安く、耐環境性及び応答周波数も仕様を満足する。ただし絶対位置の検出ができない。
以上の内容を検討した結果、クランク角度の検出には、絶対条件である応答性や耐環境性、コストの項目を満足している電磁式ピックアップを使用することにした。電磁式ピックアップで検出できない絶対位置に関しては、回転を検出する歯車に基準点を設け、基準点からの歯数により角度を算出することで対応する。
3.3.2 クランク角度検出の為の入力信号
(1)回転パルス信号
クランクシャフトもしくはカムシャフトに設けられた回転検出用歯車の歯を、電磁式ピックアップにより検出し信号を得る。
(2)カム信号
4ストロークエンジンは“1サイクルー2回転(720°)”である為、回転パルス信号をクランクシャフトから検出する場合は、カム信号を検出して回転角度を特定する必要がある。(図2、3)
(3)基準点信号
基準点信号は、回転パルスからクランク角を検出する為に必要となる信号である。基準点信号は2通りの検出方法があり、1つは回転検出用歯車に基準点用の加工を追加して、専用のピックアップからその信号を得る方法である(過剰歯)。もう1つの方法としては、回転検出用歯車の歯を1つ欠けた状態で製作し、回転パルス信号のパルス間の周期から基準点を認識する方法である(欠落歯)。
図2. カム信号
図3. 回転パルス信号、基準点(欠落歯)
3.3.2 クランク角度検出アルゴリズム
(1)基準点の検出方法
回転パルス間の周期を常に測定し、欠落歯形の場合は1つ前の周期と比較して例えば1.5倍の周期になった場合には、その箇所を欠落歯と見なす(図4)。逆に過剰歯形では歯形の間隔が短くなるので、同様に前の周期と比較して設定した倍率よりも短い周期、例えば0.5倍の周期のパルスが入って来た場合には、そこを過剰歯と見なす。このようにして検出した信号の次の回転パルスを基準点とする事で、絶対位置を得る事が出来る。
図4. 基準点の検出方法
(2)クランク角度の検出方法
回転パルスは、クランク軸に設けられた歯車の歯の凹凸を検知し、ON/OFF信号を返す。このため、回転パルスの周期は(360°/歯数)の角度となる。基準点からの回転パルスの数を数えることにより、基準点からの角度を知ることが出来る。しかしこの方法では、(360°/歯数)の角度精度しか得られない。そこで更に、回転パルスの周期を時間により細分化することで、任意の精度での角度を算出することが可能となる。すなわち、細分化したい回転パルスの周期は、直前の周期と同じ時間かかるものと仮定することで、求めたい角度までの時間を算出できる。
((細分化したい角度/(360°/歯数))*直前の周期)。この方法により、計測時間の精度が確保されれば、十分な精度での角度検出が可能となる。
例えば回転パルス検出用歯車の歯数=60歯で、基準点からのクランク角度=50°の検出を行いたい場合を考える。
回転パルス間の角度は360°/60歯=6°となり、クランク角度50°は、歯車の9歯目(48°)と10歯目(54°)の間に存在することが分かる。そして、9歯目から2°後の位置にある50°を求めるための時間Tを算出する。
T = 8歯・9歯間の周期 *(50°-48°)/6°
[歯数60]
時間の測定は基準クロックをカウントする事で行っており、回転パルス間の周期は、基準クロックでもって得られた回転パルス間のカウント数が周期に相当する。前式で得られた時間丁の場合も、基準クロックで何カウント目かを算出し、カウント数と一致した時点が検出角度となる。
3.3.3 クランク角度検出精度の確認
回転パルス信号よりクランク角度を求める場合、考えられる誤差について考察する。目標とするクランク角度の検出誤差は±0.1°以下である。想定は角度誤差が最大となる機関の最高回転数で行った。
(条件) |
機関回転数:N=2500rpm、歯数:H=60歯 |
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基準クロック:C=1μs |
設定条件を基にクランク角度の検出誤差を計算すると、
クランク角度検出誤差=0.061°
本計算の設定は最高回転数で行っている為、実際のクランク角度の検出誤差は0.061°よりも小さくなる。その結果、目標としていた角度誤差+0.1°よりも小さくなる為、燃料噴射制御を行う上で問題の無いレベルであると考えられる。
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