9. 4 ストロークディーゼル機関燃料噴射制御の調査研究
(株)ナブコ
1. 調査研究の目的
舶用ディーゼルエンジンから排出される窒素酸化物NOXは大気汚染の原因の一つとして、その低減が求められており、IMOは外航船に対し段階的にNOX排出量の低減を義務化する規制を実施する。この規制の第二次レベルをクリアする方法として、噴射圧力の高圧化、プリ噴射・ポスト噴射・断続噴射などにより各負荷状態において最適なタイミングで燃料噴射制御する方式が有効であると考えられている。
一方、将来規制化されると予想されるCO2排出量の低減については、燃費の低減が有効であることがわかっており、燃料噴射の最適制御方式は燃費低減も兼ね備えているため、将来NOX規制が強化された場合も、根幹となる方式である。
4ストロークエンジンにおける燃料噴射の最適制御を国内において普及させるには、日本の船主やエンジンメーカは海外品より国産品を要望する傾向にあるため、燃料噴射機器を自由に最適制御する部分の調査研究・開発・製品化を国内で手掛ける必要がある。本調査研究では、舶用4ストロークディーゼルエンジンを対象とした、燃料噴射の最適制御装置を製品化し、普及促進につなげる。
2. 実施経過
2.1. 実施項目
本研究では以下の項目について実施した。
1. 4ストロークディーゼル機関燃料噴射装置としての要件及び必要機能の調査
2. 電磁弁高速駆動方法の検討
3. クランク角度検出方法の検討
4. 燃料噴射装置の仕様検討、設計、製作、実験
2.2. 実施期間
開始:平成14年 4月1日
終了:平成15年 2月15日
2.3. 実施場所
実施場所:株式会社ナブコ 技術開発本部
3. 実施内容
3.1.4 ストロークディーゼル機関燃料噴射装置としての要件及び必要機能の調査
本燃料噴射装置を設計するにあたり、対象とする4ストロークディーゼル機関は、標準的な舶用主機、舶用補機関を想定した。その概略仕様を下記に記す。これら対象となる舶用4ストロークディーゼル機関に関して、各種の燃料噴射系に汎用的に対応可能となる燃料噴射装置の調査を行った。
想定エンジン仕様 |
・用途 |
:舶用主機、舶用補機 |
・エンジン回転数 |
:Max. 2500rpm |
・制御シリンダ数 |
:Max. 18気筒 |
・出力レンジ |
:400kW〜4000kW |
(1)燃料噴射システム
現在、舶用4ストロークディーゼル機関における燃料噴射システムは、増圧方式と蓄圧方式の2種類に大きく分類される。増圧方式はユニットポンプシステム(UPS)と呼ばれるもので、カムによって増圧された燃料を燃料噴射ポンプに設置された電磁弁により、噴射タイミングや噴射量を制御する方式である。蓄圧方式はコモンレイルシステム(CRS)と呼ばれ、高圧燃料ポンプで昇圧した燃料をコモンレイルに蓄圧し、電磁弁付きの噴射弁で燃料噴射を制御するものである。
(2)基本機能
i)電磁弁高速駆動機能
ユニットポンプシステム、コモンレイルシステム、どちらの燃料噴射システムに対しても、電磁弁を駆動することで燃料噴射タイミングや噴射量の制御を行う。その為、燃料噴射制御装置としては高速にかつ正確に電磁弁を駆動する機能が必要となる。
ii)噴射タイミング制御機能
電子的に燃料噴射を行う場合、メカ式と違い噴射タイミングを自由に変更することができるので、機関回転数や負荷率に応じて最適の噴射タイミングで燃料を噴射することが可能となる。例えば燃費を重視した噴射タイミングやNOX低減を重視した噴射タイミングに設定することも可能である。このように機関の状況や設定などを基にして、最適な噴射タイミングを算出する機能が必要となる。
iii)クランク角度検出機能
最適の噴射タイミングで燃料を噴射することは、燃料噴射装置にとって非常に重要な要素である。正確な噴射タイミングを実現する為に、機関クランク軸の回転角を精度良く検出することが要求される。
iv)ガバナ機能(速度制御機能)
舶用主機の場合回転数制御を行うので、機関回転数を一定に保つガバナ機能が必要となる。具体的には設定回転数と実回転数の偏差から、燃料噴射量が決定される。
v)異常診断機能
機関保護の為に異常診断機能が必要となる。燃料噴射用電磁弁に対する過電流や断線、回転パルスの異常、など各種の異常検出を行う。
(4)補助機能
i)高圧ポンプ圧力制御機能
コモンレイル内の燃料圧力を圧力センサにて検出し、機関の回転数、負荷に応じた最適値に調整・制御を行う必要がある。
ii)減筒運転機能
機関への負荷が少ない時など微小量の燃料噴射が要求されるが、精度的に難しい場合がある。このような場合、燃料を噴射する気筒数を減らして運転を行う減筒運転機能が有効となる。
iii)過給機制御機能
過給機の運転台数の増減をエンジン回転数に応じて制御する必要がある。
3.2. 電磁弁高速動作方法の検討
3.2.1 電磁弁高速動作時の電流波形
電磁弁はコイルの性質上、動作遅れが発生する。この動作遅れを改善する為には、電磁弁に流れる電流を素早く立ち上がらせる必要がある。電磁弁を高速に駆動する方法として、まず電磁弁に電圧を与え、規定の電流値まで電流が流れると、コイルが焼損しないように制限をかける(ピーク電流)。最初に大きな電圧を与えることで、電磁弁の動き出しを早くする事が出来る。電磁弁の動作が完了した後は、消費電力や発熱を抑える為に、その状態を保持するだけの低い電流値へと切り替える(保持電流)。図1に今回想定した電磁弁駆動時の電流波形を示す。
図1 電磁弁高速動作を行う為の電流波形
3.2.2 電磁弁電流制御機能の検討
ピーク電流や保持電流など電磁弁に流れる電流を制限する方法として、固定によるPWM制御と電流フィードバック制御の2方式の調査・検討を行った。
(1)固定によるPWM制御方式
タイマーを利用して予め設定した周期、デューティー比で電磁弁を駆動する信号を出力し、一定の電流値になるよう制御を行う。
(2)電流フィードバック制御方式
実際に流れる電流値を検出し、設定された電流値になるように電磁弁の駆動を制御する。
今回製作する燃料噴射制御装置では、電流検知制御方式を採用する。固定によるPWM制御方式では、設定する周期・デューティー比を決定する為に試験を行う必要があり、また駆動する電磁弁の特性の違いによっても設定値が変わることが予想される。その点電流検知制御方式は実際に電磁弁に流れる電流を制御する為、どのような電磁弁にも対応可能であると考える。
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