4. 調査研究の成果
4.1 まとめ
4.1.1 DME燃料利用時の経済性調査
近い将来、DMEを主機関の燃料として使用する可能性の高いDMEタンカーを対象に、DMEを燃料とした場合のランニングコストならびに入港料など運航時のインセンティブや外部コストについて一定の仮定のもとに試算を行い以下のような知見を得た。
1) |
DMEはLPGやメタノールに代替する燃料として期待されており、その供給コストは、2.5〜3.5$/MMBTU(1.1〜1.6円/千kCal)と予想され、LNGのコストとほぼ同等もしくはそれより小さくなることが予想された。 |
2) |
一方、低NOx、低SOx機関に対するインセンティブ制度は、海外を中心に存在するものの、代替燃料使用時に燃料費そのものを対象としたものは存在しなかった。このため、現時点におけるランニングコストは、C重油使用時の1.7倍程度になると試算された。 |
3) |
しかし、仮に、SOxおよびNOxの排出量に比例した外部コストを見込んだとしても、欧州における現状のインセンティブ制度から推定した金額では、燃料のコストアップはほとんど吸収できない。 |
4) |
但し、A重油専焼の場合とはほぼ競合できる範囲に有り、場合によってはA重油使用より経済的になる可能性もある。 |
4.1.2 DME燃料燃焼試験及び解析
軽油とDMEを用いて燃料噴射タイミング変更試験を行い、両者の性能比較や排ガス組成の比較を行った。また、DMEによる燃料噴射パターン変更試験や燃料噴射圧変更試験を行った。その結果、当該試験範囲においては、以下のような結果を確認した。
1) |
DMEの着火性は非常に良好であり、着火遅れは軽油と同等、もしくは若干短くなる。 |
2) |
シリンダ内最高圧をほぼ一致させた場合(燃料噴射タイミングを一致させた場合)、熱効率はDMEの方が優れているが、NOxは軽油燃焼の場合よりも若干高めとなる。しかし、熱効率を一致させた場合には、DMEの方が1〜1.5割程度低くなる。 |
3) |
煙濃度の比較では、DME使用時は軽油使用時の1/10〜1/30程度であり。すすが少ない非常にクリーンな排ガスとなる。 |
4) |
燃料噴射パターンを変更することにより、NOx排出量を0〜50%程度の削減まで容易にコントロールできる。しかし、ある程度の効率低下は伴う。一方、煙濃度(ばいじん)は、多少の増加はあるが、効率が低下しても軽油燃焼の煙濃度に比べると、絶対量としてはほとんど無視できる量である。 |
5) |
燃料噴射圧には最適値がある。(燃料噴射圧の調整により、NOxと効率を最適化できる可能性がある。噴射圧が高ければよいというものでもない。) |
以上のように、DMEの燃焼性能(熱効率)及びNOxの排出率は、軽油燃焼に比べ、優るとも劣らない性能を有し、特に煙濃度は桁違いに少ないことが確認できた。このことは、NOx削減のためにはEGRの適用も非常に容易であることを示すものであり、大幅なNOxの削減を可能にすることができる。
また、今回試作を行った様式と同類の燃料噴射システムを採用すれば、機関の運転中でも自由に噴射パターンを変更することが可能であり、特定地域の環境規制等に応じて、NOxを自由にしかも柔軟にコントロールすることが可能になると考えられる。
4.2 今後の課題
DMEは環境特性やエネルギーセキュリティーの観点から、将来有望なクリーン燃料になる可能性を有している。しかし、現状では、供給やコストの面では従来の舶用燃料(C重油)に比べかなり劣っており、実用化のためにはDMEを大量にかつ安価に供給できる製造技術の開発と流通インフラの整備が要求される。
しかし、一方では需要サイド(エンジン側)がこれを後押しできる、新燃料の実用化に向けた技術開発も必要であろう。すなわち、従来燃料と比べて燃焼性能には問題となる点はほとんど無いと考えられるので、DMEを使用した場合の環境に対する付加価値をさらに高めるような適用技術の開発が必要である。
例えば、EGRの適用による大幅なNOx削減や、電子制御燃料噴射による効率向上とNOx削減など、必ずしもDME燃料に限定された技術課題ではないが、近年自動車用機関では当たりまえとなりつつある新技術を舶用機関にも早急に取り入れ、クリーン燃料の特徴を更に引き出す努力が必要と考えられる。
引用文献
1) |
「DME検討会」報告書(平成13年)、資源エネルギー庁資源・燃料部石油流通課・財団法人エルピーガス振興センター・日本LPガス協会 |
2) |
低公害・代替燃料自動車に関する技術開発動向・普及状況・施策の調査報告書(平成11年度)、(財)運輸低公害車普及機構 |
3) |
「内航船の近代化に関する研究」報告書(平成6年)、(財)シップ・アンド・オーシャン財団 |
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