4. 超高効率・高出力・低公害舶用内燃機プラント開発の調査研究
三菱重工業(株)
1. 調査研究の目的
舶用内燃機関における高出力化・高性能化・コンパクト化への要求が持続拡大する一方で、CO2削減および公害物質の排出抑制は至上の命題である。先行する自動車用内燃機関の排出規制は、将来あらゆる内燃機関を含めた熱機関全てへと波及することは必至で、その規制に先んじて超高効率低公害舶用内燃機関を開発し実用化することは、社会経済並びに舶用工業に対する計り知れない貢献を果たす。
本調査研究では、出力数MW〜十数MWクラスの内燃機プラントを対象として、革新的な性能改善を実現する「排熱回収エネルギー筒内帰還型内燃機関」のF/Sに取り組む。
本システムは機関の排熱利用で高温高圧水を生成し、それを内燃機関の筒内に噴射して、効率・出力向上、および有害排出物の低減を図るものである。本年度はシステムの実機実現性の確認を目的に取り組んだ。
2. 実施経過
2.1 実施項目
(1)排熱回収エネルギー筒内帰還型機関のモデル構築および性能評価
(2)超亜臨界場での燃焼浄化作用の評価
(3)システムのマッチング検討
(4)システムの構成品検討
2.2 実施期間
平成14年 4月 開始
平成15年 2月 終了
2.3 実施場所
三菱重工業株式会社 横浜研究所
3. 実施内容
3.1 排熱回収エネルギー筒内帰還型機関のモデル構築及び性能評価
排熱回収エネルギー筒内帰還型内燃機関(以下フィードバック複合システム)のモデル構築を行い、性能評価式を導出する。
3.1.1 フィードバック複合システムのモデル
(1)一般原動機モデル(オリジナル)
図.3.1.1 オリジナルシステムのモデル
(2)フィードバックモデル
原動機単体系(オリジナル)(a)から、エネルギーを帰還させたときの均衡途中(b)の漸化式を考え、次にそれを収束させて、最終的なフィードバック複合システムのバランスおよび評価式を導出した(c)。性能評価式を式(3−1−3〜5)に示す。
(a)原動機単体系
図.3.1.2 オリジナルシステムのモデル
(b)均衝途上
図.3.1.3 フィードバック複合システムのモデル(均衡途上)
(c)収束均衝状態
図.3.1.4 フィードバック複合システムのモデル(収束均衡状態)
3.2 超亜臨界場での燃焼浄化作用の評価
3.2.1 水添加によるNOxの低減
各種燃焼器のthe mal NOx低減手法として水添加は古くから行われてきた技術である。燃焼温度よりも低温かつ熱容量の大きい水を燃焼場に供給することで、火炎温度を低下させZeldovich NOxの生成を抑制することができる。
ディーゼル機関にも水添加はNOx低減の有効な手段である。方法としては、筒内への直接噴射、吸入空気への添加、エマルジョン燃料の使用などがあり、従来からさまざまな試みがなされ実用化に至っているものもあるが、いずれの方法も火炎温度低下による着火性の低下と燃焼の悪化、水の混入による潤滑油の劣化や材料の腐食などの問題が指摘されている。また機関出力や熱効率という面では従来と同等以下である。
3.2.2 高温高圧水(超臨界水)噴射の可能性
一方、本システムでは超臨界条件の高温高圧水(374.15℃、22.12MPa以上)を筒内に噴射する。高エンタルピであるため、従来の水噴射にはない出力・熱効率の向上が期待できるほか、さらに超臨界水という特有の性質によりNOx低減にも従来とは異なる効果が期待できる。図.3.2.1に水の温度−圧力線図を示す。線図の中で超臨界水とは臨界点よりも右上の領域に入るものを指す。以下に一般的な超臨界流体の特徴および、超臨界水の特徴を示す。
・気相と液相の性質を併せ持ち、境界線が存在しない。
・臨界点近傍では微少な圧力変化によって物性が大きく変化する。
・液体に比べて拡散係数が大きく気体とも均一相を形成する。
・誘電率が低く非極性溶媒となるため有機化合物との溶解性が向上する。
・高圧ではイオン積が大きく酸やアルカリとしての機能を有する。
図.3.2.1 水の温度−圧力線図
3.2.3 高温高圧水(超臨界水〉噴射の効果
高温高圧水(超臨界水)噴射によるメリットは大きく熱効率向上とNOx低減の2つが挙げられ、その要因は下表に分類される。
表.3.2.1 高温高圧水(超臨界水)噴射の効果
|
要 因 |
説 明 |
(1) |
熱的影響 |
水噴射により筒内の温度・圧力を変化させ、また雰囲気の熱容量が増大することの影響。 |
(2) |
化学的影響 |
温度・圧力変化以外で、反応場に水が存在することによる燃焼反応への影響。 |
(3) |
超臨界水・超臨界流体特有の影響温 |
温度・圧力変化以外で、反応場に超臨界水が存在することによる燃焼反応への影響。 |
(4) |
その他の影響 |
その他、上記(1)〜(3)に分類されないもの。 |
|
図.3.2.2、表.3.2.2にとくに熱効率向上およびNOx低減について考えうる影響および効果を示す。各項目の(1)〜(4)は上表に対応する。
図.3.2.2 高温高圧水(超臨界水)噴射の効果
表3.2.2 (1)高温高圧水の効果(熱効率向上)
仮説 |
エンタルピ
増大 |
相変化 |
燃焼場の
温度変化 |
化学平衡 |
熱発生改善 |
水噴射 |
正の効果 |
/ |
/ |
/ |
/ |
水の存在による熱発生の改善 |
負の効果 |
/ |
潜熱による温度低下 |
燃焼速度の低下 |
燃焼の抑制 |
/ |
評価 |
△ |
◎ |
◎ |
◎ |
△ |
超臨海水噴射 |
正の効果 |
投入熱量の増大による出力の向上 |
潜熱の低減 |
燃焼悪化の抑制 |
/ |
/ |
負の効果 |
/ |
/ |
/ |
/ |
/ |
評価 |
◎ |
◎ |
○ |
○ |
△ |
|
表.3.2.2 (2)高温高圧水の効果(NOx低減)
仮説 |
反応への
水の影響 |
筒内温度
の変化 |
水の
噴霧拡散性 |
超臨海状態
での燃焼 |
空気と燃料
の混合促進 |
水噴射 |
正の効果 |
Prompt NOの低減 |
Zeldovich NOの低減 |
/ |
/ |
Zeldovich NOの低減 |
負の効果 |
/ |
/ |
/ |
/ |
/ |
評価 |
△ |
◎ |
△ |
△ |
○ |
超臨海水噴射 |
正の効果 |
/ |
/ |
水分布の均一化によるNOx減 |
燃焼場の均一化によるNOx減 |
/ |
負の効果 |
/ |
温度上昇によるNOx |
/ |
/ |
/ |
評価 |
△ |
○ |
◎ |
△ |
△ |
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評価 |
◎:影響が大きいと考えられるもの
○:影響は小さいと思われるが可能性はあるもの
△:現時点ではほとんど影響がないと考えられるもの |
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