小型交流発電機の高効率・低コスト化の調査研究
大洋電機株式会社
1. 調査研究の目的
大型船舶用の交流発電機は効率(発電効率)改善効果が大きく、又、技術的にも改善が容易な面があったため、効率改善に関する種々の研究が実施されてきた。
一方、内航船、漁船等比較的小型の船舶に搭載される交流発電機は技術的な難しさや生産性、コストの面から大型発電機に比べ生産効率、発電効率改善には必ずしも積極的ではなかった面がある。しかし、最近は小型の部門においても環境面(高効率=省エネ)や船舶の低コスト化の面から改善が求められている。
本調査研究は、従来小型の交流発電機ではコスト、技術面から採用が難しいとされていた突極(現状の当社小型交流発電機は円筒型回転子が多い)構造の回転子、回転子鉄心に従来の磁極鋼板に変わる珪素鋼板及びメンテナンスや電圧調整が容易なデジタル式AVR(自動電圧調整器)等を採用した従来品よりも特性的に優れた発電機の実用化を目的に実施する。
2. 実施経過
2.1 実施項目
(1). 材料、部品価格等調査
突極発電機の材料・部品価格調査、加工、組立の生産性調査、製造工数及び自動化の調査を行なった。
(2). 突極型構造及び円筒型回転子構造の計算式等の解析
(1)を基に従来の円筒型回転子の計算と比較しながら、突極型回転子の計算手法を検討し、又突極型回転子構造を計画した。
また、制御回路が数値入力で制御でき、サイリスタ負荷等による発電機電圧波形の歪みに対して高精度の電圧供給が可能なデジタルAVRの採用も併せて検討した。
(3). モデル機の設計及び製作
(2)の調査により決定した計算式を用いたものと同一構造のモデル機を設計、製作した。
(4). モデル機の評価試験及び試験結果の比較・解析
モデル機による評価試験を行い、同試験により得られたデータと(2)の計算手法を比較検討及びAVRとの組み合わせを含んだ特性試験により、(2)の計算手法の妥当性を確認した。
(5). 有限要素法(FEM)による突極発電機形状の最適化
(4)で検証した計算手法をFEMにより、さらに計算手法及び構造の合理的形状の計算を行い、モデル機の実用性の検証を行なった。
2.2 実施期間
(1)開始 平成13年4月1日
(2)終了 平成13年12月27日
2.3 実施場所
・大洋電機株式会社 岐阜工場
・大洋電機株式会社 可児工場(突極型回転子製作)
3. 実施内容
3.1 材料、部品価格及び工数等調査
(1)材料・部品価格調査
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回転子鉄心には従来の磁極鋼板から固定子と同材の珪素鋼板を採用し、材料管理及び合理化を図った。 |
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シリコン整流器のモジュール品を採用した。 |
(2)工数調査
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円筒型回転子の巻線作業は、電線を予め所定の長さのループに巻いてコイル状にしておき、このコイルを回転子の磁極部周りの間隙に手作業で挿入しつつ、コイルを磁極部に装着する方法を取っていた。
今回、新規に制定した突極型回転子には、昨年当社と巻線機メーカで共同開発した自動巻線装置を使用し、工数の削減を図った。
この自動巻線装置は、電線ドラムより直接、突極部に電線を装着させるもので、円筒型回転子のように電線を予めコイル状にすることも、手作業で挿入することも省かれる。よってその作業に携わる人員の削減に成功し、かつ手作業が自動化となったことによる品質の安定が達せられた。(資料−1参照) |
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最近の鉄板折り曲げ技術の進歩により、重量物のものでも精度良く加工が出来る為、励磁装置については従来の溶接構造から折り曲げ構造とし簡素化を行なった。
(資料−2参照) |
3.2 突極型構造及び円筒型回転子構造の計算式等の解析
(1)計算式の解析
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従来の円筒型回転子の場合は空隙値が円周上どこも均一である為に、電機子反作用が生じ易く励磁効率が悪かった。突極にすれば空隙大の箇所がある為、電機子反作用の影響を受け難い。よって、電機子反作用に係数を乗じることとした。 |
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突極部に巻き付けたコイルが遠心力により飛び出すことを防ぐ為、支えの金具を突極部間に取付ける。その金具に鉄製のボルトを使用する為、主磁束が固定子を通らずボルトを通る(漏洩磁束)可能性が考えられる為、主磁束め数値に対して漏洩係数を乗じることとした。 |
(2)突極型構造
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従来の多極(6P以上)の突極型回転子コアは、製作上の問題で突極部のみ単独構造をなしているものに巻線を行い、ダブテール構造で回転子に組み付ける方法が採用されていた。(下図参照)しかし、この構造は突極部が単独となっているため間にダクトを設けることが難しく放熱しにくいという問題点があり、又回転子に取付けるにもクサビを打ち込んで位置決めを行なう等多大な労力と熟練が要求される。
今回、小型交流発電機の高効率・低コスト化を推進するにあたり、上記問題点を改善するために突極部と回転子が一体となった6Pコアを採用し、又放熱をより効率良く行うために風穴及びダクトを設けることにした。 |
従来の形状コア
当社採用コア
突極の場合は突部間に遮へい物が無いことより吸込まれた冷気は突部間を通って直接ファンに到るものと、回転子の風穴から吸込んだ冷気がダクト間を通って固定子のダクトヘと吐き出され、固定子外周を通ってファンに到る二通風路となる。これは回転子の熱気が固定子へ伝わりにくいことより冷却効果が大きい。
前図からも分かるように、圧力損失が大きくなる箇所が無いことより従来のファンに対し、外径を下げて機械損を減らした。
3.3 モデル機の設計及び製作
(1)モデル機仕様
・出力・・・450KVA
・電圧・・・450V
・回転数・・・1200min−1
・極数・・・6P
・周波数・・・60Hz
3.4 モデル機の評価試験及び試験結果
試験項目
(1)機械的項目
・騒音測定
・振動測定
・風速測定
(2)巻線抵抗測定
(3)絶縁抵抗測定
(4)損失測定(効率測定)(資料−3参照)
(5)軸電圧測定
(6)無負荷飽和特性
(7)温度上昇測定
(8)絶縁耐力測定
(9)定数測定(瞬時特性)
(10)絶縁耐力測定
上記試験項目に従って試験を行なった。
試験結果としては、IECを始め各船級協会の基準を満足する値が得られ、設計値の妥当性及びモデル機の実用性を確認できた。
3.5 有限要素法(FEM)による突極発電機形状の最適化
偏った磁束密度を排除し、より効率的な磁路を確保する為に、下記項目を考慮して最終的な鉄心形状を取り決めた。
(1)風穴位置、大きさ、形状
(2)制動子巻線位置、大きさ
(3)ポール幅、ギャップ(資料−4参照)
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