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3.2.2 回転式海水中腐食摩耗試験
 図5には回転すべり試験装置を、表4には試験条件を示す。試験装置の関係上、上部試験片のAl2O3のBallは直径9.53mm(往復式は19.05mm)を用いた。従って、往復式と同じヘルツ接触面圧とするために、垂直荷重を7.3N(往復式は30N)とした。
 
(1) Weight (5) Lower test piece
(2) Strain gauge (6) Tank
(3) Upper test piece (7) Circulation pump
(4) Rotary shaft  
 
図5 回転すべり試験装置
 
表4 回転式海水中腐食摩耗試験の試験条件
試験片 上部球 Al2O3
下部ディスク SUJ2、Niめっき、無電解Ni−Pめっき、Crめっき、Ni−Crめっき
垂直荷重 7.3(N)
すべり速度 0.1、0.5、1.0(m/s)
すべり距離 2000(m)
試験温度 25±3(℃)
試験電位 自然電位ELP(Φn)
 
 図6には回転すべり試験におけるすべり速度と比摩耗量の関係を示す。本図より次のようなことが分かった。
(1) Niめっきは、すべり速度が増加しても比摩耗量が非常に小さく、往復すべり試験結果と同様に優れた耐腐食摩耗性をもつ。
(2) 無電解Ni−Pめっきは、低すべり速度の往復すべり試験結果では優れた耐腐食摩耗性を示したが、すべり速度の増加にとともに比摩耗量が著しく増加する。
(3) Crめっきの比摩耗量は、すべり速度が増加してもほぼ一定値を示すが、その値はNiめっきよりも一桁大きい。
(4) Ni−Crめっきは、すべり速度の増加にとともに比摩耗量が増加する傾向を示し、摩耗損傷が大きい。
 
図6 回転すべり試験におけるすべり速度と比摩耗量
 
 参考までに、図7(a)〜(e)に回転すべり試験における摩耗痕断面(V=1.0m/s)を示す。無電解Ni−Pめっきが高すべり速度で大きく摩耗する理由としては、高すべり速度で発生する摩擦熱が接触相手材との凝着力を増加させたためと考えられる。特に摩擦係数に注目すると、図4の往復すべり試験ではNi−Pめっきの摩擦係数はNiめっきとほぼ同値でμ=0.13であるが、回転すべり試験のすべり速度0.5(m/s)では、Niめっきのμ=0.17(図8(a))に対して、Ni−Pめっきのμ≒0.30(図8(b))と高い値を示した。
 
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図7 回転すべり試験における摩耗痕断面(V=1.0m/s)
 
図8 回転すべり試験におけるすべり距離と摩擦係数
 
4. 調査研究の成果
 海水浸漬試験、往復式及び回転式腐食摩耗試験を通して下記のような調査研究成果を得た。
(1) 全体を通してNiめっきが海水中で優れた耐腐食摩耗性を示し、舶用工業製品に使用できることを確認した。
(2) 無電解Ni−Pめっきは、低すべり速度(Vs≒0.01(m/s))ではNiめっきと同等の優れた耐腐食摩耗性を発揮するが、高すべり速度(Vs≒0.1(m/s)以上)では腐食摩耗損傷が大きくなるので、海水中及びその雰囲気中で作動する舶用工業製品への適用には注意を要する。
(3) Crめっきの腐食摩耗量は、すべり速度にあまり影響を受けないため、カソード防食電位下で使用することを条件に、舶用工業製品への適用の可能性をもつ。
(4) Ni−Crめっきは、基材のSUJ2よりも腐食摩耗損傷が大きく、舶用工業製品に使用は避けるべきである。
(5) 腐食摩耗の主要因
 防食めっき材の海水中での摩耗損傷の主要因は、めっき材自体の腐食性及びすべり相手材との凝着性にあることが分かった。
(6) 薄膜セラミックスコーテイング材との耐腐食摩耗性の比較
 以前に実施した薄膜セラミックスコーテイング材(TiN、CrN)は短時間では優れた耐腐食摩耗性を発揮するが、膜厚が最大5μmと薄いため基材と剥離して長時間の使用には耐えられないことが分かった。一方、今回の防食めっき材は膜厚1000μmの付着も可能であり、長時間の使用に有効であることが分かった。
(7) 舶用工業製品への適用の見通し
(1) 本研究成果をもとに長崎県内の舶用工業製品の修理メーカーを協議したところ、図10に示すプロペラ軸シールライナーの腐食摩耗損傷部(硬質ゴム製シールリングとのすべり接触部)の補修用として、安価なNiめっきが使用できることが分かった。これが実用化できれば、シールライナー製作段階でシールリング全体または、これとの接触相当部にNiめっきを施し、製品化することが可能となる。
(2) 浮き防油堤のシンカーチェインの摩耗部(図10)の補修、海水中で使用されるステンレス鋼系の歯車の補修に、Niめっきが使用できることが分かった。
(3) 海水ポンプの羽根車の補修にも防食めっき材の使用の可能性が出てきた。ただし、この場合は単に腐食だけではなく、キャビテーションエロージョンやサンドエロージョンによる損傷があるため、実験による検証の必要がある。
 
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図10 プロペラ軸シールライナーとシンカーチェイン
 
5. 今後の検討課題
(1) 海水ポンプからパッキン等の密封装置を廃止して、構造のシンプル化や海水潤滑による油汚染の防止を目的として、下記のステップで実用化研究を推進する。
 
Niめっきをプロペラ軸シールライナーの腐食摩耗損傷部
(硬質ゴム製シールリングとの接触部)の補修用として実用化
海水ポンプの駆動軸にNiめっきを施工し、軸受材としてゴムまたは銅合金を選定して実用化試験を実施
 
(2) 記述のように、海水ポンプの羽根車の補修にも防食めっき材を適用するため実験を行い、キャビテーションエロージョン及びサンドエロージョンに強い防食めっき材を評価選定する。
 
(3) 今回の試験では相手材としてセラミックスを用いたが、今後は耐食材の銅合金やステンレス鋼を相手材に実験を重ね、系統的な耐腐食摩耗技術の確立を目指す。







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