日本財団 図書館


3.5 試験内容と結果
3.5.1 標準材料と影響ファクター
 450Dを標準材料として、樹脂の粘度と強化材の構成体積比(Vf*2)をパラメーターとしてデータを計測した。
 その結果をグラフ−1にプロットした。縦軸は1.2式より得られる透過率Kで、横軸は下が粘度、上がVfを示す。
 グラフから粘度については透過率が殆ど変化せず、Darcy則が粘度の影響を表現できていることが判る。一方、Vfの変化に対して、透過率は敏感に反応してDarcy則では評価できないことが判る。
 
*2 強化材と樹脂の含有率を体積比で表したもので、強化材/(強化材+樹脂+ボイド)で表される。ボイドとはFRP成型品に残る空洞のことで通常3%程度である
 
グラフ−1
 
3.5.2 強化材の違いによる影響
 ここでは、強化剤の構造などによる透過率への影響を確認するため、各材料に対してバキューム圧を変えて計測した(表−3)。
 使用した材料は以下の通りである。
■ 450D・・・RTM用マット、バインダーは溶けない
■ M4・・・ハンド成型用マット、バインダーは溶ける
■ CFM4・・・RTM用コンビマット、バインダーレス
 
材料 450D M4 CF M4
透過率 4.45 2.77 1.26
表−3
 
 グラフ−2は縦軸に時間当たりの流量Q、横軸には樹脂の入り口と出口の圧力差ΔPを取っている。
 成形板厚(断面積A)と流動距離L、樹脂の粘度ηは全て同一としているので、グラフ上のそれぞれの点は1.2式においてQ/ΔPと等価で、同一直線上にあることが材料特有の透過率が決定される事を示す。
 ただし、M4については測定値が同一直線上に乗っているとは言い難い。これはバインダーが溶けだしたことに依るガラス構造および樹脂粘度の変化の影響と考えられる。
 
グラフ−2
 
3.5.3 重力による影響
 製品形状によっては樹脂が重力に逆らって流れる必要がある事も考えられる。ここでは重力の影響の大きさを先ず確認した。
 グラフ−3において、縦軸と横軸はグラフ−2と同様で型を横置き(0°)した場合と縦置き(90°)した場合の流れを比較した。
 圧力差が小さいときは透過率に差があり縦置きした場合の樹脂の流れを遅くすることが判る。しかし、圧力差が大きい場合は重力の影響はみられなかった。これは注入初期の圧力勾配*3が大きい場合は重力の影響を無視しうるが、ある程度注入が進んで圧力勾配が小さくなった場合、流動速度に影響することを示す。
 
*3 樹脂流れの前線と供給口の圧力差ΔPと流動距離の比で流動の推進力となる。
 
グラフ−3
 
3.5.4 異なる材料との組み合わせ
 2種類の異なる材料を組み合わせて透過率にどのよう反映するか観察した。
 表−4に透過率の高い450Dと低いR6を組み合わせた結果を示す。組み合わせの構成はR6を挟むように450Dを配置した。結果はR6の側からみると多少透過率の改善があった。ただし、板厚の構成比により透過率が変化すると仮定して2.1式により得られた計算値と比較するとかなり低い値となっている。
 
材料 450D R6 450D+R6+450D 計算値
透過率 4.45 1.04 2.12 3.79
表−4
 
 ただし、Hは総板厚、hkは材料毎の板厚、Klは材料毎の透過率
 
 次に、450DとCF M4の組み合わせで構成比は1:1として配置する順序の影響を確認した(表−4)。
 表5においてMDDM、DMMDはそれぞれCF M4+450D+450D+CF M4、450D+CF M4+CF M4+450Dを表す。結果、配置する順序が違うと透過率が変わることが判る。計算値と比較するとほぼ両者の中央値となっている。2.1式を用いた仮定では配置の影響を考慮していないため、2種類以上の材料が均等に混ざっていると言う理屈上の計算でしかなく、見直しが必要であると考える。
 
材料 450D CF M4 MDDM DMMD 計算値
透過率 4.45 1.26 2.39 3.30 2.85
表−5
 
3.5.5 その他の材料
 その他の材料としてCF M4の透過率を改善する目的で不織布状の物を挟んだM450SP250M450(MSP)と透過率の高さが売り物のユニフィロについて計測を行った(表−6)。
 MSMは元のCF M4に対しては透過率が改善されているが、他と比べて決して高くはなく、ベースのCF M4自体の見直しが必要と思われる。一方で、ユニフィロT813は流動性が高いとの評価を裏付けるように非常に高い透過率を示した。ユニフィロ単体ではさほどの強度は期待できないので、これを流動メディアとして他の材料と組み合わせると面白いと思われる。
 
表−6
材料 MSM ユフィロT813
透過率 2.49 13.45
 
4. 調査研究の成果
4.1 まとめ
 試験の結果、以下のようなことが判った。
(1)FRPの注入においてもDarcyの法則が成り立つ
 樹脂の種類や温度の影響を受ける粘度の変化が、透過率に与える影響を事前に掴むことが出来、樹脂の硬化時間の設定が適切に行える。
 
(2)構造やVfの違いが透過率に重大な影響を与える
 部分的に樹脂が回らないなどのトラブルの際に、その部位のVfを計測してみることが問題の解決につながる。
 
(3)重力の影響は高低差だけでなく、注入口から遠い場合も考慮する必要がある
 重力の影響を正確に予測するには、数値的なアプローチが望ましいが流動解析の様な手法を必要とするので投資効果が見込めるケースは少ないと考える。
 
(4)複数の種類の材料を使用する場合、その配列も透過率に影響する
 2.1式はある程度、複数の材料を使用した場合の透過率予測の可能性を示せたが、十分とは言えない。
 
 上記のように、強化材や注入の条件が変わっても樹脂の流動をある程度、予測できる手法を得たことは今後、実物の船体を成型する際の型設計や構造設計、注入時の問題解決の貴重な足がかりとなる。
 
4.2 今後の課題
 本調査研究では限られた時間の中で、得られたデータを元に十分な考察と検証試験が行えなかった。また、調査開始以降も様々な材料を入手できたにもかかわらず、様々な制約の中で処理しきれなかった。
 本調査の目的は効率よく注入成形ができるためのデータ収集であるが、最終的にはそれらのデータを元に最適な注入成形手法を見いだすことにある。従って、そのような観点からみた場合の課題を以下に挙げる。
 
(1) 今後改良が進むであろう注入成形素材に関する情報の入手
(2) 強度や形状などの構造体としての性質と樹脂の流動性を両立させる最適な組み合わせを簡単に選択できる様なツールの開発とその元になる理論の構築
(3) 時間と費用をかけずに重力の影響を簡単に概算できる手法の開発
 
 他にも現実的な問題に関わる課題は多く存在するが、本調査に直接関係するものを抜粋した。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION