第3章 船舶自動識別装置(AIS)
3・1 機器概要及び性能
今日の船舶を取り巻く環境は1999年2月1日から完全実施されたGMDSS(海上における遭難及び安全に関する世界的制度)化と併せ、船員数の減少や、高齢化が進んでいる。一方、安全や環境保全の意識の高まりと共に効率かつ安全な海上輸送が求められている。
船舶の情報を定期的に送信し、衝突防止と海上交通管制に活用できる船舶自動識別装置(Automatic Identification System。以下AISという。)について、IMO決議MSC74(69)ANNEX3船上AIS性能基準が採択された後、ITU−R M.1371の技術要件とIEC61993−2の性能試験基準が作成された。
また、NAV47にて船上AISの使用上ガイドラインが出されている。
SOLAS条約第V章19規則で、本設備は、原則として総トン数300トン以上の国際航海船及び総トン数500トン以上の国際航海に従事しない船舶に適用され、適用時期は、新造船・現存船・船種の別によって2002年7月1日より2008年7月1日まで段階的になっている。(SOLASによる搭載詳細スケジュールは 3・1・5項参照)
AISは、衝突予防と人命安全という観点から航海情報記録装置(VDR:Voyage Data Recorder)と同様に、船舶へ搭載が義務化される装置である。
AISは
・その位置情報や操船情報等の航海情報、船名や積荷等の船舶の固有情報をVHF帯電波で周囲に定期的に送信
・他船から送信されたこれらの情報を受信
・これらの情報を表示器に表示
を行う。図3・1にシステム全体の概念図を示す。
図3・1 AISの概念
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AISは公海周波数(公海で世界的に運用される特定の2周波数)で運用されるが、地域によっては地域周波数が使用される。
周波数切替はAIS又はDSC海岸局からの放送による自動切替が原則であるが、AISあるいはGMDSSのA1海域海岸局がない場合は、手動でも切り替えられなければならない。
AISは、VHF/FM通信可能範囲で、電波を遮る物体がなければ、湾曲部の周辺や島陰の船から情報を受信できる。海上で受信できるのは、おおよそ20〜30海里の範囲である。
(1)船舶間の衝突防止
これまで、他船の行動は、目視やレーダー・自動衝突予防援助装置(ARPA)等による情報収集に基づき把握しているが、他船の行動を素早く検知し、その行動を正確に推定することは困難であった。特に、島や突端の裏側に船舶がいる場合などは極めて危険であるが、船上AISは目標船から送信された位置情報から計算したCPA及びTCPAによって、衝突の危険に関する情報を早く、自動的かつ正確に入手することができ、高い精度で相手船の行動を随時把握でき、衝突の危険が著しく低減することが期待できる。
(2)通過船舶とその積荷情報の把握及び船舶運航管理業務(VTS:Vessel Traffic service)の道具
東京湾や瀬戸内海などの船舶のふくそうする海域においては、安全かつ効率的な運航を確保するために海上交通の情報提供と航行管制が行われている(東京湾の観音埼、大阪湾の江埼、瀬戸内海の青ノ山、愛媛県の大浜、関門海峡の門司、名古屋港の金城ふ頭の6ケ所)。AISの義務化により、上記以外のどのような場所でもVTSに必要な情報(船名、針路・速力、船舶の大きさ・喫水・積荷等各種)が得られる利点がある。
(1)総務省のAISに関する意見の募集注*による主な要件
(A)送受信方式: |
・TDMA 2チャンネルを交互送信 |
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・TDMA 2チャンネルを同時受信 |
(B)必要な機能: |
・VHF CH70送受信 |
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・同期のため衛星無線測位システム信号の受信又はその代替機能 |
(C)AIS情報の送信周期: |
・静的情報・・・6分毎及び状況に応じて |
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・動的情報・・・2秒から3分毎 |
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・航海情報・・・6分毎及びデータ更新時等 |
(D)使用周波数: |
・161.975MHz、162.025MHz[公海周波数] |
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・156.025MHz〜162.025MHz[地域周波数] |
(E)周波数の許容偏差: |
100万分の3 |
(F)変調方式及び伝送速度: |
・(TDMA)GMSK・・・9600bps |
注*:平成14.2.15総務省による「AIS(船舶自動識別装置)等の導入に係る省令改正に伴う告示の制定・改正に関する意見の募集」
(2)IMO NAV47船上AISの使用上のガイドラインによる要件
(A)静的情報(Static):固定又はAISを装備して使用を始める時の情報、これは、船名又は船自体の大きな改造によってのみ変える必要のある情報である。
(B)動的情報(Dynamic):AISに接続されているセンサから自動的に更新される情報。
(C)航海関連情報(Voyage related):航海中に手作業で更新する必要がある情報。
(D)安全関連のショートメッセージ(Short safety related)
詳細は下表の通り。
表3・1 船から送られるデータ
情報の種類 |
情報の発生源、形態、特質 |
静的:(Static) |
海上移動業務識別(MMSI) |
装備時に設定
もし船主が変わったら修正が必要になると思われる記事 |
呼出符号及び船名 |
装備時に設定
もし船主が変わったら修正が必要になると思われる記事 |
IMO番号 |
装備時に設定 |
船舶の長さ及び船幅 |
装備時又は変更時に設定 |
船種類 |
予め用意されたリストから選択 |
測位装置のアンテナの位置 |
装備時に設定あるいは双方向船首船又は複合アンテナを装備した船で変わり得る |
動的:(Dynamic) |
正確度及び精度を示した船位 |
AISに接続されている測位センサから自動更新
精度指示は、10mより良いか悪いか |
UTC表示による位置の時刻印 |
AISに接続されている船の主測位センサから自動更新 |
対地針路(COG) |
もしセンサがCOGを計算するものであれば、AISに接続されている船の主測位センサから自動更新。(ただし、この情報が利用できる場合) |
対地速力(SOG) |
AISに接続されている船の測位センサから自動更新。(ただし、この情報が利用できる場合) |
船首方位 |
AISに接続されている船の船首方位センサから自動更新 |
航海状態 |
航海状態情報は、船橋当直者によって、手作業で入力され、必要あれば変更される
例えば
−エンジンで航行中
−錨泊中
−運転が不自由な状態NUC(Not Under Command)
−操縦性能の制限状態RIATM(Restricted in ability to maneuver)
−繋留中
−喫水制限状態(constrained by draught)
−座礁
−漁業操業中
−帆走中
実際にはCOLREGSに関連して、同時に灯や形状を変える必要があるもの。 |
回頭角速度(ROT) |
船のROTセンサあるいはジャイロコンパスから取り出す信号からの自動更新。(ただし、この情報が利用できる場合) |
航海関連:(Voyage related) |
船の喫水 |
航海の始めに手作業入力。航海の最大喫水を使用し必要あれば変更。
すなわち;入港に先だってバラスト調整の結果 |
危険貨物(タイプ) |
航海の始めに、危険貨物を運搬するかどうか確認した手作業入力。
名称:
−危険物DG(Dangerous Good)
−有害性物質HS(Harmful substances)
−海洋汚染物質MP(Marine pollutants)
積載量の表示は必要ない。 |
目的地とETA |
航海の始めに手作業入力。必要に応じて更新。 |
航路計画(変針点) |
航海の始めに手作業入力。船長の裁量、必要に応じて更新。 |
安全関連のショートメッセージ:(Short safety−related
messages) |
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手作業入力すると思われる任意様式によるショートメッセージ。特定の相手方か各船及び各海岸局に対する放送。 |
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データは異なった更新レートで自動送信される。 |
− |
船速及び針路の変更による動的情報(表3・2を参照) |
− |
静的及び6分毎の航海関係データ又は要求に応じて。(利用者の操作を必要とせず自動的に応答) |
表3・2 動的情報の報告レート
船の種類 |
報告間隔 |
錨泊船(注1) |
3分 |
0−14ノットの船(注2) |
12秒 |
0−4ノットの船で変針中(注3) |
4秒 |
14−23ノットの船 |
6秒 |
14−23ノットの船で変針中 |
2秒 |
23ノット以上の船(注4) |
3秒 |
23ノット以上の船で変針中 |
2秒 |
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注1) |
IEC 61993−2Ed.1では、錨泊船でも3ノット以上の速さで移動しているものは報告 間隔10秒を要求 |
注2) |
IEC 61993−2Ed.1では、0−14ノットの船で変針中のものは報告間隔 10秒を要求 |
注3) |
IEC 61993−2Ed.1では、0−14ノットの船で変針中のものは報告間隔 3 1/3秒を要求 |
注4) |
IEC 61993−2Ed.1では、23ノット以上の船は報告間隔2秒を要求 |
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