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6・4・2 第二段階:目標の追尾
 レーダーのプロッターに人手によってプロットする場合には3分から6分の間隔で行うのが普通であるが、ARPAでいう追尾とは、自動的に一定の時間間隔でプロットしていくことである。これは、言い換えれば時々刻々変化する目標の位置のデータを、先に検出した目標位置のデータと比較しながら、これが同一の目標であることを判定し、同時に、同一目標の位置のデータの変化を計算するために、同一の目標ごとにデータをファイルすることである。
 
6・4・3 第三段階:衝突の危険性についての判定
 これは、前段階の時々刻々変化する同一目標の位置のデータから、目標の速力と針路を算出して衝突の危険性の有無を判定するものである。
 いま、目標の速力と針路が判明すれば、これによって自船に最も近づく点CPA(Closest Point of Approach)と、そこに到達するまでの時間TCPA(Time to CPA)を計算することは容易である。
 このCPAとTCPAを、あらかじめ自船の状況に応じて設定してある目標の最小最接近点距離(Min. CPA)及びそこに到達するまでの最小最接近点時間(Min. TCPA)と比較して、衝突する危険があるかどうかを判定するわけである。
 
6・4・4 第四段階:表示
以上の事柄は、すべて最終的には表示をして操船者に知らせなければならない。この表示には、ブラウン管を用いる方法や数字表示管による方法等多種多様な方法があり、また、その表示の内容にもいろいろなものがある。主表示であるレーダー画面での表示では、 物標の速度をベクトルで表すのが最も一般的である。また、図形によって他船の動向を表示するシステムもある。そのほかには、サブCRTやLEDを用いて数値のデーターで表示するものがあり、いずれにも各種の警報機能が付属している。
6・5 ARPAのシステム構成
 ARPAをシステム構成の面からみると、レーダー表示器とARPAの表示器とを兼用した一体形(Integrated Type)と、レーダーシステムとは独立した別体形(Separated Type)とした二つのシステムに分類できる。
 
6・5・1 一体形(Integrated Type)
 前述のように、一体形とは、図6・10のようにレーダー表示器とARPA表示器とを兼用したものである。つまり、完全な航海用レーダーとしての機能の上にARPAの機能が付加されたもので、一つのシステムで両方の機能を持つものである。ARPAが出初めた初期のころは、一体形は一部のメーカーしか生産していなかったが、最近では国の内外を問わず一体形の機種の方が増加している。
 
図6・10 一体形の基本構成
 
 この一体形の特長は、第一に設備コストが安く、またスペースも小さくて済むということである。また、取扱いも別体形に比べると、レーダーの操作がそのままARPAの操作につながって、操作法でも優れているといえる。このようなことから、新造船には一体形の装備が増加してきている。また、商船では一体形システムと、二台目のレーダーとをインタースイッチングするシステムが主流となってきている。
 
6・5・2 別体形(Separated Type)
 別体形とは、図6・11のようにレーダーから信号をもらい、専用の表示器にARPA情報を表示するものである。
 
図6・11 別体形の基本構成
 
 別体形の特長は、在来船ですでにレーダーが装備されている場合でも、スペースさえあれば比較的容易に取付けが可能なことである。
 別体形では、通常二台のレーダーからの信号を切り替えて入力する方式を採っている。
 ARPAだけの専用機の中には、いわゆるレーダーの副表示器としての機能を十分に持っていないものもある。
 また、別体形の場合は、接続するレーダーの機種によっては簡単にインターフェイスできないものもある。
6・6 ARPAの性能の現状
 現在市販されているARPAは、いずれもIMOの性能基準を満足したもので、どれをとってもほぼ同等のものといえるが、各社では少しずつ異なったところがある。このARPAの主要機能の現状を以下に述べる。
 
6・6・1 目標の捕捉と追尾
(1)現在市販されているすべてのARPAは手動捕捉機能を持っており、その方法はジョイスティックやトラックボール等を使用するものが大半を占めている。
 手動による捕捉数は、ほとんどが20目標以上である。(一部は10目標のものもある。)
(2)オプションも含めると大半の機種が自動捕捉機能を持っている。この自動捕捉機能を細かくみると、全自動捕捉(Fully Automatic Acquisition)とガードリング等による半自動捕捉(Semi Automatic Acquisition)の二つに分けられる。
a)全自動捕捉とは、ガードリング等とは無関係に、捕捉領域内の目標に対して所定の数までの自動捕捉が可能なシステムである。
b)半自動捕捉とは、設定したガードリングをクロスする目標に対してのみ捕捉が実行されるシステムである。
(3)目標の追尾は、すべて自動追尾方式である。
 
6・6・2 表示
(1)表示方式
 ほとんどの機種が高輝度表示であるが、これも、その方式によって差異がある。現状ではPPI表示方式が大半を占めているが、TVスキャンのカラー表示方式のものもある。いずれもレーダーの画像にベクトル等のARPA情報を表示するものである。
(2)レーダーの映像とARPA情報の表示
a)レーダーの映像の表示は、別体形であっても完全な生映像を表示するシステムと、映像情報に完全な処理をしたビデオを表示するものとがある。
b)ARPA情報の表示は、他船の動向を表す速度ベクトル表示方式のものと、図形による表示方式のものとがある。なお、これにはIMO基準によって、航跡を表示する機能を付加することが義務付けられている。
c)レンジスケールは、いわゆるARPAとしてのレンジスケールのみを備えたものと、近距離から遠距離までの副表示器としての機能を完備したものとがある。
(3)数値表示
 IMOの性能基準により、物標の方位、距離、真針路、真速力、CPA、TCPAの6種類のデータの数値を表示することが義務付けられ、また、方位と距離、真針路と真速力、CPAとTCPAの組合せによる二つ以上の表示が義務づけられている。
 これらのデータの表示には、サブCRTによるもの、LEDを用いるもの、PPI上に同時表示あるいは分割表示するもの等と、各社各様の表示方式を採用している。
 上記のデータのほか、ほとんどのシステムが自船の針路と速力の表示を行っている。また、上記以外に他船のデータを表示できるようにしたシステムもある。
 
6・6・3 警報
 IMOの性能基準で規定されている目標に関する警報には、ガードリング警報、CPA/TCPAによる危険警報、ロストターゲット及び連動する機器の情報が停止した場合の警報の四つがある。以下それぞれについて述べる。
(1)ガードリング警報
 任意(又は一定)の距離にガードリング(又はゾーン)を設定し、そこに目標が到達したら警報を発生させる機能である。
 このガードリングは、前述の捕捉リングと兼用のものと、捕捉とは完全に独立したものとがある。したがって、当然その設定領域や利用目的もガードリングとして独立したものと、そうでないものとでは違いがでてくる。また、これが一本のものと二本のものとがあるが、二本のものは自動捕捉に使用するタイプのものが多い。
 有効領域も任意の円弧範囲に設定できるようになっているものが多い。
 警報は、可視と可聴のほかに、CRT上に識別マークで表示される。
(2)CPAとTCPAによる危険船に対する警報
 この機能は衝突の危険性のある目標に対して警報を発生させる機能である。これは前述のガードリングのように、ある距離に目標が到達したら警報する機能とは異なり、状況に応じて設定された距離(安全限界の距離)内に、設定された時間(安全限界の時間)内に侵入すると予測された目標に対して、可視と可聴の警報を発するもので、いわばARPAの主警報である。そして当然のことながら、画面上にも、それがどの目標であるかの識別マークが表示される。
 この安全限界の設定はCPAとTCPAとして、大半のシステムが任意に設定できるようになっている。
(3)ロストターゲット(Lost Target)警報
 追尾中の物標が何らかの原因で追尾不能になったときに発する警報である。これは、次のような原因で発生することが多い。
(1)目標のエコーが非常に弱い。
(2)陸地や大型船の陰に入ってエコーが消える。
(3)海面反射や雨雪反射で目標の識別ができなくなる。
(4)他の目標との乗移り等によって追尾ミスを起こす。
(4)連動機器の情報停止による警報
 連動するレーダー、ジャイロコンパス、及び船速距離計からの情報の伝達が、停止することによって物標が消失したり、真運動表示などのデータが失われて正確なデータが得られなくなるために発する警報である。
 
 以上、大略の基本的な機能を列記したが、ARPAはこのほかにもいろいろな機能をもっているのが普通である。
 
練習問題
(問1)航海用レーダーは移動する船舶の上に装備され、移動する物標をも表示するが、その運動の表示方式は二通りある。それぞれの、名称と特長について簡単に述べよ。
(問2)航海用レーダーの表示方式には、方位の表し方について三通りの方法がある。それぞれの名称と特長について簡単に述べよ。
(問3)プロッティング機能付レーダー(ARPA)の動作の基本概念を、機能別に四段階に分けて簡単に説明せよ。







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