6・3 ARPAの機能の概要
ARPAは、IMOの決議によって、1984年9月以降順次10,000GT以上の船に装備することが強制され、同時にその性能要件などが定められた。これは、また、昭和58年3月8日の運輸省令によって日本の国内法規にも取り入れられ、昭和58年3月15日から施行された。ここでは、このIMOが決めた性能の要件を中心にARPAの機能の概要を示すことにする。
ARPAの指示器は有効直径が340mm以上を要し、これはレーダーの表示器を兼ねたものでもよいが、レーダーの表示器と別に設けたものでもよい。しかし、いずれの場合でも、レーダーの表示器に要求されているすべてのデーターが表示できなければならないことになっている。ARPAの表示器は、3海里と6海里又は12海里が表示でき、0.5海里、1.5海里又は24海里は表示可能ならば備えてよいことになっているが、普通はそのほかの距離レンジも備えている。
ARPAの表示器への入力には、レーダーからのビデオ信号、空中線の回転角度信号、船首輝線(SHM)信号、トリガ信号等のほかに、シャイロコンパスからの方位角信号とログからの速度信号も必要とする。
ARPAに要求されている機能の基本的な要件は、航海者がレーダーの画面を見ながら手動でプロッティングをすることによって衝突の危険のある船を見いだすのと同じ信頼度と同じ精度で、自動的に、あらかじめ設定されたある距離範囲に相手船が入ってきたこと及び衝突のおそれのある危険船の存在を警報することである。このためには、自船の周囲の船舶の航行の状況を、手動によるプロッティングなしで判断ができる画面を作成して表示をし、かつ、避航操船のシミュレーションができる手段を持つこと等が要求される。したがって、ARPAは、他船のエコーを雨雪反射や海面反射から分離して検出し、その検出した船舶のエコーが、操作者があらかじめ設定しておいたある距離範囲に近寄ったときにはそれを検知して音響警報を出し、表示器上にも表示しなければならない。更に、検出したエコーはある優先順位に基づいて捕捉をするが、この捕捉を自動的に行っても、人がその順位を判断して手動で捕捉してもよい。また、陸地エコーとの混乱を防ぐためには、捕捉の範囲を手動で限定させる必要もある。捕捉できる船舶の数は、自動、手動にかかわらず20物標以上と決められている。
図6・7 衝突三角形
捕捉した物標は、その後の動きを連続的に自動追尾され、その追尾の結果として求められる自船に対する方位と距離の変化を計算機に入れるとともに、ある条件の下に、過去の位置のデータも記憶しておく。このとき、図6・7に示したように、自船Oから相手船Tの相対針路TC上に垂線を下ろしてその足をCとすると、OT、OC及びTCで三角形が構成されるが、このときの点Cを目標の最接近点=CPA(Closest
Point of Approach)といい、この最接近点に到達するまでの時間、すなわち距離lを、相対速力VRで割った時間(l/VR)をTCPA(Time
to CPA)という。また、OCは最接近点までの距離で、RCPA又はDCPA(最接近点距離)という。ただ、一般的には単にCPAということが多い。また、このようにして作られた三角形を“衝突二角形”と呼んでいる。
実際には、このとき計算機に入れられたそれらのデータから、捕捉した相手船の真の針路と速力及び自船に最も近づく距離(CPAという)とそれまでに要する時間(TCPA)等が計算される。その結果は、操作者の求めに応じてデジタルで表示されるとともに、相手船の針路と速力はCRT上にベクトルの線等で表示される。
衝突の予防には、衝突の予測とその回避の二面が考えられるが、極端にいえば、衝突の予測は複数の船舶が同一点を占有する場合についての予測であり、回避とは、複数の船が同一点を占有しないように操船することである。実際に操船する場合には、単なる点ではなくてある閉塞された領域を考える必要があり、これをCPA(Closest Point of Approach)という概念でとらえている。また、予測に関してはCPAに到達するまでの時間が必要になり、これをTCPA(Time to CPA)として考え、これらによって衝突の危険を判断する。
このCPAがゼロになるということは、すなわち、両船が衝突をすることであるが、これを避けるために、操作者は現況における自船の能力を考慮して、あらかじめCPAとTCPAとに適当な値(例えば自船から1海里以内に30分というように)に選定しておくと、この値以下になると音響警報を発するとともに、表示上でもその衝突のおそれのある船がどれであるかを、点滅などの表示によって知らせる。
更に、過去における相手船の位置は8分以内(3海里レンジでは2分、6海里レンジでは4分、12海里レンジでは8分)の4点以上の等時間間隔の輝点で表示できなければならない。この表示は、過去にその船が針路又は速力の変更をしたかどうかの判定に使用される。ある種の機器では、上述のベクトル表示のほかに、あらかじめ設定された衝突の危険範囲等の特殊な図形を表示面に出すこともあり、この図形は衝突の危険状態の判定に使用される。
このように衝突を予測と回避の二つの観点からみると、予測する場合には相対速度のベクトルに対して、また、回避する場合にはアスペクト(注)*等を知るために、それぞれに真速度のベクトルが必要になってくる。
相対速度のベクトルと真速度のベクトルとの関係を図示したのが図6・8である。
図6・8 相対速度のベクトルと真速度のベクトル
まず、相対速度のベクトルで概略のCPAとTCPAとを知ることができ、これによってそのときのレーダーの視野の中の全船の危険度を一目で把握することができる。次に、真速度のベクトルによって、目標の速力と針路を把握することができるので、アスペクトが明りょうに変わる。すなわち、これによって海上衝突予防法等でいう態勢関係(横切り、追越し、同航、反航等)がつかめ、衝突の危険がある場合には、どのルールが適用され、どのように避航すればよいか分かる。
(注)*アスペクトとは自船と相手船とを結んだ線と、相手船の船首方位とがなす角度をいう。
もし衝突の危険のある相手船があるときには、その他の船が新しい危険船にならないようにしながらその危険船を避けるという操船が必要になる。ARPAでは、そのような操船方法を見いだすための試行操船と呼ばれる操作ができなければならない。これは変針又は変速、あるいはその両方を操作者が仮に設定をして、その設定値による自船付近の未来の状況を表示面上で短時間に変化させてシミュレーションをすることである。もちろん、このシミュレーション中もARPAの正規の追跡などの動作は継続されていて、いつでも本来の表示に戻すことができなければならない。
以上がARPAの機能と動作の概要であるが、基本的には、レーダーの映像にプロッターを用い、他船の位置を3分〜6分の間隔でプロットすることによって他船の自船に対する航跡、すなわち、CPAとTCPAを知り、衝突の危険性の有無を判定することにある。このレーダーによる衝突回避のプロセスをチャート化したものが図6・9である。
ARPAの性能要件についてはIMOの総会で『自動衝突予防援助装置(ARPA)の性能基準』(決議A823)として決議され、これを受けて国内法規としても「船舶設備規程」及び「無線設備規則」の中に制定されている。詳しいことについては装備艤装工事編を参照されたい。(既存船は決議A422による。)
図6・9にレーダーをセンサとして衝突を回避するプロセスを図示したが、このプロセスを実際に機能させるARPAの動作の概念を機能別に大別すると、以下の四段階に分けることができる。
6・4・1 第一段階:レーダー情報からの目標の検出
これは、レーダーのプロッターに目標を人手でプロットすることに相当するものである。いま自船の周囲に船舶が一隻あったとすると、これはレーダーで検知することができる。すると、この目標の信号はデータ処理器で処理をされて、自船に対する方位と距離の信号として電算機に転送される。すなわち、この第一段階は必要とする相手船の位置のデータを電算機へ転送する機能であって、レーダーの情報を量子化する機能のほかに、雑音や船以外の情報を除去する機能等が含まれている。
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図6・9 レーダーにおける衝突回避のフローチャート
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