5 電気艤装設計
設計・工事に着手前に次の事項について調査し、基本的な方針を確立しておくことが必要である。
(1)船の種類、トン数、航行区域、竣工年月日、適用する規則類、検査を受ける機関名等。
(2)船主との打合せ(船主の希望事項と関連法規、規則との問題点の有無、船主より提出された船体、機関、電気の建造仕様書と造船所の思惑と相違しているか。)
(3)造船所が作成した船体、機関、電気の仕様書については船主と十分打合せ、問題があれば解決しておく。
(4)建造仕様書には表れていない居住室、公室等の外観重視及び工作法の度合い等について打合せをする。
(5)原価低減の立場から、できるだけ標準品採用についての打合せをする。
(6)艤装品については、船主の希望品目もあるので、これらを十分知り、装着後問題を起さないようにする。
船舶の種類、大きさ、航行区域等によって、次に述べる電気的基本事項を決めて、船主並びに関係先と協議し、計画を行う。
(1)電圧と周波数
(a)供給電圧は次に掲げる値をこえないこと。(船舶設備規程)
(拡大画面:11KB) |
|
注 |
上表のように規定されているが、工事条件を決めて、電熱設備は500Vまで、また、照明設備のうち探照灯、投光器及び集魚灯は250Vまでの使用が認められている。但し、小型船舶安全規則では上記にかかわらず、250Vを上限としている。 |
周波数
周波数は50Hzと60Hzとがあるが、一般には60Hzが採用されている。
(2)配電方式
配電方式は次に掲げる何れかとすること。
以上のように十分艤装内容が理解できれば、次のような第2段階の構想を必要とする。
(1)竣工年月日と照合して、艤装設計、艤装工事、艤装品の内作期間、社外からの購入品の納期等のタイムスケジュールの作成をする。
(2)主要機器及び主電路の配置など予め構想をもって関係部課と打合せをする。
(3)船主の特殊要求についての検討とその結果の諾否。
(4)新規製品に対する検討、対策及び工作期間の予定表作成。
(5)船体の建造方式即ちブロック別艤装か、ユニット艤装にするか、関係部署と打合わせ、電気艤装設計図の区割り方針を決める。
(6)電気機器の前部をリストアップして電力調査表を作成する。
(7)前記電力調査表から主発電機の容量と台数を決定し、補助発電機の要否並びに船種及び航路により非常発電機の要否、さらに一時使用の蓄電池の要否などを決定する。
(8)電動機の要目(容量、形式、定格、台数、始動方式)を調査し電動機要目表と注文仕様書を作成する。
(9)動力機器、照明器具、通信機器、航海機器、無線機器、自動化計装機器などの要目表と注文仕様書を作成する。
(10)上記電気機器用電線調査表を作成する。
5・1・2の電気的基本計画が決定すれば、次のうち何れかを具体化し、図面作成に入る。
(1)配電方式
(a) |
単相交流二線式 |
|
一般電灯及び小形電動機等への配電に使用する。(図5・1は一例を示す。) |
(拡大画面:9KB) |
|
図5・1
(b) |
三相交流三線式 |
|
一般に電動機用である。電灯、小形モータ等には変圧器を使用し440〔V〕から110〔V〕に変圧して使用する。(図5・2は一例を示す。) |
(c) |
三相交流四線式 |
|
220〔V〕は電灯用、また380〔V〕は電動機用に使用する。欧州の船にはこの方式が多くみられる。(図5・3は一例を示す。) |
図5・2
図5・3
(2)配電方式
(a) |
樹枝状方式 |
|
図5・4のように、配電盤からの幹線から分岐線が樹枝状に引出される方式で、通常の船舶に使用される。 |
この外に環状方式があるが、自衛艦及び大型客船等に採用されるので、ここではこれを省略する。
図5・4
(b)相数変換配電方式
図5・5のようにスコット結線の変圧器を使用し、三相から二相又は二相から三相に相数変換ができ、漁船の電源に使用される。
図5・5
(c)単相変圧器3台及び単相変圧器2台で三相電源をつくる方式
通常は単相変圧器3台を△結線として、三相三線式の(5・1・2の(2)の(3)参照)配電方式を使用するが、その内の1台が故障すれば、図5・6のように単相変圧器2台をV結線にして、3相電源を得て、3相負荷に給電する方式にする。
この場合は、V結線の変圧器容量は3台の場合の57%になることに注意を要する。
図5・6
(3)特殊電路に対する配慮
(a) |
マグネットコンパス付近の電路は、マグネットコンパスに電磁誘導の影響のないように布設する。 |
(b) |
敏感電路と妨害電路と一般電路との関係は重要である。敏感電路に静電、電磁の誘導がないよう、電路によってある値だけ間隔をおくか、シールド線を使用する。 |
(c) |
タンカーにおける一般電路と本質安全回路の電路との関係も上記と同様に配慮し、かつ、危険場所の電路も規則で決められたとおりとする。 |
(4)電路系統図
系統図を分類すれば次のようになる。
(a) |
主電路系統図 これは発電機から出発して配電盤・区電盤、分電盤に至る主電路を画くもので、装置別のものでも、その主電路はこれに入る。いわゆる樹枝状配線の主幹となる電路である。なお、非常発電機がある場合は主発電機との関係系統も作成しなければならない。 |
(b) |
装置別電路系統図 これは各装置別に作成するもので、動力、通信、照明、航海、計装、無線機器別に分け、また、主要補機、操舵機器、航海灯などは特別の系統図を、作成しなければならない。 |
(5)各種機器の結線図
各機器の結線図を必要に応じ作成し、配線工事の結線に役立せるが、端子符号の間違いのため思わぬ事故を招くことがあるので、注意を要する。故障の発見、故障の修理にも役立つので作成した方がよい。
(6)各種装置の電路布設図
前記系統図に従って船体のどの部分に電路を布設するか、関係部と協議の上図面を画く。
(7)各種装置の配置図
各種装置の配置決定に当たってはその用途を十分考慮し、また、関係部とも協議して決定したものを配置図に画く。重要装置の配置については船主との協議も必要である。
(8)船内試験方案
艤装完了後、電気機器が所期の性能を有するかの試験を実施する。したがって、あらかじめ工事完了予定と照合して試験の順序と試験の内容を定め、船主及び関係部、必要があれば関係検査員と協議して、方案を作成する。
(9)関係先への承認図書
以上述べた図面、試験方案、必要と思われれば仕様書等を船主並びに関係官庁、船級協会宛承認用として、必要部数提出し、承認された後工事用図面、試験方案、仕様書などが有効になる。これらが正式に返却されるまでは日数を要するので、急ぐ場合は事前に打合せすること。
下記完成図書を作成し、船主へ提出する。
(1)各種装置の電路系統図、電路布設図、配置図
(2)各種装置の詳細図、結線図、取扱説明書、試験成績表
(3)各種装置の予備品目録表
(4)船内試験の試験成績表
(5)電力調査表
|