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3.4 神戸コレクションの品質管理と露点温度に見られるデータ品質の特徴
小司晶子、石井正好、杉本悟史、松本隆則(気象庁)
 
1. はじめに
 このたび、平成7年度から日本財団の補助事業として続けられてきた神戸コレクションのデジタル化が完了する。本事業で行ってきた品質管理の概要を紹介し、さらに観測方法の変遷等によるデータのバイアスの補正の必要性について報告する。
 
2. 神戸コレクションの品質管理
 気象庁では、デジタル化された神戸コレクションデータを海上気象資料の標準的な国際交換形式(IMMT−1形式)に変換し、品質管理をWMOの品質管理基準に従って行った。変換と品質管理の手順は次のとおりである。
(1)観測表そのままの形式のデータ(ベタデータと呼ぶ)のチェックを行う。日付、時刻、位置、観測値、の各項目にあり得ないコードが含まれていないか、ベタデータの種類指示符(2または3)の誤り、温度や気圧値の単位指示符の誤り、桁ずれ、などについてチェックを行う。
(2)ベタデータからIMMT−1形式に変換する。観測日付・時刻は地方時間から世界標準時に変換、また位置は度・分の表記を0.1度単位に変換、温度、気圧の観測値は船舶ごとに単位が異なるので単位指示符により0.1℃、0.1hPaに変換する。風向・うねり方向は32方位を36方位に変換、風力・波浪階級は1knot、0.5mに変換する。それぞれの変換式・変換表は、Manabe(1999)が詳しい。
 露点温度(Td)は、乾球温度(Ta)、湿球温度(Tb)、海面気圧(P)から次式で求めている。
TEw=TK(1−TO/Tb)−0.05028*log10(Tb/TO)
+1.50475*10−4*(1−10−8.2969*(Tb/TO−1)))
+0.42873*10−3*(10 4.76955(1−T0/Tb)−1)
+0.78614
Ew=10TEw
E=Ew−AP(Ta−Tb)
Td=C1*logl0(E)
+C2/1og10(E+1.0)
+C3*E
+C4/E
+C5
 ここで、Ewは飽和蒸気圧、Eは水蒸気圧であり、A、TK、TO、C1〜C5、はそれぞれ以下の定数を用いた。
A=0.000662(乾湿球定数)
TK=10.79573
TO=273.16K
C1、C2、C3、C4、C5=水蒸気圧Eに依存する定数
(3)IMMT−1データの品質管理を行う。同一時刻チェックや移動速度情報により、観測日付、時刻、位置を修正する。陸上データはエラーメッセージを出力し、必要があれば修正する。観測値には、WMOの品質管理基準に従い品質管理フラグ(0〜9)をたてた(第1図)。ほとんどのデータがフラグ1(正しい)であるが、これは正常範囲内にあることを示すものである。調査研究に利用する際には3.で示すように観測手法等によるバイアス補正が必凄となる場合もある。
 
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第1図 神戸コレクションの要素別データ数
 
3. 露点温度の品質について
 今回のデジタル化事業に伴い、気象庁は神戸コレクションを用いて100年間の客観解析データベースを作成している(石井他,2002)。水温、風、気温については歴史的海上データを扱う際に必要とされている補正を行っているが、露点温度に関しては補正は行っていない。しかし、このデータベースから全球平均の時系列を計算すると、1960年頃を境に以前の露点温度が他種の温度に比べ正偏差に偏っている。第2図に気温偏差と露点温度偏差の時系列を示すが、水温偏差と比べても同じ傾向がみられる。平面分布でみると北大西洋や北太平洋など観測データの多いところで大きく正偏している。
 鈴木(1996)の「湿度計の歴史」には、日本では1940年代まで乾球・湿球とも自然通風で測定していたが、それ以降は強制通風による乾湿計が用いられた、という報告がある。さらに、山本義一ほか(1947)によると、風速4m/s以下の場合、水蒸気圧の計算に用いる乾湿球定数が一定でなく風速に依存する、という。
 このため、風速4m/s以下に限定して、北大西洋で観測されたデータを抽出し、1950年以前の露点温渡観測値と以後の観測値の品質について比較検討した。期間は1920−22年と1980−82年とした。
 露点温度偏差(Td)と気温偏差(Ta)の関係を見るため、雲量は8octasに限定して、散布図と回帰直線(Td=aTa+b)をそれぞれの年代についてプロットした。表には、回帰式の係数、標準誤差、データ数を示した。
 回帰係数aは1920年代、1980年代ともほぼ1であることから、露点温度偏差と気温偏差の変化量は年代にかかわらずほぼ等しいことになるが、回帰式の切片bはそれぞれ0.91、0.29で0.62℃の差がある。これは第2図の1960年以前の露点温渡と気温偏差の差とほぼ等しい。
 
4. 考察
 今回のデジタル化により、310万通のデータが気候の長期変動等の調査に利用可能となったが、歴史的観測データには補正が必要な要素もある。本調査では、北大西洋で観測された1920年代と1980年代の露点温度に系統的な違いが見られた。日本では露点温度の観測測器が1950年以降変化したという報告があることから、それに伴う差異であることも推測される。今後、調査を進め、地域特性や雲量や風速を考慮した回帰式を作成し、露点温度の補正量の見積を検討したい。
 
表 第3図で示した回帰直線の係数、標準誤差、データ数。
  回帰係数 標準誤差(℃) 観測データ数
a B
1920年代 0.97 0.91 1.46 267
1980年代 1.01 0.29 1.65 2200
 
参考文献
Teruko Manabe, 1999:The Digitized Kobe Collection,
Phase I:Historical Surface Marine Meteorological Observations in the Archive of the Japan Meteorological Agency, Bull Amer. Meteor. Soc., 80, 12, 2703−2715
石井正好, 小司晶子, 杉本悟史, 松本隆則, 眞鍋輝子, 2002:海面水温ならびに海上気象要素の客観解析データベース、2002年秋季大会講演予稿集, 82, 96
鈴木宣直, 1996, 湿度計, 気象研究ノート, 185, 25−36
 山本義一, 山本孜, 1947:乾湿計公式に対する風速の影響並びに新乾湿計理論, 応用物理, 16.6〜8, 100−105
 
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第2図 
全球平均した露点温度偏差(○:13ヶ月移動平均)と夜間気温偏差(●:13ヶ月移動平均)。細線は月平均値を示す。
 
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第3図 
北大西洋(35−40N、50W−20W)における露点温度の偏差と気温の偏差の散布図と回帰直線。実線および“*”は1920−1922年、点線および“○”は1980−82年の観測データ。







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