まとめ
本事業では、神戸海洋気象台が蓄積してきた歴史的な海上気象観測データを約42万4千通電子媒体化した。これらを平成7年度から電子媒体化してきたデータと合わせると、合計約320万通の「海上気象報告」が電子媒体化された。これらのデータは気象庁において品質管理され、これまでのデータと併せてCD−ROMに納めて、国内外の気象海洋研究機関と利用者へ配布された。
冷夏年の北太平洋の海面水温分布を解析した結果、夏季は日本近海から北緯40度線を東へ沿って東経180度付近まで有意な負偏差が分布している。同じ北緯40度線上を東経180度から西経160度まで正偏差が分布し、アラスカ沖に有意な負偏差が分布する。前年9月から夏季までの水温偏差分布の発展は、前年9月の日本の東海域にある正偏差海域が北緯40度線に沿って次第に東へ伸びて行く。これに対応してアラスカ南沖にあった負偏差が次第に小さくなってゆくが、春になって北緯50〜60度付近で西に伸びて千島列島付近に到達する。6月にはこの負偏差が南下して7、8月に日本近海を覆う。旱魃年では、日本近海から北緯40度線を西経170度付近まで有意に正偏差を示し、冷夏の時と逆の傾向を示す。前年9月からの水温偏差分布の時間的発展は冷夏の時ほどはっきりしない。
解析作業部会により次の研究成果が上げられた。その1、「レジームシフトの季節発展」によると、(1)太平洋域にシグナルを持つ5回のレジームシフトは、両時期において全球規模の広い海域で符号反転を示す。(2)北半球でシフトが起こる前年の7−9月に太平洋赤道域で符号反転が起こり、その後1−3月に北太平洋中央部やアラスカ湾の符号反転が起こっている。(3)インド洋や北大西洋の反転は1−3月に大きく、南太平洋の反転は前年の7−9月に顕著に現れている。(4)レジームシフトは、1年で速やかに状態を反転させるENSOと同期して起こる。(5)レジームシフトは、ENSOモード、北太平洋モード、北極振動モードの同期した符号反転として表される。(5)太平洋熱帯域のシグナルは、東部では風偏差の弱化に伴って消滅するものの、中央部ではシフトの後も持続する。(6)ENSOモードと北太平洋モードの同期した符号反転は、Masusda(2002)のモデル結果と一致する。
その2、「北半球冬季の海上気象要素の長期変動」によると、KoMMeDS−NFは、空間的には北太平洋の日本近海・ハワイ付近・米国西岸およびニューギニア付近を主とした海域において、時間的には1920年代以降においてCOADSを顕著に補充した。冬季平均の時系列に対する経験的直交関数解析を行った結果、北太平洋および北大西洋における海面水温の数十年スケールの変動には、各海域において固有な変動と、両海域間に関連する変動が存在することが示唆された。
その3、「神戸コレクションの品質管理と露点温度に見られるデータ品質の特徴」によると、露点温度に関しては補正を行っていないが、全球平均の時系列を計算すると、1960年頃を境に以前の露点温度が他種の温度に較べ正偏差に偏っている。日本では1940年代までは乾球・湿球とも自然通風で測定していたが、それ以降は強制通風による乾湿計が用いられたという報告があり、さらに風速4m/s以下の場合、水蒸気圧の計算に用いる乾湿球定数が一定でなく風速に依存するという。これによる換算誤差の可能性も推測される。今後は新しい回帰式を作成し、露点温度の補正量の見積りを検討したい。
本事業において電子媒体化されたデータは、品質管理されて国際的なデータセットと統合される予定である。これら歴史的なデータは、地球環境変動・環境保全の研究・対策にとり大変貴重なものである。今後はこのデータが多くの分野で利用されることが望まれる。
気候変動の解明には長期間蓄積されたデータが不可欠であるが、残念ながら1940年代以前のデータが十分ではない。この事業を契機として、国内外の気象および海洋の諸組織が持つ紙ベースのアナログデータが、電子媒体化される動きが加速することを願いたい。
日本の冷夏と北太平洋の海面水温には何らかの関連があることが見出された。この仕組みがどのようなものであるか、今後調査する必要がある。旱魃と海面水温には何らかの関連があることが示されるが、冷夏ほどはっきりしていない。日本の降水量と海面水温の関係は局所的に解析することが必要かもしれない。
最後に、8年間もの長期間にわたりご支援いただいた日本財団、およびご指導いただいた委員会委員、解析部会委員の皆様に厚くお礼申し上げます。
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