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図4.3.3に2002年5月5日8時の瀬戸内海における変更前、変更後の視程分布図を示す。変更前、変更後ともに佐多岬の北の海上は霧が発生したが、淡路島の北西の海上は変更後のみ計算された。観測では男木島、坂出、下津井など備讃瀬戸地域でも霧が発生しており、モデルを変更したことによって変更前には予測することのできなかった霧を予測できていた。
図4.3.4に変更前と変更後の坂出の降水量と霧発生地点(図4.3.3:地点A)における1層目(地上10m)の気温と湿度の時系列図を示す。降水量は変更後の方が多く、時間変化も観測値に近かった。降水のあった18時以降は変更後の方が気温は低く、湿度が高かった。
雨霧は、雨滴が大気下層で蒸発する、あるいは落下した後地表面から蒸発することによって大気下層が湿潤になり発生する。本研究では深い対流・cold rainスキームに変更したため降水量が増加した。また、地表面過程を変更したため降雨後の大気最下層への水分供給が増加し1層目が湿潤になり、潜熱フラックスも増加して気温が低くなった。そのため、変更前には予報することのできなかった霧を予報することができたと考えられる。
以上の結果から気象モデルを変更することで、霧予測は改善され、変更前に予報できなかった雨霧も予報できるようになることが示された。この事例では、濃霧注意報は岡山で午前4時10分、香川で午前4時に発令されていた。本研究では前々日の21時を初期値とした計算で霧を予報しており、気象モデルを使うことで早い段階で霧を予見できる可能性が示唆されている。
しかし、これらの霧は地表面近くで湿った空気が海上や地表面で冷却されて発生した霧で、晴霧と同じ発生機構を持つ移流霧と考えられる。雨霧の発生機構の一つである蒸発霧や混合霧など、雨を伴った雲が接地して発生する霧は、再現できなかった。再現できなかった理由は以下の2つが考えられる。
1. 検証事例が2事例と少なかった。
2. 降水を伴う雲の雲低が100m以下に下がることを予報できなかった。
したがって、今後は事例を増やして実験を行う必要がある。また、雲低高度を適切に予報するために、地表面過程や降雨過程などをさらに洗練する必要がある。しかし、霧が発生するかどうかの境界は様々な因子がからむ非常に微妙な問題であり気象モデルですべてを再現するのは非常に困難である。したがって、気象モデル自体を変更する以外の方法も考慮する必要がある。
気象モデルの変更以外の方法としては以下の方法が提案されている。
・データ同化によって観測値を反映させる(Fanyou Kong, 2001)
・気象モデルの結果を因子として、MOS法を適用する(防災・雪氷研究室,1996)
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| 変更前(●:霧の観測された地点) |
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| 変更後(●:霧の観測された地点) |
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図4.3.3 2002年5月5日8時
瀬戸内海の視程分布図(上:変更前、下:変更後)
図4.3.4 変更前と変更後の坂出の降水量と霧発生地点の温度と湿度
(1)霧の理解のために 1982 沢井哲滋
(2)日本における濃霧による視程不良害発生の気候学的特徴
J.JSNDS 19−1 99−119(2000)山本哲
(3)数値予報を用いた濃霧発生予測手法の検討
日本道路公団試験研究所報告Vol.33(1996−11)防災・雪氷研究室
(4)Coastal Fog simulations Using Mesoscale Model, Coastal
Meteorology Research Program, University of Oklahoma, Norman, Oklahoma, USA, 2001,
Fanyou Kong (St, John's Canada 15−20 July 2001)
(5)霧を伴うやませの気象特性 天気39.8 井上君夫
(6)備讃瀬戸の海霧(事例解析)
研究時報47巻別冊 秋山淳一
(7)備讃瀬戸海域における濃霧の発生のメカニズムと、その社会的影響 森一彦
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