第2章 霧と解析事例
本章では、沿岸・内湾での海霧予測の実用化研究(平成13年度事業)を踏まえて、瀬戸内海の霧を分類し解析を行う事例を抽出する。
霧は、水蒸気を含む空気塊の気温が下がるか水蒸気が増加するかのいずれかあるいは両方が重なり、空気塊が水蒸気について過飽和となり霧粒が発生する現象である。発生原因別に分類すると以下の5種類に分類することができる。
1. 気塊が断熱膨張してできる霧(滑昇霧)
2. 2つ以上の気塊が混合してできる霧(混合霧)
3. 放射冷却によってできる霧(放射霧)
4. 暖かく湿った気塊が地表面によって冷やされてできる霧(移流霧)
5. 暖かい地表面あるいは水滴から水蒸気が補給されてできる霧(蒸発霧)
瀬戸内海は海上のため地形性の原因は考えられない。また、海は海面温度の変化が小さいため放射霧も発生することは少ない。したがって、瀬戸内海の霧は主に、混合霧、移流霧、蒸発霧が発生していると考えられる。
一方、沿岸・内湾での海霧予測の実用化研究(平成13年度事業)の天気図による解析から、瀬戸内海の霧は前線の影響による霧と、暖気の移流による霧に大別することができた。
前線の影響による霧は混合霧、蒸発霧、移流霧の複合的役割のものと考えられ、雨を伴うことから雨霧とし、暖気の移流による霧は晴れた日に発生することから晴霧とした。以降はこの2種類の霧について解析を行う。
瀬戸内海における典型的な晴霧と雨霧の特徴を以下に示す。
(1)晴霧
瀬戸内海が高気圧に覆われて風が弱く、比較的晴天時に発生する。高気圧の縁辺流などの影響で暖かく湿った空気が流入し、水温の低い海水によって下層から冷やされ、飽和して発生する。気温が海面水温より高い5月から7月にかけよく発生する。
(2)雨霧
低気圧や前線が四国付近にあり、上空から比較的暖かい雨滴が落下するときに発生する霧である。雨滴は落下中に蒸発し、凝結して霧になる。あるいは、前線を挟んだ2つの気塊が混合して発生する。
気象庁発行の「気象要覧」によると、2000〜2002年の最近3年間の瀬戸内海における海上視程不良害による気象災害は、表2.2.1のとおりである。
表2.2.1 最近の霧による気象災害(2000〜2002年)
発生日 |
発生海域 |
船舶被害 |
事故当時の気象状況 |
気象災害名 |
2000.5.23 |
徳島県鳴門海峡(兵庫県淡路島) |
船舶被害1隻
7:23に茨城県のかつお一本釣り漁船が浅瀬に乗り上げた |
暖気の移流 |
海上視程不良害 |
6.1 |
愛媛県 |
海上欠航 |
停滞前線南岸低気圧、暖気の移流、松山視程800m |
海上視程不良害 |
2002.1.16 |
愛媛県瀬戸内海 |
船舶被害2隻、航空欠航・遅延 |
日本海低気圧、停滞前線暖気移流 |
海上視程不良害 |
48 |
愛媛県瀬戸内海 |
海上欠航・遅延 |
移動性高気圧、暖気の移流、安居島霧観測所5〜9時視程100m |
海上視程不良害 |
5.4〜5 |
愛媛県瀬戸内海 |
船舶被害2隻、海上欠航・遅延 |
停滞前線、暖気の移流、安居島霧観測所4〜5日視程100m |
海上視程不良害 |
6.5 |
岡山・香川県 |
死者2人、船舶被害4隻、海上欠航 |
移動性高気圧、岡山視程8000m(5日)、香川県男木島霧観測所5日視程500m |
濃霧、海上視程不良害 |
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