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3.「融合的生涯学習支援システム」としての「学社融合」
(1)「学社融合」組織体制のモデルとしての「学社融合システム」16)
「学社融合」の活動を展開するための組織体制のモデルとしては、「学社融合システム」が考案されている。
まず、地域・市町村レベルでは、生涯学習関連機関・施設・団体がもっている学習機械・活動のうちの「学社融合」にふさわしい活動をまとめ、「学社融合」プログラムとして提供するために、社会教育施設や学校の余裕教室などを拠点として「学社融合機構」を設置する。これは「地域」でつくられることもあれば「広域的に」つくられることもあり、ここで提供される諸活動は「子どもから高齢者までのあらゆる人々にサービスするものであるが、特に青少年へのサービスに重点を置く方がよい」とされている。また、「学社融合機構」の運営、企画・プログラムの開発、学習成果の認定などを行う「学社融合システム委員会」を、市町村の生涯学習センターなどに設置する(学校の余裕教室に設置することもある)。さらに、学校、公民館、児童館などに「学習相談窓口」を設置する。この「学社融合機構」、「学社融合システム委員会」、「学習相談窓口」を「相互に関係づけたもの」が、「学社融合システム」である。これには、教育委員会、首長部局、学校、社教育施設・団体、民間団体・グループなどの生涯学習関連機関・施設・団体が参加することとされている。なお、山本氏は、「学社融合機構」について、中教審第一次答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」(1996年7月)において提言された「地域教育活性化センター」に設置することを提案している 17)。
また、都道府県レベルでは、都道府県の生涯学習センターに、「広域の企画、プログラムの開発、学習成果の評価認定・互換基準の作成、連絡調整など」を行う「都道府県の学社融合システム委員会」が設置され、地域・市町村レベルの「学社融合システム」と「相互関係」を保つこととされている。さらに、「都道府県の学社融合システム委員会」が置かれる都道府県の生涯学習センターは、「中央企画委員会」、「教育・学習情報提供機関」、国立青年の家・少年自然の家などの「国レベルのアイディア、情報提供機関」を通じて国レベルの機関とも関係を持つこととなっている。
(2)「融合的生涯学習支援システム」の提唱と「学社融合システム」
「学社融合」の組織体制に関わって注目されることは、「融合的生涯学習支援システム」の一環として「学社融合システム」が構想されていることである。
山本氏によれば、「最近の学社融合の考え方は、融合的生涯学習支援システムの提唱の中から出てきたものである」 18)。
「融合的生涯学習支援システム」は、従来「生涯学習体系への移行」をすすめる方策として用いられてきた連携やネットワークの問題点を克服するために考案されたものである。
すなわち、従来は、生涯学習支援のために、「学校教育」、「社会の場での計画的な教育・訓練(たとえば社会教育、職業能力開発など)」、「家庭の場での教育や個人の学習支援(たとえば家庭教育、マルチメディアによる遠隔教育)」の三者がそれぞれ独自に生涯学習支援を行うだけでなく、「連携・協力」したり、そのための「ネットワーク」をつくったりしてきた。しかし、山本氏は、「連携・協力」や「ネットワーク」では、生涯学習支援が不十分となるという問題点を感じていた。その原因は、たとえば「学社連携」の場合、「責任の所在は社会教育か学校教育のいずれか一方となるはず」のため、「学校教育」は「学社連携」活動を「社会教育事業とみなしてすべてを社会教育側に委ねようとするし」、「逆の場合には社会教育側が学校教育側にすべてを委ねようとする」ことに求められた 19)。
そこで、従来「学校教育」、「社会の場での計画的な教育・訓練」、「家庭の場での教育や個人の学習支援」が「連携・協力」を行ってきた領域を、三者の「融合」領域とし、「責任の所在」も従来のような「学校教育や社会教育」ではなく「生涯学習部局」や「教育文化・スポーツ振興のための第三セクター」などに置くことで、従来の「連携・協力」や「ネットワーク」の問題点の克服を意図する生涯学習支援の体系が考案された。このシステムが、「融合的生涯学習支援システム」である 20)。
「学社融合」は、この「融合的生涯学習支援システム」のうち、「学校教育」と「社会の場での計画的な教育・訓練」の「融合」領域のことを指しているのである 21)。そして、山本氏が「このような新しい学社融合は、学校教育と社会教育の重なるところに成立するので、従来の教育領域に閉じ込めようとすると無理がある」と述べていることから 22)、「学社融合」の責任の所在も「生涯学習部局」や「第三セクター」などに置かれることが想定されていると考えられる。
このように、「学社融合」の「融合」たるゆえんは、従来学校教育、社会教育行政のいずれかによって実施されることの多かったとされる「学社連携」の教育活動を、「共有」化し、「より上位の」領域、すなわち、必ずしも教育行政に限定されない「生涯学習部局」や「第三セクター」管轄下の活動へ「融合」させて展開していくところにあるといえよう。そのことによって、従来の連携やネットワークの問題点を克服し、より強固な地域・自治体生涯学習支援ネットワークの組織体制の構築を促進することが展望されていると考えられる。
なお、山本氏は、「学社融合のシステム化」について、「当面の教育問題に対処するための学校・地域社会・家庭の連携をすすめる方策ともなりうるが、本来的には、生涯学習社会の教育・学習システムを構築する一連の改革の中に位置付けられるべきものである」と述べている 23)。つまり、「学社融合」の主眼は、学校と地域社会の連携による教育問題への対応以上に、生涯学習支援体制の確立により重点が置かれていると考えられる。
むすびにかえて
臨教審以降、生涯学習政策が推進される中で、地方自治体では、必ずしも教育行政に限定されない(首長部局も参加する)総合行政としての生涯学習行政の展開、社会教育施設の財団・第三セクターなどへの委託、さらには、生涯学習まちづくりのネットワーク化が進行した。そのことで、一般行政の教育行政への関与の強化、教育行政(とくに社会教育行政)の「消極化、縮小・限定化」や「独自性・固有性の空洞化」が進んでいるといえる 24)。それゆえ、総合行政としての生涯学習行政あるいは第三セクターに責任の所在を置くことが想定されている「学社融合」論は、学校教育も含めた教育行政の独立性の大幅な後退につながり、学校に対する一般行政の指導力強化につながる性格を有しているといえよう。
また、近年の生涯学習政策は、「地域の教育機能の向上」、「地域コミュニティの育成」、「地域振興」のために、教育行政と首長部局、民間団体などとの「連携」を強く求めている 25)。したがって、以上のような「学社融合」論が「教育改革」に反映されるならば、教育行政というよりは一般行政とくに地域振興行政に引き寄せられた、地域・自治体生涯学習のネットワーク構築が進むおそれがあると思われる。学校は、そのようなネットワークを構築するさいの一つの拠点として位置づけられることになるだろう。そのさい、東海・名古屋などのように、生涯学習政策が展開される中で、社会教育施設の再編・合理化が進んでいる地域・自治体においては 26)、ネットワークにおける学校の位置づけは相対的に高くなるであろう。
総じて、「学社融合」論は、臨教審以降の「生涯学習体系への移行」を学区ないし地域・自治体レベルにおいてより徹底させることが意図された、地方教育行政再編論または地域・自治体生涯学習の組織体制論として性格づけられると思われる。
しかし、論はあくまで論であって現実ではない。また、学校と地域が結びついていくこと自体は必要であると考える。いま、「学社融合」と関連した活動が、さまざまなかたちで各地で展開されつつある 27)。学校と地域の結びつきのあり方を展望していくためにも、以上のような「学社融合」論の性格を把握した上で、その背景と活動・実践の展開を、社会と教育の実態(深刻な教育・少年犯罪問題、地域における子育て・学校づくり・社会教育の実践・運動、青年の自治的な学習・文化活動、ボランティア・NPOなど)、また政策的動向(経済的不況、行政改革、危機管理体制の構築、有事法制など)とのかかわりにおいて、実証的に分析していくことが求められよう。
最後に、以上のような「学社融合」論の検討から見えてくる、学校経営をめぐる「教育改革」をとらえる上での論点をいくつか提示しておきたい。
第一に、「学社融合」活動は「学校のスリム化」に重なる部分がありつつも、必ずしも学校教員の負担の軽減にはつながらない可能性がある点に留意しておきたい。地域の人々が学校教育活動に参加したり、これまで別々に行われてきた学校教育活動と社会教育活動を「共有」化するなどして、「学校のスリム化」を進めるといっても、そのためには、学校教員と社会教育職員、地域の人々との打ち合わせなどが必要な場合もあるだろうし、「学社融合」活動の一環に位置づく開放講座などは教員の教育負担を増加させかねないものと思われる。山本氏は別稿で「学校・家庭・地域の連携」のために、教員が開放講座の講師となることや、地域の趣味、スポーツ、文化活動に入ることを求めている 28)。この点をどうとらえるかついては、功罪両面あると思われるが、いわゆる校長リーダーシップ論や教員評価などとのかかわりにおいて、今後詳紬に検討していくことが必要であろう。
第二は、いわゆる「学校選択」と「学社融合」との関連構造をどうとらえるか、という問題である。たとえば、「学校選択」制度で注目をあつめている東京都足立区は、学校と地域の結びつきを求める「学社融合」も重視されていないわけではない 29)。「学校選択」と「学社融合」の関係を矛盾としてとらえるのか、「二つの階層に対応する二種類の地域対策」ととらえるのか 30)、その理解の方法が問われている。いずれにしても、「学校選択」制度が普及すれば、実態としては、競争的な教育の激化、主として社会的な困難(貧困、障害、差別など)の度合いにともなった青年期の分裂(学生、青年労働者)が促進される可能性は十分にあるだろう。それゆえ、二つの分裂した青年期の統一をめざす青年期教育研究 31)、「社会的に困難を抱える人々の教育権・学習権保障の問題の検討」を通じて「教育ないし教育権・学習権保障の本質に迫ろうとする方法」としての教育福祉研究 32)の積極的継承と発展が求められているといえよう。
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