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海洋科学技術研修テキスト

 事業名 マリンサイエンス・スクール事業
 団体名 海洋研究開発機構 注目度注目度5


フロンティア研究
 フロンティア研究は、国の内外に開かれた柔軟な研究体制を実現するため、特定の研究領域または課題について、(1)強力な研究リーダーの元に(2)研究の期限を定め(3)契約に基づく研究員を結集し、先導的、基礎的研究を行う「フロンティア型」というシステムに基づいて行われています。当センターにおいて、現在実施されている「フロンティア型」の研究は、極限環境生物フロンテイア、固体地球統合フロンティア、地球フロンティア、地球観測フロンティアです。
 
(1)極限環境生物フロンティア
 海洋は、地球表面の約70%を占め、その海洋の90%には深度1,000mを越える深海の世界が広がっています。海は、平均深度が約3,800mで、高水圧(最高約1000気圧)と低温(約2〜4℃)の世界ですが、活動的な熱水鉱床*1が存在する場所では、超高温(約200〜350℃)の世界も存在するといった、想像を絶する極限環境なのです。そのような訳で、長い間ここは、生物など生存することのできない暗く冷たい死の世界だと誰もが信じてきました。
 ところが、1977年に米国の潜水調査船「アルビン号」が太平洋東部のガラパゴス諸島沖の海底を調査したところ、そこから熱水が噴き出す現象を発見し、その噴き出し口(熱水孔)周辺に多様な生物が多数生息しているのが観察されました。その後、高性能の深海潜水調査船の開発や深海からの試料採取の技術的な向上によって、高水圧低温、暗黒といった極限環境の深海にも多数の生物が生息していることが明らかになりました。特に微生物は、多数発見されており、世界最深部のマリアナ海溝でさえ、180種類もの微生物の存在が確認されました。しかし、このような微生物がどのようにして高水圧下に適応し、生育しているのか、また、どのような性質の微生物がどれだけ存在するのか、といったことに関してはほとんど解明できていません。
 
*1 マグマの活動により、海底から熱水を噴き出している場所で、多くの噴出孔はチムニーと呼ばれる煙突のような形状をしています。噴出される熱水には、白く見える「ホワイトスモーカー」と、黒く見える「ブラックスモーカー」と呼ばれるものがありますが、これらの色の違いは、熱水の温度差に起因しています。すなわち、噴出する熱水の温度が低い(約300℃以下)場合には、比較的低温で溶解する硫化バリウムや硫黄が多量に存在するために白く見え、熱水が高温の場合(約300℃以上)には、亜鉛やその他の硫化物が多量に存在するために、黒く見えます。
 
「かいこう」によるマリアナ海溝底での低泥サンプルの採取
 
沖縄トラフより発見された新種の超好熱古細菌
 
 そこで、海洋科学技術センターでは、このような極限環境下に生育する深海微生物〔好圧性微生物*2、耐圧性微生物*3、好冷性微生物*4、好熱性微生物*5、好塩性微生物*6〕に注目して、その深海における働きや極限環境に適応するための仕組みに関する研究に取り組んでいます。また、これらの研究から、生命の起源や進化などを探りさらに、深海微生物のもつ潜在的能力を産業や環境浄化へ応用することにより、人類にも大きく貢献できると期待されています。
 
*2 高水圧下でよく生育する微生物で、大気圧下では生育できないものもいます。
*3 通常、大気圧下でよく生育するが、高水圧下でも同様に生育できる微生物。
*4 冷水下(約15℃以下)でしか生育できない微生物。
*5 高温(約60℃以上)を好んで生育する微生物で、113℃でも生育するものが見つかっています。
*6 高い塩濃度(15%以上)を好んで良く生育する微生物で、低い塩濃度では生育できません。
 
1. 深海微生物の採取と分離・培養
 このような研究を行うために、「しんかい2000」「しんかい6500」「かいこう」などを活用し、海底の泥を特殊な採泥器で採取します。採取したサンプルは、採取した場所と同じ温度・圧力を維持した状態で陸上の「深海微生物実験システム」と呼ばれる実験施設に運び、そこで、温度・圧力を維持したまま分離・培養をします。なお、このシステムは、採泥器、希釈装置、分離装置及び培養槽の4つのサンプリングシステムから構成されています。
 
分離装置及び培養槽の外観
 
2. 深海微生物のゲノム解析及び利用
 微生物が極限環境に適応しているとき、その原理は、遺伝子情報の中に組み込まれているはずです。したがって、理論的にはその微生物のゲノム(genome:染色体上の全ての遺伝子情報)を解析すれば適応機構が分かるはずです。このような考えのもとに好アルカリ菌Bacillus haloduransC−125株のゲノム解析を行った結果、世界でも有数のスピードで塩基配列が決定され、わずか1.5ケ年で、4.2Mb(megabase:百万塩基の意、すなわち420万の全塩基)の配列が決定されました。
 塩基配列が決定した後は、その情報を活用して好アルカリ性の機構解明や有用酵素の生産性の向上を試みるなどの研究に移ります。それと同時に今後は、他の極限環境微生物のゲノム解析にもチャレンジする予定です。
 
Bacillus halodurans C−125株の染色体の物理地図
 
3. 深海から分離された有用微生物
 これまでに海洋科学技術センターの研究から見い出された有用微生物には、次のようなものがあります。
 
・低温、高温で活性のある澱粉分解酵素生産細菌(好冷性菌、好熱性菌)
・多糖類からオリゴ糖を生産する多糖類分解細菌(中温性菌、好熱性菌)
・高圧下で活性化される蛋白質分解酵素生産細菌(好圧性菌)
・溶媒耐性かつ好塩性の石油分解細菌、硫黄分解細菌(溶媒耐性菌)
・溶媒耐性を有するコレステロール分解細菌(溶媒耐性菌)
・高濃度の銅イオンに耐性を有する重金属耐性酵母菌(中温性菌)
・新規なバイオサーファクタント生産細菌(溶媒耐性菌)
 
 さらに、微生物の生産する酵素や微生物そのものを用いて、澱粉から単糖類やオリゴ糖の生産などの食品分野への応用、海洋流出油の処理、石油製品の脱硫、PCBの分解や重金属の回収など、環境保全への応用、有機溶媒存在下でのステロイド発酵や炭化水素系化合物の酸化反応の生体触媒としての利用など、これらの微生物の産業などへの応用の可能性についても検討しています。
 
分離された石油分解細菌
 
石油分解の働き(処理前・処理後の変化)
 
好圧性酵素を生産する好圧性細菌
 
Bacillus haloduransC−125株の生産する毛髪を溶解する酵素の働き
 
(2)固体地球統合フロンティア
 日本列島周辺は、地球上で最も地震活動の活発な地域です。1993年1月に発生した釧路沖地震や1994年10月に発生した北海道東方沖地震、それに1994年12月に発生した三陸はるか沖地震などの巨大地震は、ともに海洋プレートの沈み込みに起因して起きたものです。
 固体地球統合フロンティアでは、こうした巨大地震の発生する海溝域等で、上部マントルまでの精密な地下深部構造の探査を、「マルチチャンネル反射法探査システム」や「自己浮上型海底地震計」等の先端的な探査機器を活用して行っています。
 また、当センターが開発して設置した「海底地震総合観測システム」から得られるデータおよび海上からの地球物理的手法により得られるデータなどを総合的に組み合わせることにより、プレート衝突域の地殻変動の状況を明らかにしていきます。さらに、これらの知見を基に、海溝域深部の地殻変形モデルを構築し、地震発生や地殻破壊の進行過程のメカニズムの解明を行います。
 
 
 
1. マルチチャンネル反射法探査システムによる解析
 本システムは、海面付近から海底に向けて音波を発生させ、海底下の物質(地層)境界面からの反射波を、海水面付近を曳航するストリーマケーブル(多数のマイクロホンを取り付けたケーブル)で受振し、連続的に記録したデータを解析することにより、海底下20km程度までの地下構造を詳細に把握できるシステムです。
 
2. 海底地震計のデータ等を併せた総合解析
 海底地震計を用いた屈折法*1・反射法探査によって得られた結果と震源分布を併せて総合的に解析することにより、より詳細な地下構造を把握することができます。
 
*1 人工震源から地下を通って地表まで戻ってくる屈折波や反射波を地震計でとらえて、地下の構造を求める探査方法です。屈折波や反射波が地下のどこをどのような速度で伝わってきたのかを解析することによって、地下の地震波速度構造が求められます。







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