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(3)地球フロンティア
 地球フロンティア研究システムは、地球規模で発生する異常気象や地球温暖化などさまざまな地球変動のメカニズムを明らかにし、そこから得た知見をもとに変動の予測を可能にすることと、それを通して社会に貢献することを目的としています。しかし、どの問題をとってもさまざまなプロセスが絡み合っており、それらを解明することは決して容易なことではありません。そこで、基礎に立ち返って個々のプロセスの理解を深めることと、その結果を総合して、地球変動現象全体の機構を明らかにし、モデル化すること、の双方のバランスを保ちながら研究を進めることが肝要です。
 なお、本研究システム研究は、宇宙開発事業団(NASDA:National Space Development Agency of Japan)との共同で、気候変動予測研究、水循環予測研究、地球温暖化予測研究、大気組成変動予測研究、生態系変動予測研究およびモデル総合化の6つの領域に分けて実施されています。
 
 
1. 気候変動予測研究領域
 アジアの社会と人々の生活は、エルニーニョに代表されるような短期の気候変動とアジアモンスーン*1に代表される著しい季節変動に大きく左右されてきました。日本南岸を洗う黒潮の流路変動もこうした大規模な大気海洋変動の一環で、これら一連の気候変動を予測し、対策を講じることは極めて重要なことです。
 
*1 空気は暖かいと膨張し、冷えると縮みます。冷えて密度が濃くなった空気は、密度の薄い暖かい空気の方へ移動します。このように冷たい空気が暖かい空気の方へと移動するのが風です。夏は陸地の方が暖まりやすく、海の方が冷えているため、空気は冷たい海のほうから暖かい陸地の方へと移動し、海から陸地へ向かって風が吹きます。冬にはこの逆の現象が起こります。このように季節によって変化する風を季節風(モンスーン)と呼びますが、特にアジアで起きるモンスーンは地球上で最大のものといわれ、これをアジアモンスーンと呼びます。
 
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 そこで本研究領域では、太平洋、インド洋に展開される観測システムからのデータを活用すると共に幅広い大気・海洋モデルを駆使して、短期気候変動のメカニズムの解明と予測を行うための基礎研究に取り組んでいきます。さらに今後は、超高解像の海洋モデルを開発して、我が国の周辺海域の海流変動の予測の可能性や北太平洋の気候さえも変えるといわれる大気海洋現象の発生のメカニズムの解明についての研究にも取り組む予定です。
 
2. 水循環予測研究領域
 人間活動により温室効果をもたらすガスは、年々確実に増加しています。このガスの増加に伴う地球規模での温暖化が現在、全人類にとって大きな課題となっています
 しかしながら、モンスーン気候下に住む私たちアジア人にとって、非常に重要な問題は、温暖化もさることながら、私たちの生活基盤となる水資源と、その源としての降水量がどのように変化するかということです。また、アジアモンスーン自身も、エルニーニョと密接に関連して、年々大きな変動を示しています。
 本研究領域では、アジアモンスーンとそれに伴う水循環、水資源がどのようなメカニズムで変動しているのか、また、人間活動の影響で、今後どのように変化するのかという予測をするための研究に取り組んでいます。
 
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3. 地球温暖化予測研究領域
 産業の急速な発展に伴い、石油をはじめとする化石燃料の消費が近年急速に増加し地球の平均温度が上昇する地球温暖化が懸念されています。地球温暖化によって海面水位の上昇や生態系の変化等が引き起こされ、食料生産や港湾設備をはじめとする社会基盤に計り知れない影響が及ぶ恐れがあります。
 そこで本領域では、温暖化、炭素循環および古気候の三部門に分けて研究に取り組んでいます。
 温暖化部門は、大気中の二酸化炭素濃度が増加することによって起こる気候変動のメカニズムを解明し、その予測を行います。
 炭素循環部門は、炭素循環のメカニズムを研究し、大気中の二酸化炭素濃度変化の予測を試みます。
 古気候部門では、古気候変動のシミュレーションを行い、その物理的および化学的なメカニズムを解明します。また、過去に起こった大きな気候変動のシミュレーションを通して、モデルをテストするのもこの部門の課題です。
 
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4. 大気組成変動予測研究領域
 地球環境に及ぼす二酸化炭素、メタンなどの温室効果をもたらす気体に関する研究の必要性がますます大きくなってきています。また、オゾン層についても成層圏のオゾンホールの問題だけではなく、排気ガスに起因する対流圏のオゾンについても、それによる温室効果や人体への強い毒性、酸化剤となるOHをつくり出すことによる大気成分への影響、といった観点から研究を進めることが必要です。
 さらに太陽光を反射して地表を冷却する効果をもつエアロゾルも温暖化を評価する上で重要であるなど、これら大気微量物質の動向は、気候の変動や地球環境変動のメカニズムを解明するにあったての重要な研究課題となっています。
 そこで本領域では、衛星の観測や地上観測などで得られた観測データを基にして、大気微量物質の循環過程を研究することにより、地球温暖化をはじめとする種々の大気環境変動に複雑に関係している大気微量物質の濃度変化や大気組成変動について解明し、この成果を取り入れた地球変動の予測モデルをつくるための研究に取り組んでいます。
 
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5. 生態系変動予測研究領域
 陸域・海洋の生態系は、地球の炭素循環・水循環に重要な役割を果しています。このため、大気組成や気候システムといった物理的環境の変化は、陸域生態系に直接・間接の影響を及ぼすだけではなく、生態系の変容が地球の物理的な気候システムにフィードバックすることにもなります。陸域・海洋の生態系の変化を予測することは、われわれ人類が急速な気候変化に対処し、対策を立てていく上での最重要課題の一つであることは間違いありません。
 そこで本領域では、気候・環境の変動が生態系にどのような影響を及ぼすのか、また、生態系の変化が気候・環境の変動にどのような影響を及ぼすのか、といった変動のメカニズムを明らかにすることを目指し、研究を進めていきます。
 
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6. モデル総合化領域(次世代モデル研究)
 気候とその変動を、大気・海洋・陸地面の状態を支配する物理の方程式に基づいてコンピューターで計算する気候モデルは、現代の気候変動にはなくてはならない道具です。世界中の多くの研究機関で気候モデルが開発され、気候変動のメカニズムの分析や気候変化予測に活用されています。地球フロンティア研究システムにおけるこのほかの領域でも、現在のトップレベルの気候モデルを用いて研究が行われています。
 しかし、地球温暖化予測においては、C02が2倍になった場合の地球の平均温度と現在のそれとの差がモデルによって2〜5℃のバラツキが生じたり、台風の数や強さの変化については、今なおモデル間の差が大きいなど、信頼度の高い予測ができていないのが現状です。
 そこで本領域では、フロンティア計画と兄弟の関係にある地球シミュレーター計画(現在の1,000倍の能力を持つコンピューターの開発)を念頭において、その完成時に可能となる水平格子間隔10kmオーダーの気候モデルの開発を目指して、多様な研究と開発を行い、最終的には、次世代の気候モデルを作り上げるための研究をしています。
 
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(4)地球観測フロンティア
 地球観測フロンティア研究システムは、現在既に活動している地球フロンティア研究システムのいわば兄弟の関係にあたるもので、現フロンティアがモデルやデータ解析によって地球変動の研究をするのに対し、新たに発足した地球観測フロンティアでは、野外での観測によって地球変動の諸過程を研究します。
 エルニーニョ、地球温暖化、氷期間氷期サイクルのような地球全体にわたる変動現象の解明(そして予測)には、全地球規模の観測や地球変動全体のシミュレーション、それに変動気侯の要素となる個別のプロセスの解明を相互にフィードバックさせながら研究を進めていくことが肝要です。この中で、個別の物理過程(例えば、大気や海洋中での対流や雲による日射の散乱、反射など)の解明では、目的とする過程に着目して研究観測(実験観測)を行い、それに基づいて要素過程のモデルをつくります。そうして、それらを地球全体の大気・海洋のモデルの中に組み入れることにより、全地球の変動のシミュレーションが行われます。







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