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潜降浮上型人工海底(マリンあや1号)
 日本周辺の沿岸海域、特に静穏海域は、養殖漁場として集約的に活用されており、そうした海域では、すでに過密養殖が問題化しています。そこで、当センターと岩手県では、未利用の海中空間を利用することを目的に、内湾型の潜降浮上型人工海底「マリンあや1号」を開発しました。
 
潜降浮上型人工海底「マリンあや1号」
 
1)潜降浮上型人工海底の基本概念と内湾型人工海底の開発
 潜降浮上型人工海底は、広大かつ未利用の海中空間を、アワビや魚類を対象とした給餌養殖に活用する目的で開発されました。通常の養殖は、浮いたフレームに固定した養殖カゴ、水面の筏やロープから垂直に垂らした貝類飼育カゴ、海面に張られた海藻養殖ロープなど、海面をベースとして行われています。また、給餌を必要とする生物の場合は、餌を均等かつ有効に与えるため、給餌は、飼育生物の状態を観察しながら行うことが基本となります。そのため、基本的に養殖施設は、給餌の時には水面に出ていなければなりません。
 以上のことから、これらの養殖施設は、必然的に波が穏やかな内湾に設置されることになります。従って、施設を沖合に設置するためには、施設と係留系が台風などの荒天にも耐えられるように製作することが必要ですが、製作費と運用コストが許せば海底石油生産施設で実用化されているように、決して難しいものではありません。しかしながら水産養殖においては、生産物価格に占める種苗代、餌代、人件費の比率が大きいため、これらの経費を極力軽減しなければなりません。
 そこで岩手県では、アワビ資源の増産策のために、海中・海底に設置する人工海底の開発を計画し、当センター地域共同研究を進めるための調整を平成元年度から開始しました。本計画の初期段階では、新たな沖合型養殖施設の開発を目指し、次のような目標を設定しました。
 
給餌風景
 
養殖されたアワビ
 
クロソイの養殖
 
(1)荒天に耐える
(2)運用コストの低減
(3)搭載重量が大きい
(4)さまざまな生物の飼育を可能にする
(5)検査や補修のコストの低減
(6)塗装しない
(7)水深100mまでの海域に設置できる
(8)操作が簡便
(9)海域への設置・撤去作業を容易にする
 
2)実海域試験
 これらの要求を満たすため、つぎのようなアイデアが検討され、具体化されてきました。
 
(1)施設は、鉄鋼製溶接構造として電気防食をする
(2)人工海底部分は、フレーム構造とする
(3)施設の主要部分は、通常、潜水状態とする
(4)養殖生物の手入れをするときは、施設を浮上させる
(5)潜降・浮上のためのメカニズムは、単純化し、操作も容易にする
(6)浮上時の安定性を高め、安全な作業環境を提供する
(7)チェーンとアンカーによるカテナリー係留方式とする
(8)5年間は、主要部分の点検や補修を不要とする
 
 そして、以上の背景をもとに、岩手県と当センターでは平成元年度に、地域共同研究「潜降浮上型人工海底による海中空間利用拡大技術の開発」を開始しました。しかし、当初の要求をすべて満たすことは、技術的にも経費的にも困難であったため、第一段階として、リアス式湾内の防波堤内側の静穏海域の海中空間利用を目的として、潜降浮上型人工海底「マリンあや1号」を開発し、実海域試験を実施しました。
 
3)試験の成果とその後の展開
 本試験をとおして、海洋の中層空間を、潜降浮上機能を有した人工海底を基盤として活用する技術を開発することができました。開発後は、この施設を用いたアワビの給餌養殖への有用性について長期的な検討を行うとともに、“5年間は、施設主要部への検査・補修が不要である”という設計思想が実現できるか否かについて、追跡調査を行いました。その結果、アワビの養殖に関しては、生物を本来の生息環境で飼育するという発想により、餌となる海藻が腐敗しないため、給餌回数を大幅に減少することができるほか、生存率や成長率の向上がみられ、また、台風などによる濁りや淡水流入の影響を受けることがないなど、多くの利点が確認されました。一方、施設の耐久性については、5年間のノーメンテナンスが実証され、その間の係留チェーンの磨耗等に関する高精度のデータも入手することができました。そして、こうした基礎データを基に、第二段階として、外洋型人工海底「おおちゃんマリン1号」の開発を行いました。







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