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海洋の利用
 沿岸海域は、水産資源の豊富な場であると共に、リクレーションの場としても広く活用されていることから、私たちの日常生活において最も身近な海であるといえます。また近年、この沿岸海域を利用したさまざまな実験・研究が行われています。
 
沖合浮体式波力装置「マイティーホエール」
 地球環境問題が認識されてきている昨今、クリーンで無尽蔵な自然エネルギーの利用が再び注目されつつあるとともに、離島、僻地、開発途上国などにおいては、簡便でコンパクトなエネルギー源である自然エネルギーの利用が期待されています。沿岸海域において得られる波エネルギーは、その一つとしての可能性を持っています。
 当センターでは、波エネルギーを効率よく吸収して沿岸海域の有効利用に役立てるとともに、装置の背後海域を静穏化して、この海洋空間を養殖漁業などに活用することのできる沖合浮体式波力装置「マイティーホエール」(図1)の研究開発を昭和62年より実施しています。
 これまでに、理論的検討ならびに縮尺模型を用いた水槽実験などによって「マイティーホエール」の基本的な機能、安全性及び経済性などについて見通しを得ることができました。
 
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図1 マイティーホエール
 
図2 「マイティーホエール」実海域実験設置風景
 
 さらに、平成9年度末までに実機規模実験装置(図2、プロトタイプモデル:長さ50m 幅30m)を建造し、三重県度会郡南勢町の五ケ所湾沖に設置して、本方式の装置の安全性、耐久性および経済性を実証し、実用化のための知見を得るため平成11〜12年度の2ケ年にわたる実海域実験を行いました。
 現在は、本装置とソーラパネルを組み合わせた複合発電システムヘの展開やこれらを利用したエヤーリフト方式*1による海水を汲み上げるための研究に取り組んでいます。
 
*1 圧縮空気をパイプの途中から注入し、空気の上昇力を用いて海水を汲み上げる方式。
 
1)装置の概要
 マイティーホエールは、大きく分けて装置本体(長さ50.0m、幅30.0m、長さ12.0m)と空気タービン・発電機システムから構成されています。装置本体は、波エネルギーを吸収して空気出力を得る3つの空気室と浮体上部の機械室の中にある各空気室の上に空気タービン・発電機が設置してあります。
 空気タービン・発電機は、システムとして運用され、波エネルギーから変換された空気エネルギーを電気エネルギーなどに変換するための二次変換装置として使用されます。現在は、このうち1台の発電機に空気圧縮機を接続して、圧縮空気の製造実験を行っています。通常、タービン・発電機は、発電可能な海象状態のときに自動的に発電し、波高が低いといった海象状態の場合には、遊転状態(無負荷状態)となります。逆に、荒天になった場合(波高が非常に高く、タービン・発電機が危険回転数に達した場合)には、タービンは、空気入力を安全弁により自動的に遮断し、タービン・発電機は停止します。その後、発電可能な海象状態になったとき、陸上からの無線指令信号により、安全弁を開放し、発電を開始します。
 
タンデム型ウェルズタービンの構造
 
2)波力発電装置の原理
 波浪は、海面に吹く風によって起こり、風の強さ、吹く時間などにより、波の大きさが変化します。波力発電は、
 
 
の順で波エネルギーが電気エネルギーに変換され、利用されますが、エネルギー効率を高めるためにはこの変換工程を少なくすることが重要です。振動水柱空気タービン方式の波力発電装置では、波の動きにより空気室で発生する空気流が往復流であるために、従来の衝動タービンなどを使用するためには、空気の流れを一方向に直す整流機構が必要となります。これに対してマイティーホエールでは、タービンに往復の空気流中で常に一方向に回転するウェルズタービンを採用しているため、整流機構なしに空気流をタービンの回転力に変更することができます。これは、波力装置としては画期的なものです。
 
3)マイティーホエールの機能
(1)エネルギーの有効利用
 環境に優しく再生可能な波エネルギーを効率良く吸収し、電気などの利用し易いエネルギーに変換できます。変換されたエネルギーは、一般の電力だけではなく、水質や底質浄化などの沿岸環境を改善するためのエネルギー源として活用できます。
 
(2)静穏海域の造成
 装置の背後海域を静穏化して、水産事業や海洋レジャーに有効活用できる海域(海洋空間)を造り出すことができます。
 
(3)浮体の有効利用
 沖合に浮かぶ大型の浮遊式海洋構造物であるため、遊漁施設や小型船舶に一時的な係船施設としての活用が可能であるほか、気象・海象及び水質等の定点観測プラットホーム等として有効に活用することができます。







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