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深海底を探る
 深海底を調査する方法には、大きく分けて二つの方法があります。その一つは、有人潜水船や無人探査機を海底に降ろして直接探査する方法です。もう一つは、船などに取り付けられたソーナー(sound navigation and rangingの略)を用いて海中に音波を発射し、海底地盤や海中または海底にある障害物からの反響を調べることで、海底地形や障害物までの距離や大きさを知る方法です。前者は、狭い範囲を詳細に調査するのに適しているのに対し、後者は、海の中を広範に調べるのに適しています。
 
 
(1)有人潜水船「しんかい2000」「しんかい6500」による調査
 潜水調査船を用いた深海研究の始まりは、1973年にさかのぼります。内閣総理大臣の諮問機関である「海洋開発審議会」は、6000m級の潜水調査船の開発の必要性について答申しました。その後、科学技術庁の委託を受け、当センターは、その建造の可能性について検討してきました。
 その結果、中間段階として2000m級の潜水調査船を開発・建造し、運航経験を積んだ後、6000m級の潜水調査船を建造することが必要である、との結論を得ました。「しんかい2000」と支援母船「なつしま」は、1981年10月に完成し、1983年春から日本列島の周辺海域で本格的な調査を開始しました。そして、1998年4月には1000回の調査記録を達成し、現在(2001年10月)は1311回の潜航を終えています。
 一方、「しんかい6500」とその母船である「よこすか」は、共に1989年1月に進水し、その直後から紀伊半島沖の比較的浅い海域で潜航試験を繰り返した後、同年8月に宮城県の金華山沖で最大深度潜水が行われ、6527mの潜航に成功しました。そして1991年5月から本格的な調査潜航を開始しました。調査海域は、日本海溝やマリアナ海溝のほか、大西洋中央海嶺や東太平洋海膨など、広範囲に及んでおり、2001年10月末までに計635回の潜航を行っています。
 
 
 
1)調査活動の概要
 「しんかい2000」は、世界最深の潜航能力を誇る「しんかい6500」の先駆けとして数々の技術面や運用面におけるデータを蓄積し、提供してきたことはもちろんのこと研究や調査活動の面でも数多くの実績を挙げてきました。例えば、「初島沖のシロウリガイの発見」「伊平屋海嶺での熱水マウンドの発見」「伊是名海穴でのブラックスモーカー*4やCO2ハイドレート*5、それに熱水噴出孔での生物群集の発見」及び「北海道南西沖地震域での海底調査」など、これらどれをとっても第一級の成果ばかりです。
 一方、「しんかい6500」による調査では、1999年に日本海溝の6100mの地点で、プレートの沈み込みによって生じたと思われる裂け目を世界で最初に確認したのをはじめ、昭和8年に三陸沖で発生した三陸沖地震の余震域での海底の裂け目や陸側斜面でのバクテリアマット*6それに湧水生物群などの発見をしました。また、1994年10月には、鳥島沖の水深4036mにおいて、クジラの背骨に群がるシンカイコシオリエビやゴカイ類のほか、それに付着するイガイを多数発見しました。これは、後に「鳥島鯨骨生物群集」と命名されました。その後、平成6年には日米共同研究のMODE'94(mid−oceanic ridge diving expedition:中央海嶺潜行調査計画)では、大西洋、太平洋での潜航を行い、世界最大級の熱水活動などを調査しました。その後も、これまでの調査海域はもちろんのこと、インド洋にも調査海域を広めて調査活動を実施しています。
 
*4 海底から噴出する熱水が黒く見えるもの。詳細はP47参照。
*5 高水圧と低温によって炭酸ガスと水分が混合されてつくられた半氷状態のもの。
*6 バクテリアが多数の集落(コロニー)を形成し、マット状になって見えるもので、これは、深海底のみならず、私たちの生活環境の中(例えば、ドブ川や湧水口の周辺など)でもしばしば観察することができます。
 
調査のイメージ図
 
 
(2)マルチナロービーム音響測深機(malti narrow beam echo sounder)による探査
 これは、たくさんの細い測深ビーム(音波)で海底の広範囲の深度や状況を知ることができる装置です。従来、海底地形図は、測深ビームが1本(単ビーム)型の音響測深機によって、観測船の真下の測深情報を基に作成されてきました。しかし、1970年代に米国(General instruments社)で、同時に多くの測深データを得ることができるマルチナロービーム型の音響測深機(商品名:Sea Beam)が開発されてからは点から面への測深技術の革新が行われました。
 マルチナロービーム音響測深機は、現在、「かいれい」「みらい」「よこすか」「かいよう」の各船舶に搭載されています。それの装置は、図1に示したような12KHzの多数の送波ビームと狭い受波ビームとの組み合わせにより(たて)2度×(よこ)2度の細いビーム(ペンシルビーム)を形成し、一度に多くの測深データを得ることができるため、水深のほぼ3〜4倍の範囲の海底地形図(図2)を作成することができます。なお、最近は、深海底の沈船や落下物を捜索する際の概査用としても活用されています。
 
図1 シービームの概要
 
図2 シービームによる調査海域の海底地形図







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