気候変動と海洋の関わり
(1)高緯度・北極域の調査
北極域の気候システムは、アジア・北太平洋地域の気候はもとより、地球規模の気候変動にも重要な影響を及ぼすと考えられています。海氷は、大気・海洋間のエネルギーや物質の交換を抑制する「海の蓋」の効果を持つとともに、日光の反射率の増大によって海面における熱の放射収支をも大きく変えてしまいます。もし、温暖化により海氷がわずかでも減少すると、その減少は、急激に進むと推測され、その結果、北極海の海氷の変化は、全地球的規模の気候変化に重大な影響を与える可能性があると考えられます。そのため、このフィードバックの鍵となる大気・海洋・海氷の相互作用を解明することが急がれています。
そこで海洋科学技術センターでは、北極海における観測手法に必要な「J−CAD」や海洋観測船等の観測手段の整備とセンサー技術開発等を通して、北極海域総合観測システムの技術開発を行っています。
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大気―海洋―海氷相互作用
(2)熱帯・亜熱帯地域の基礎生産
地球環境問題を考えるとき、温暖化の原因となる二酸化炭素の挙動を知ることは大変重要なことです。このため、炭素がどのように循環しているのか、という研究がさまざまな視点から行われています。海洋の植物プランクトンは、この炭素の循環に重要な役割を果しています。植物プランクトンは、海中に溶けている二酸化炭素と太陽光、栄養素(窒素、リンなど)を使って光合成を行い、有機物(自分の体)をつくります。これを基礎生産といいます。そして、植物プランクトンは、動物プランクトンに捕食され、またその動物プランクトンは魚に食べられるなどの食物連鎖を経て、その死骸や動物プランクトンの糞などがマリンスノーとなって深海に運ばれます。マリンスノーの中には有機物が含まれます。この有機物が深海にすむ生物の栄養源になりそして最終的には、バクテリアに分解されて、もとの無機物である炭素や窒素、リンなどになります。従って、一般的には深層の海水には、植物プランクトンの栄養となる窒素やリンが多く含まれます。つまり、海洋の表層で、植物プランクトンが無機物を有機物に変え、動物の捕食などを経て、その一部がマリンスノーとなって深海に運ばれ、微生物がその有機物を無機物に変えるというサイクルを形成しているのです。
植物プランクトン
動物プランクトン
動物プランクトンの昼夜の行動
赤道域では、西に暖水塊、東に湧昇流があることが知られています。西側の暖水塊では、海洋の表層を温かい海水が覆っていますが、ここでは、栄養となる窒素などが枯渇しているために基礎生産が小さくなっています。
一方、東側では、偏西風によって表面の海水が西に運ばれるため、それを補うように深層から海水が湧き上がってきます。このように深層から表層への海水の流れを湧昇流と呼び、これには植物プランクトンが必要とする栄養塩が多量に含まれているため、この海域では、基礎生産力が高まります。すなわち、この海域では、植物プランクトンによって気候温暖化現象の最大の原因であるといわれる二酸化炭素が多量に使われる(同化される)ことになるので、この海域での基礎生産量の変動を知ることは地球環境問題を考える上で、極めて重要なことなのです。なお、このように基礎生産が西側で低く、東側で高いといった不均衡な様相は、エル・ニーニョやラ・ニーニャによって大きく変動します。
太平洋の赤道上東経135度から西経170度までのクロロフィルaの鉛直断面図。東経160度より西(図で向かって左側)では、表層で硝酸塩が枯渇しているため、クロロフィルaが少なく、太陽の光が届きかつ、栄養がある水深80m付近に極大が見られます。一方160度より西では、湧昇の影響で深層から栄養が供給されるため、表層部分でも比較的クロロフィルaが多くなっています。この時(1998年12月)はラ・ニーニャであったため、湧昇域は、概ね東経160度まで広がってきていますが、この暖水魂と湧昇域の境界は、エル・ニーニョの時にはもっと東へ移動します。
そこで、海洋科学技術センターでは、船舶により得られた海洋観測データやNOAAの所有する人工衛星(Orbview−II)に搭載された海色センサー(SeaWiFS)で得られたデータをもとに、これらの海域のクロロフィル量を調べ、特に赤道域における植物プランクトンが炭素循環に果たす役割を解明するための研究を行っています。
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