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(2)海洋音響トモグラフィー
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海洋音響トモグラフィーシステム概念図
 
 海洋音響トモグラフィーは、医用で広く活用されているX線CT(Computerized Tomography)と同じ原理で作られているもので、X線の代わりに音波を使い、それを海の中でいろいろな角度から送受信して、海の中の流れや水温のCT像(分布図)を写し出そうとする装置です。
 本装置は、海中で音波を送受するための音源(水中スピーカー)と受波器(水中マイクロホン)を一体化したトランシーバを組み込んだ係留系、観測したデータを通信衛星経由のリアルタイムで陸上に電送するための海面ブイと伝送ケーブルによって構成されています。実用段階では、これら数基と陸上の解析システムとがトータルシステムとして運用されています。
 海洋科学技術センターは、1997年2月、1,000km四方の水温分布をリアルタイムで観測できる世界最高の性能を持つ200Hz送受信システム5基からなる海洋音響トモグラィーシステムを完成させ、同年7月に日本海溝及び伊豆・小笠原海溝東方海域に設置して観測を行っています。
 
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海洋音響トモグラフィーによる水温断層図
 
(3)アルゴフロート
 世界の海に約3,000個(平均300Km四方に1個)の観測用フロートを展開し、全世界の海洋の水温や塩分濃度の状況をリアルタイムで監視、把握する計画「アルゴ計画」が各国の協力のもとに推進されており、海洋科学技術センターは本計画の中で重要な役割を担っています。本調査では、「アルゴフロート」と呼ばれる観測用フロートが使用されていますが、このフロートは、通常、水深2,000mの中層に漂流しており、10日〜2週間に1度の割合いで、そこから海面までのデータをとりながら浮上して、海面上から衛星を経由して陸上施設にデータを送ってきます。
 
(4)J−CAD(JAMSTEC compact arctic drifter)
 これは、海洋科学技術センターで開発した氷海用小型漂流ブイで、気象(気温、気圧、風向風速)及び海洋(水温、塩分、海流など)の観測を行うためのものです。
 南極・北極、これら極寒の極地にはほとんど人が居住していないので、私たちの周囲に起こるような環境汚染などといった問題は、まったく無関係のように思えますが、実はそうではありません。昨今、マスコミなどでもしばしば報じられているので、広く知られるようになりましたが、「地球温暖化」の問題は、この地にまで及んでいるのです。もともと両極地は、共に広く氷で覆われているために、一見同じように見えますが、氷の下の様子は、まったく異なっています。すなわち、南極は、南極大陸といわれるように氷の下には陸地が広がっていますが、北極には陸地がないために氷の下は、すべてが海なのです。従って南極大陸の氷の量は、大気温の変化のみならず地熱の影響を受けることになりますが、これに対し北極の氷の量は、大気の循環場や大気温それに海洋表層水の水温など、環境要因の変化によるさまざまな影響を受けます。従って、北極海の氷の変化は、地球環境の変化を敏感に映し出しているといえるのです。また北極の氷は、いったん融け出すと、黒い海面*1が露出して太陽熱を吸収しやすくなるので、さらにたくさんの氷が融け出すといわれています。
 そこで海洋科学技術センターでは、北極海の氷海にJ−CADを設置し、長期間にわたる気象や海洋の観測を行っています。得られたデータは、衛星を経由して陸上の研究室に送られますが、研究室から漂流ブイに指示を出すこともできます。J−CADの観測データは、北極海の過去のデータと比較され、気候変動の鍵となる現象(表層海水の高塩分化)をとらえるなどの成果を挙げはじめています。
 
*1 氷の下の海が黒ずんで見えるのは、海水中に存在する懸濁物やプランクトンなどの量が少ないために透明度が高まり、多くの光が吸収されることや厚い氷に光りがさえぎられ、深くまで光が到達しないことなどがその理由です。
 
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