9 結言
IMO操縦性暫定基準に対する検討が始まって以来、本報告書に述べているように実船の海上試験データの収集をはじめ、暫定基準に関し数多くの内容について検討を重ねてきた。この検討の過程では基準の見直しが必要との認識から、海上試験データと共に操船者側からの評価も必要であることからシミュレータスタディによる検討も実施した。
我が国は見直し案として、10°/10°Z試験のsecond overshoot angle、および停止性能について修正案を提案した。審議の後、2002年12月開催のIMO第76回海上安全委員会(MSC)において我が国が提案したZ試験のsecond overshoot angleは採用されたが、停止性能は暫定基準のまま残されることになり、最終的に“IMO Resolution MSC.137(76) Standards for Ship Manoeuvrability”として2004年1月1日付け発効となった。
この操縦性基準は強制力は無いが、今後強制化されるか否かを問わず、航行の安全性の確保および海難事故防止のために、種々の面で本基準が利用されることを考えると、十分な合理性を有していることが不可欠である。従って、本基準に対して今後も更なる検討と共に、解説書についても記載の内容を充分に見直し、整備しておくことが重要であると考えられる。例えば、今後以下のような事項を検討していくことが望まれる。まず、満載状態の実船の操縦性試験データを完備することが重要である。一般に乾貨物船では満載状態の操縦性試験は現実問題として非常に困難であることからデータも非常に少なく、従ってこれらのデータを収集・蓄積し、分析することが操縦性推定に関して重要であるばかりでなく、その評価に関しても極めて重要なことである。 また満載状態の操縦性能を精度良く、しかも実用的な方法で推定する方法をauthorizeすることである。現在、各研究機関あるいは各造船所等において、それぞれ独自の推定法で対処しており、無論のこと実用的な手法と考えられるが、手法も各種数多くあり、またその手法の内容全てが開示されていない面もあることから、実用的で、しかも誰でも容易に使用可能な推定法の開発が望まれる。
さらに、本基準を実際に検証する場合、実船の海上試験における計測精度の問題が考えられる。高い精度の計測法の確立もまた重要であると同時に、気象・海象の外乱影響の修正法など、残された問題はまだ数多く存在する。
今後、このような問題を解決して、船舶航行の安全性確保ならびに海難事故の防止に努めていくことが重要であり、またこのような分野では我が国はleading countryとしての責務があると思われる。今後も以上のような事柄を継続して検討していくことが切望される。
1978年の“Amoco Cadiz”の海難事故を契機としてIMOで議論が始まって以来、今日までの22年間の長期に亘って操縦性基準の策定について検討がなされてきた。我が国は当初から、当時の運輸省を軸に、日本造船研究協会に設置されたRR742部会、後にRR74操縦性分科会、RR74-S501(操縦性)分科会において精力的に調査・検討を行ってきた。先述したように現在の操縦性基準はこれで完成されたものではなく、検討すべき課題はいくつも残されている。従って今後も引き続いて充分な検討を進めることが望まれる。
最後に、国土交通省の方々をはじめ日本財団、日本造船研究協会さらにRR操縦性関連分科会委員の方々のご尽力に対し、深く感謝申し上げます。
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