2. 調査結果
2.1 高速船建造における船級協会ルールの問題点
すでに SR502[4]において「高速船技術の創造的展開のための調査研究」が行われ、わが国の高速船技術による試設計が行われている。その中から、高速船波浪荷重の計算に関係する部分を参考にして、船級協会ルールによる設計上の問題点について整理してみた。
2.1.1 船級協会ルール
高速船を対象として主要なルールとしては、
(1)IMO HSCコード
(2)DNV高速船規則
(3)NK高速船構造基準
がある。(1)のIMO HSCコードは国際的に合意された技術基準であり、現在HSC 2000年版が発効している。(2)、(3)は各船級協会において独自に開発・発展してきたものとなっている。これは、高速船が国際航海に投入されることが殆どなかったためである。このため、従来型船型と異なり、船級によって構造寸法などに差が生じることが起こり得る。
船体重量に関して最も影響が大きい船殻構造については、
(1)HSCコードには具体的な規定がなく、Design by Analysisとなる。
(2)DNVもHSCコードと同様で、設計者に広範囲な裁量を与えている。
(3)NKでは設計荷重および船体構造については具体的な算式を与えているが、対象は50m以下の単胴高速船であり、そのままでは大型高速船に適用できない。これは大型高速船の実績が皆無であったためと考えられる。
2.1.2 船級協会ルールと実船との比較検討
現状の高速船設計技術を評価・認識するため、次の2隻について(表2.1.1参照)調査を実施した。
・イタリア製Aquastrada TMV114(114m単胴船)
・オーストラリアINCAT社製96m高速フェリー(ウェーブピアシング型双胴船)
作業内容は、1)一般配置図を復元し、艤装品などを想定した。2)各船級協会ルールに基づいて構造計算を行い、中央断面図を作成した。それから長さ当たり重量推定法により船殻重量を算出した。3)TMV114は、概略線図を作成し、船長方向10断面について構造寸法を決定し、重量推定精度の向上を図った。
その結果得られた重量の推定値と公表値とを比較したところ、15%~20%推定値の方が重いという結果が得られた。高速船の場合、載貨重量は軽荷重量の20%程度であるため、同一要目、同一主機とした場合、日本における現状の設計技術では、十分な載貨重量を確保できないことになる。高速船の場合、通常船舶とは軽荷重量の持つ意味合いが全く異なっており、船体重量が運行採算を直接左右することになる。したがって、現状の設計技術では、日本の高速船は国際競争力を持たないと言ってよい。
表2.1.1 対象船要目
船型 |
Aquastrada TMV 114 |
INCAT 96 |
船級協会 |
BV |
DNV |
全長(m) |
113.45 |
96.0 |
水線長(m) |
96.20 |
86.0 |
全幅(m) |
16.5 |
26.0 |
深さ(m) |
10.80
5.70 |
12.50
7.50 |
喫水(m) |
2.50 |
3.70 |
双胴幅(m) |
- |
4.50 |
載貨重量(t) |
547 |
800 |
速力(満載:ノット) |
40 |
38 |
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2.1.3 船体重量の軽量化
(1)船体構造について
DNV ルールを用いて同じ条件で設計したにもかかわらず、軽荷重量において、オーストラリア・ヨーロッパと日本の差はあまりに大きい。これは、構造重量=構造設計の差があると考えざるを得ない。そこで、規則上外洋であっても実際の海象が穏やかであれば、外洋の構造算式を実情に合わせて斟酌しているのではないかと考えて、軽荷重量の差が大きい双胴船について、最も重量が軽くなる平水域航行船(DNV R5規則適用)として検討を行ってみた。通常の波浪中航行区域(DNV R1規則)と比較すると、構造重量差は 100tを越えている(表2.1.2参照)。これは極端な例であるが、規則の斟酌によって相当の軽量化が可能となることがわかる。
また、構造設計は直接計算によっている可能性が強い。特に、構造設計に最も影響の大きい縦曲げモーメントについては、日本では実績船がないため、どうしても安全側の設計になりがちである。
前後部構造等規則で決まらない部材寸法については、経験則によっていると思われる。INCATシリーズは、74m型から96m型まで少しずつ大きくなっており、これにより急激な大型化による不安代として、構造に余裕を持たせる方法を排除できているものと考えられる。
表2.1.2 INCAT96m型のDNV規則における就航海域による構造重量比較
項目 |
重量(t) |
波浪中(R1) |
平水中(R5) |
主船体 |
465.5 |
366.7 |
居住区 |
48.2 |
48.2 |
機器台及び梯子 |
40.9 |
40.9 |
板厚公差及び溶接 |
16.6 |
13.7 |
合計 |
571.2 |
469.5 |
|
(2)艤装品について
重量軽減に効果的なものは、床面積、壁面積、管長の減少や、電線長の少ない機器配置であり、これを実現するため、1)客室の間仕切りはなるべく廃止して、オープンスペースとすることにより、電線長・照明器具・空調設備を減少、2)照明と室内装飾の調和により、照明関連重量を低減、3)CRT表示の多用による操船コンソールのコンパクト化、4)GPSやTVカメラなど着桟時監視装置を装備して、ブリッジウィングを廃止、などの工夫を行っている。
2.1.4 高速船開発に必要な設計手法の変革
以上に述べてきた船級協会ルールに関連した問題点を解決し、高速船市場において国際競争力を発揮するためには、下記のような項目について研究の実施、設計手法の変革が必要である。
(1)日本は数値シミュレーション技術、水槽試験技術がオーストラリア・ヨーロッパより進んでいるから、これらの手法を積極的に活用して、より軽くて信頼性のある構造設計を行う。
(2)ルールで部材寸法が決まらない船首尾構造についても、シミュレーション技術を工夫することによって、過剰な安全代を排除した構造設計が可能となる。
(3)規則を斟酌して適用するためには、航路海象条件の精度良い把握が必要である。そのために波浪推算データベースを積極的に活用することが必要である。
(4)機器装置のコンパクト化、ブリッジウィング廃止など、これまでの感覚・慣習の変革とその実施が必要である。
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