第2部総括
黒田 俊夫
(APDA理事・JOICFP理事長・国連人口賞受賞)
ご講演ありがとうございました。最後に一言、コメントを申し上げたいと思っています。最初に、広瀬司会者の定義によりますと、高齢者は、私1人だけで、皆さん青年ばかりです。
本日のテーマは、大変大成功であったと思います。と申しますのは、2つの部会に分かれ、第1部では「人類の生存の条件」、それから、第2部では「人類社会の未来」と分かれているのですが、これはなかなか難しい問題で、完全に2つに分けることは、ほとんど不可能であると言えます。しかし反面において、現状の分析という点では、今日は、大変すばらしい成果が得られたのではないかと思うわけです。
しかし、私がここで一言申し上げたいのは、この根底にあるものを私達が考えなくてはいけないということです。それは、現代の事実のそのものの問題です。人口間題を“どう考えるか”、それから“どうしたらいいか”という将来の課題があるわけです。人口が大きく問題になっているのはこの20世紀の後半、それから21世紀の前半のわずか100年です。
この中で私達人類がこれをどう解決していくかという問題です。倫理やすべての政策がここに集結しなければならないと思ったわけです。
人口増加を論じるときに必ず出てくる指数関数の数学的に厳密な意味は、よくわかりませんが、人口増加を考えるときは、「ねずみ算」ぐらいに思えばいいのではないかと思います。今朝から講演の中でも、「第1部人類の生存の条件」の中でこの指数関数のことが触れられました。したがって、人口で言う指数関数とは別に難しいことではありません。例えば、19世紀の初め1800年頃には、地球上の人口は、10億人でした。西暦の初めの世界人口はわずか3億ぐらいです。3億から10億に増えるのに1800年かかったわけです。これをもし人類の発生から考えれば10億になるのに、何百万年もかかったということになるわけです。
ところが、ごく最近の統計を申し上げますと、1987年の世界人口が50億だったのですが、10年後の2000年には、60億になりました。そうしますと、10億人増えるのに、13年しかかかってないのです。最初の10億人になるまでには、少なく考えても1800年、長くみれば何百万年もかかっているのに、最近では、わずか10年間で10億増えているのです。
これが、よく言われる人口爆発という問題です。先生方が難しく言う場合、指数関数の法則であると言います。このような急激な増加は人類の歴史の中でいまだかつてなかったし、今後もあり得ないことです。現在の人口問題は、もしこれが解決できなかったらどうなるのかということです。
人類の自爆ということが、あるのか、ないのか、わかりませんが、人類はその歴史の中でいまだかつてない危機をこれから、50年、100年のうちに迎えます。
これをどうするかということが、第2部の1つの課題であったと思います。私は、これを考えるときの1つのモデルケースは日本ではないだろうかと思います。それは、先程小川先生がおっしゃいました出生率の低下です。
現在日本では出生率の低下が進んでいます。第2次世界大戦後、日本では世界でも例のない、非常に早い速度で、出生率が下がりました。現在もなお、下がり続けています。ご承知のようなTFRという、女性1人が、生涯に何人子供を持つかという、ややこしい計算方法ですが、これが、現在1.35です。これはこれからもまだ少し下がります。
1人の女性が2人の子供を産まないわけですから、もう4、5年で日本人口の減少が始まります。この出生率がこれから上がるか下がるかが大きな問題となりますが、上がるという可能性はおそらくないのではないでしょうか。
世界の人口をご覧になってみればすぐわかりますが、現在すべてのヨーロッパの国の人口増加率はマイナスになり、減り始めています。国によっては日本よりも低い出生率になっています。そうして増加しているのは途上国だけです。しかし、途上国の中でも既にTFRが2人以下になっているところが増えてきています。世界全体がその方向に向いています。
それを我々がどう考えるのかということです。それの速度が早いのか、遅いのかという問題、このままいけばどうなるのかという問題です。国連の最近の推計によれば2050年の世界人口は93億になります。
我々が考えなければならないのは、地球です。よく学校の先生がおっしゃりますが、地球は増えない。人口はどんどんどんどん増えます。これが、人口のいわゆる爆発的な増加、あるいは、指数関数的増加です。このような指数的増加は人類の歴史の中で経験したことがありません。この急激な増加が今初めて起きているわけです。
グローバルに考えれば、日本は世界の人口問題に貢献できるのではないかと思います。今日の講演の中で、寿命も問題も、乳児死亡率の問題も出てきました。幸い、日本の乳児死亡率はなんと出生1000に対して3.5人で世界最低です。だいたい、他の国々は、50あるいは高いところでは100です。アフリカでは平均して100以上であるのに対し、日本は3.8です。どうしてそんなに死亡率が下がったのか。
同時に寿命の問題もあります。先程の生命倫理の話にありましたが、日本の寿命は現在、世界で最長です。男性が77、女性が84、もう来年ぐらいは、男性も78になりそうで、女性のほうは85になりそうです。こういったような状況で出生率も低く、健康状態を見て、あるいは寿命で見れば、世界最長です。
これは世界の人口の1つのモデルではないかと思います。そう意味では、今日の午前と午後にわたって講演を聞きましたが、我々の国際的な役割もあると思います。
よく外国からも私どもの協会にお客様がみえますが、外国のお客様にとって一番肝心な戦略的目標は、リプロダクティブ・ヘルスの問題もありますが、乳児死亡率を下げることです。日本の乳児死亡を県別で見ますと長野県が最低です。外国からみえる先生方には、是非、長野県へ行って、長野県の所得水準は東京、大阪よりはるかに低いにもかかわらず、なぜ乳児死亡率がそんなに低いのかを視察していただきたいと思います。
例えば、乳児死亡率が低くなり、赤ちゃんが死なないとなれば、出生率抑制効果があるでしょうし、女性の健康状態も良くなってくるでしょう。女性のエンパワーメントも増え、所得水準全体も上がり、リブロダクティブ・ヘルスそのものにも貢献しているのです。
そう意味で、私ども日本の経験は国際的にも役立っているのではないかと思います。現在の日本は経済的にはいろいろ問題はありますけれども、社会福祉的な人口の面から見れば大変誇りに思える状態にあると思います。
是非、日本が人口問題へ対処することで、日本の経験を移転していくことができると思います。このことが日本の役割であり、国際貢献として重要なものになるのではないかと思います。今日、お集まりいただいた皆様、講師の先生方もお若い方ばかりですから、是非そういう国際的な分野でご活躍をしていただくことを私は楽しみにしたいと思います。皆様より早くから生きていますので、ひとつよろしくお願いしたいと思います。ありがとうございました。
広瀬:
黒田先生、どうも総括をありがとうございました。ここにいらっしゃる皆様方は、皆、青年だそうです。私も74歳ですが、黒田先生に、先程あなたも青年だといわれ大変、意を強くしています。それでは以上をもちまして、第2部を終わらせていただきますが、アジア人口・開発協会を代表いたしまして、元環境庁長官、APDAの副理事長の清水嘉与子先生に閉会のご挨拶をお願いいたします。
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