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10月18日(金)
セッション IV
パネル・ディスカッション
人口・開発プログラムのグッドガバナンス
―国会議員の活動領域と役割―
 
(1)フィリピン
 人口問題を解決に向けるためには、宗教的・文化的役割を取り込んでいく必要がある。妊娠中絶は避妊ではないというコンセンサスができているが、妊娠中絶の定義が宗教や文化によって大きく異なり家族計画の普及を果たす際のネックになっている。
 フィリピンはカトリックの強い国であるが、カトリックの抵抗にあいながらも、家族計画やリプロダクティブヘルスを推進するための法律を制定してきた。PLCPDができてから二十一本の様々な法律が成立した。女性の人身売買の禁止や、家庭内暴力の防止法などが成立してきた。現在の活動目標は地方の議員にも人口・啓発活動を広げていくことである。
 現在、ヒューレット財団、AFPPDの援助を得て啓発活動を行なっている。
 フィリピンで人口問題に携わろうとすると、コンドームの使用に反対しているカトリック教会からの制裁を覚悟しなければならなくなる。カトリック教会が認めているのは自然な家族計画(リズム法)だけであり効果的ではない。
 これまで家族計画の資材を国民に供与する際、余りにも海外の援助に依存してきた。これまで五百万ドルがアメリカ合衆国からコンドームの資金として提供されてきた。しかし、アメリカ政府の方針が資材の供与から家族計画そのものを重視する方向へと移行しており、現在コンドーム提供用の資金が三百万ドルに減額され、さらに二〇〇四年からはなくなることが決まっている。そのためには自国の資金で、必要な資材の提供を図るようにしなければならないと同時に、支援していただける家族計画を実施できる法律環境の整備が必要になる。
 人口とリプロダクティブ・ヘルス政策の進展が必要。先頭になって活躍していく必要がある。フィリピンの国会議員で人口問題解決のために熱心に働いている議員はカトリックの制裁のもとで反対票を投じられる可能性の中でがんばっていかなければならない。
 西欧と東洋とでは宗教の面でも社会的・文化的な側面でも異なっている。またひとつの国のなかでもさざまであり、それぞれの個性を理解し、受け入れられる家族計画を普及させていくことが重要である。IEPFPDの代表としてこの会議に参加されたポルトガルのソニア議員が述べられたように受け入れられる避妊具には西洋と東洋で大きな違いがある。しかし、最も重要なことは避妊具の使用と妊娠中絶はトレードオフの関係にあり、悲惨な妊娠中絶を避けるためにも避妊具の使用の普及を図ることが大事である。
 
国会議員のグッド・ガバナンスについて講演する若林正俊・参院議員
 
 
(2)日本:若林正俊(参議院議員)
 おはようございます。私は日本の参議院議員の若林正俊です。昨日第一日目の議事が、議長、運営委員会の役員、参加者の努力と協力により、円滑に効果的に進められたことを高く評価し、関係者の皆様に感謝いたしています。
 二日目の今朝、私は議長のお許しを頂き、人口開発問題についてのグッド・ガバナンスについて私の考えを申し上げます。
 まず、昨日の討論において、「人口と開発の問題は人類がこの地球で生きていく上で最も重要な問題であると認識したこと」を確認しておきたいと思います。
 人類が農業をはじめたBC六〇〇〇年前までの世界人口はおそらく数百万人といわれています。その後、六〇〇〇年を経た西暦元(〇)年ごろの人口は二億人程度と推計されています。その二億人の人口が十億人になったのは十九世紀のはじめ頃で一八〇〇年もかかっています。マルサスがその人口論を発表し、人口と食料の関係について警告をしたのは一七九八年。世界の人口は十億人に満たないころでした。その十億人が二十億人になるのに百三十年かかっています。その後十億人ずつ増えるのに要した期間は三十年(一九六〇)、十五年(一九七五)、十二年(一九八七)、十一年(一九九八)とその年数は短くなっています。
 そしていまや地球上の人口は六十億人を超えました。この人口の爆発的増加により、地球上に飢餓・栄養不良の人達が増えてきましたが、マルサスが予言するような「危機」は生じませんでした。
 それは科学技術の進歩、産業の発達により、化学肥料や農薬の開発、農産物の品種改良、灌漑や農地開発が可能であったからです。いわゆる「緑の革命」の効果です。
 しかしこれからは食糧の増産が地球の環境を破壊し、地球の許容量(限界)を超えるために、第二の緑の革命については悲観的な見解が一般的です。
 にもかかわらず、国連などの推計によれば二〇五〇年ごろには世界人口は九十五億人程度になるといわれています。人口増加により、地球の環境が破壊され、食料や水が不足するだけではなく、失業や貧困が拡大し、HIV/AIDS等の感染症の広がりが生じており、人口と開発の問題はもはや一つの国だけでは解決できない状態になっています。
 さらに、WTOが主張するように、貿易の拡大によって食料を安定的に確保できるというわけには行かなくなりました。大規模な機械化農業は地球環境を破壊しつつあります。これからの農業・食料生産は地球環境にやさしく、地球環境を守り、地球環境と調和し、共生できるものでなければならないと思います。
 
 
日本の人口問題とグッドガバナンス
 第二に日本の人口問題とグッドガバナンスについて申し上げます。グッドガバナンスとはUNDPの「人間開発報告」に定義されているように、「社会から腐敗を一掃することだけでなく、人々に権利や手段を与え、また自らの生活に影響を及ぼす決定に参加し、政府に対し、その施策の責任を追及する能力を人々に与え、公平かつ公正で、民主的なガバナンス」を意味するものと理解しています。
 第二次世界大戦まで日本には「産めよ増やせよ」の軍国主義のスローガンとともに、「貧乏人の子沢山」という言葉がありました。特に農村地帯では法律上、社会慣習上「家」の制度の下で、女性の地位が低く、さらに労働力の面からも、子供が多いほど福が多いという「多子多福」の考え方が支配的でありました。そこで農村で食べていけない子供達は、工業化により急速に拡大する都市の工業や商業に働きに出て、独立し、成功を求める道を選びました。
 一九四五年、日本は第二次世界大戦に敗戦し、民主主義国家として再出発しました。今までの「家」の制度が否定され、女性は男性同僚、選挙権を得て、社会目覚め、人間としての権利も主張できるようにこの地位を高め、経済力も持てるようになりました。政府も家族計画や新生活運動を展開し、社会改革が急速に進みました。
 国家として人口抑制の政策をとったのではありませんが、生活の向上を目的とした活動が結果として、女性の地位や発言権、経済力、社会的進出をもたらし、公衆衛生・医療の充実とあいまって、家族計画−「少なく産んで、良い教育をし、立派な子供を育てる」を普及し、さらに、女性の高学歴化、社会参加、社会進出が拡大してまいりました。
 しかし現在、日本は子供が少なくなりすぎて深刻な少子高齢化の問題に直面しています。合計特殊出生率一・三六でドイツなどとならんで世界で最も低い国の一つになっています。その結果、平均余命の伸びとあいまって高齢化比率が急速に拡大し、医療保険、年金、老人介護など社会保障の面や社会の活力などで、現役(働く)世代の負担が重く、深刻な社会・経済問題になっています。
 しかし少子の問題は、基本的には女性が選択する問題です。したがって、その対策としては「子供の欲しい人が、子供を産み育てることのできる環境をいかに作るか」が重要になります。
 子供の養育手当て、産前産後の女性の休暇のみならず、男性の育児休暇、保育所の整備など、女性の意見を反映できるようにするグッドガバナンスが必要になっています。
 
国際協力とグッドガバナンス
 最後に国際協力とグッドガバナンスについて申し上げます。日本はODAを通じて、世界の人口・開発分野に大きく貢献してきたと思います。岸信介、福田赳夫両首相が世界の人口問題の重要性を認識し、一九七四年に世界ではじめて「国際人口問題議員懇談会」を創設しました。その理念を継承し、佐藤隆元農水大臣がAFPPD・APDAの設立に中心的な役割を果たしたのは皆様ご承知のとおりです。
 私達はこれら先輩議員に深く敬意を表し、その心を引き継いで世界のとりわけ六〇%の人口を占めるアジア地域の人口と開発の問題取り組んでいます。
 昨年、日本はUNFPAに対する拠出額では、オランダに次二位になりましたが、長期間にわたって一位を維持してまいりました。おそらく、現在でもIPPFに対する拠出を合算した額では1位を維持していると思います。
 また人口関連の重要な問題としては、現在HIV/AIDSに対する対応が緊急に必要になっています。そのためGIIを通じて三十億ドルの拠出を行ない、現在でも九州・沖縄サミットで公約した「世界エイズ・結核・マラリヤ対策基金」二億ドルを三年間で拠出しています。
 日本では人口増加という意味での人口問題がなくなり、日本国民の人口増加問題に対する関心は必ずしも高くありません。なおかつ、日本は長期的な経済不況にあえいでおり、国家財政は極めて厳しい状況にあります。
 この厳しい状況の中で、JPFPメンバーがAPDAの支援を受けつつ政府に働きかけることでこの重要な支出を継続・維持しています。
 ただ現状では、ODAの増加は望めず、選挙民に対して国会議員が説明するためにも、ODA配分の再考、効果の測定、より一層の効率化が求められています。
 その意味で事業の効果測定を含め、より一層のグッドガバナンスが求められています。
 このODAに対するグッドガバナンスを実現するためには日本政府やJICAなどの努力だけではなく、ODAを受け取る各国政府、地方政府、草の根の現地住民の協力が不可欠です。
 この私たちの国会議員活動が、その橋渡しをし、これからより一層の効率化と同時に友好関係を構築していく場となることを念願いたしています。私達国会議員が、各国政府、選挙民の橋渡しとなることで人口・開発問題を解決し、アジア地域のみならず世界の平和と安定の基盤を作り上げることができることを期待しています。
 終わりにあたり、佐藤隆AFPPD初代議長が「人口問題を論じるとき、その原点には、必ず生命への慈しみがなければならない」、「人間は、一人一人が愛と希望の大切な対象なのである」と語っていたのを思い起こします。そして、「強い者だけが勝ち残るような選択をした場合、その勝ち残った国もいずれ滅びていくことになる」ので、「地球と人類が共生できるようにする」という目標に向かって、私達は最大限の努力をすることを誓い合いたいと思います。







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