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にゅうすふぉーらむ
中国
人口増、大型開発・水資源の乱用 深刻な砂漠化
毎年全土で三〇〇〇平方キロ
 中国の砂漠化問題が深刻化している。中国環境状況保護総局の発表によると、中国全土で毎年約三千平方キロメートルが砂漠化し、草原は毎年八千百平方キロメートルが劣化しているという。最近、中国西北部で大雨による大水害がおこったが、これも土地が砂漠化し保水力が失ったことが一因だった。快調に経済発展を続ける中国だが、この国の砂漠化問題は地球規模の課題となりつつある。(中国総局 福島香織)
 中国環境状況によると、二〇〇一年中国の三分の一の地域の平均気温は六十一年以来、最高、あるいは二番目に高い値を示した。とりわけ西北部や華北、中北部などは例年より一、二度も高く、前年に続いて大干魃が起きた。国営通信・新華社は、内モンゴル自治区の国内第三規模のバダインジャラン砂漠と第四規模のテンゲル砂漠が三カ所で統合し、タクラマカン砂漠に次ぐ第二の規模の大砂漠が登場する可能性を伝えている。
 その一方で、六月上旬に北西部で降り続いた雨は、三千万人以上の被災者を出す広域水害を引き起こしている。
 砂漠化防止研究の最前線である新疆ウイグル自治区トルファンの中国科学院生態・地理研究所の宋郁東所長によると新疆の場合、中国全土の六分の一の広さ(百六十六万平方キロメートル)を占めるにもかかわらず水資源は全国総量のわずか三%で毎年百六十平方キロメートルが新たに砂漠化し、耕地の三分の一の土壌がアルカリ化しているという。
 砂漠化の主な原因は人口増加と豊かな生活だ。新疆の人口はこの半世紀で四倍以上に膨れあがり耕地は五・四倍に増えたが、その無計画な開墾、生活の近代化に伴う水資源の乱用が砂漠化を加速させているという。また、石油開発や西部大開発による大型建設プロジェクトが砂漠の植物生態に影響を与えているとの専門家の指摘もある。
 中国政府は水資源バランスを回復するために、農地を森林に戻す「退耕還林」政策を進め、新華社が伝えたところによると、これまでに全国で二万三千平方キロメートル以上の農地が森林に戻された。だが、この政策は中国の食糧問題に直結する。中国はこのほど穀物輸入量増大の方針を打ち出したがこうした政策転換は世界の農業、食糧事情にも影響を及ぼすことになる。
 宋所長らは砂漠に道路を建設する際、同時に防砂林を植え人工緑地帯を作るなど新たな植物生態系創造につながる開発、インフラ建設の手法や、砂漠に順化する植物についての研究を進め、砂漠との戦いを続けている。その結果、七十八年の新疆の森林の比率は一・〇三%だったが、九十五年には一・六八%になり、「現在は二%近くになっていると思う」(宋所長)。こうした中国の砂漠化防止研究家の膨大な努力は、豊かさを求めて猛烈に発展を急ぐ中国に追いつくことができるのか。
(産経新聞 二〇〇二・六・二五)
 
人口
エイズ禍ボツワナ 人口構成に影響も
 国連が今月二日に発表した最新のエイズ報告書によると、ボツワナではエイズの原因となるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染した人が推定三十三万人。労働人口の中核をなす十五―四十九歳の年齢層では実に三九・八%がHIVに感染している。
 とくに若い女性の感染率が高く、都市部の産婦人科診療所に通う二十五―二十九歳の女性の感染率は五五・六%と報告されているほどだ。
 これほど感染が広がると、人口構成にも大きな影響が出てくる。国連の二〇〇〇年エイズ報告書に紹介された二〇二〇年時点のボツワナの人口予測=図参照=で、エイズの流行がなかったと仮定したときの人口構成は外側のピラミッド型になる。ところが、現実にはエイズによって亡くなる人が増えると考えられ、四十代から上は細い煙突状になった内側の人口構成になると予測されている。
 現時点での経済パフォーマンスはともかく、近い将来、一世代がまるごと失われてしまうほどの事態がもたらす影響は深刻だ。
(産経新聞 二〇〇二・七・八)
 
 
人口
新しい性教育プログラム開発
「中絶増加歯止め」と「少子化対策の柱」
 中高年など十代の人工中絶増加に歯止めをかけるため、厚生労働省は六日、新しい性教育プログラムの開発に乗り出す方針を固めた。幼いころから男女の違いを認め合う意識を育て、責任ある性行動をとる学習プログラムを開発。「性育」(仮称)と名づけ文部科学省に呼びかけて教育現場での導入もめざす。同省は少子化対策の柱の一つとして平成十五年度予算の概算要求に盛り込む。
 
 テレビや雑誌、インターネットでは性教育が氾濫し、二十歳未満で性交を経験する若者が年々増加している。
 「東京都幼稚園・小・中・高等学校性教育研究会」が今年一月、東京都内の高校生男女計三千六十四人を対象に実施した性のアンケート調査では、高三女子の四六%、高三男子の三七%が性交を「経験済み」。高三生の性交経験者のうち避妊をしていない女子は約八割、男子は約五割に上った。また、同省の母体保護統計では、平成十二年の十代の中絶実施は千人あたり一二・一人で、十年前(六・六人)の約二倍、二十年前(四・七人)の約二・五倍に急増している。
 米国の研究報告では、人工中絶した女性の五%前後が、手術の際の不注意で不妊症になるとのデータもあり、厚労省は、望まない妊娠や人工中絶を減らすためには、教育が重要と判断した。
 具体的には、男女の性差について知識を持ち違いを尊重しながら行動できる若者を育成する教育プログラムの開発▽保健所や医療機関などでのカウンセリング体制の整備などを検討している。
 「性育」の対象者は、全年齢層の男女を予定。来年度は、文科省に呼びかけたうえで、性の専門家や教育関係者らで構成する検討会を設ける予定で、事務経費などを含めて数千万円を来年度予算に概算要求する。
(産経新聞 二〇〇二・八・七)
 
人口
危機感から「南南協力」
アラブ諸国、人口抑制策に力
 世界で最も人口増加率が高いと言われるアラブ諸国が、人口抑制に本腰を入れ始めた。保守的なイスラム教の影響で家族計画の普及は遅れがちだったが、成功国チュニジアが他国の専門家に啓発のノウハウを伝授する研修を始めるなど、途上国同士が支援し合う「南南協力」で域内の連携を強めつつある。
(朝日新聞 外報部・堀内隆)
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 アラブ諸国で人口増加率が世界平均の一・二%を下回るのはチュニジアとジブチだけ。十一カ国・地域がアフリカ平均の二・三%をも上回る。
 一方、日本など先進国の増加率は限りなくゼロに近い。世界の人口爆発に歯止めをかける上で、アラブ諸国の取り組みはかぎになる。
 アラブ諸国は、国連が九十四年にカイロで開いた国際人口・開発会議を契機に「南南協力」の検討を始めた。湾岸産油国以外はどこも国内資源に乏しく、人口の急増が発展の妨げになるという共通の危機感が背景にある。九十九年には国際協力事業団(JICA)の支援で、チュニジアでの研修プロジェクトが始まった。
 毎年二回、首都チュニスの家族人口公団(ONFP)研修センターに、アラブやアフリカ諸国の保健省医官や家族計画団体のスタッフが集まる。一〜二カ月の研修で、効果的な家族計画普及のための教材作りのノウハウを学ぶ。指導者はチュニジア人の専門家。今年六月までにモロッコやアルジェリアなど十八カ国から延べ八十人が参加した。
 
根強い反発も
 チュニジアは五十六年の独立以後、全国二十四カ所に家族計画クリニックを張り巡らせ、避妊具の配布や不妊手術に取り組む一方、指導員が戸別訪問でクリニック訪問を呼びかけた。避妊具の普及率が過去二十年間で倍増して六割を超え、六十六年に七を超えていた合計特殊出産率(女性が一生に産む子どもの数)は、世界平均を下回る二・一〇に減った。
 アラブ諸国には「子どもは神からの授かりもの」という発想や欧米文化への根強い反発があり、先進国による家族計画支援が受け入れられにくい。イスラム原理主義勢力が強いエジプト南部などで欧米の援助団体が村の長老に入村を阻まれた例も。「南南協力」は支援する側とされる側が同じ文化を共有するから、感情的な摩擦をある程度避けられる。もっとも、医療専門家の間には「チュニジアの事例をそのまま当てはめるのは難しい」という意見もある。
 チュニジアが成功したのは、一夫多妻制の廃止や男女同権の法制化など、女性が家族計画に参加しやすい環境がすでにあったからだ。一方、伝統的なイスラム社会は女性を社会から遠ざける。ヨルダンのように比較的女性の就学率が高い国でさえ、地方では夫の同意なしには家族計画クリニックに行けない。ピルや子宮内避妊具(IUD)など近代的避妊法の普及率は、イエメンやイラクではわずか一〇%だ。
 
性教育を検討
 チュニジアは次の一手として、独自の青少年向け性教育活動も南南協力で広めようと考えている。若いうちに家族計画の大切さを理解してもらえば、将来の人口抑制につながるとのねらいだ。
 このアプローチは、抑制の効果が出るまでに時間がかかるが、イスラム社会の伝統や習慣を尊重しつつ家族計画の普及が期待できる。日本のJICAも計画に賛同し、支援の検討を始めている。
(朝日新聞 二〇〇二・八・七)







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