日本財団 図書館


第12回人口と開発に関するアジア国会議員代表者会議
女性・ジェンダーおよび人口に関するマニラ決議
1996年2月13日
フィリピン国、マニラ
 
前文:
1. 人口と開発問題に関心を寄せる国会議員がフィリピン国マニラに集い、アジア各国、人類社会(World Community)、そして私たちの母なる大地が明るく希望に満ちた未来を達成するための方策を協議した。
 
2. 1994年の国際人口開発会議(ICPD)、1995年3月の世界社会開発サミット(WSSD)、9月の第4回世界女性会議(FWCW)の国際的潮流を視野に入れながら、私たち、人口と開発に関するアジア国会議員代表者会議は、過去3年間、北京・東京・マニラで「21世紀における女性―平和と繁栄の戦略―」をメインテーマに論議を深めてきた。
 
3. 女性の十分な参加なくしてアジアの膨大な人々の生活の質と自然環境に脅威を与えている人口問題の解決はありえないとの認識に基づき、これから述べる勧告がアジア地域における、女性の健康、経済、社会すべての分野における更なるエンパワーメントを導き、女性が家族と社会においてより活発(effective)なパートナーとなり、生活の中においてその持てる力を十分に発揮することができ、更にいまだ満たされないニーズを満たすためにより明確に発言し、ともに働くことができるようにすると確信し、同僚国会議員および自国政府に対して以下の勧告を行なう。
 
4. 私たちの地域は広大であり、豊かで深遠な文化、宗教、政治そして経済的多様性を持ち、様々な開発過程を経験し、またそれぞれに異なった開発の過程にあるが、私たちは共同して以下の提案のために活動する。
 
序文:女性と持続可能な開発
5. 女性と男性の十分なそして公正なパートナーシップ(協力関係)なくして、人口問題の解決はありえず、社会開発の達成と、環境と調和的な持続可能な経済開発はありえないことを確信する。このようなパートナーシップを実現するためには、アジアの女性と少女に対する教育機会の増大および経済的可能性の拡大による生活のすべての面―経済、社会および政治―における女性のエンパワーメントが必要である。このことは、女性の地位の向上、選択肢の拡大、および彼女等の人生の自己決定を行なう機会と能力の向上につながる。
 
6. 私たちは、人口、持続可能な経済成長、社会開発および安全と平和は相互依存的かつ相互補強的な関係にあり、急速な人口増加の低減、貧困の撲滅、環境保護、雇用創出、失業の減少のために努力しなければならない、ということを認識している。
 
7. 私たちは、家族が社会の基本単位であることを確信し、人間の制度としての家族の存続が脅威にさらされている兆候に注目する。力(権力)の配分、ジェンダー(社会的な意識としての男女の差)、そして所得の不公正が相互作用し合って、家族の中でそのすべての成員に、ストレス、緊張、暴力を引き起こしている。従って、ジェンダーにおける公正性の改善に対する努力、および効果的な人口プログラムならびにその他の開発プログラムの実施が、家族の崩壊を防ぐ上で必要不可欠であることを強く主張する。
 
8. 貧困と人口の急増、乳幼児・妊産婦の高い死亡率の相互関係を理解し、域内の国々に対してカイロで合意された目標をより早く達成するよう強く求める。
 
9. 人権尊重なくして急速な人口増加の抑制、環境の面から見た持続可能な開発パターンを実現することはできないであろう。
 
10. 私たちはまた、これらの目的は平和と正義なくして達成することはできないという事実に注意を払うよう呼びかける。女性と子供は、戦争や紛争によって常に真っ先に犠牲となり、それにともなって生じる社会的な不安定性と、引き続く貧困の中で特に強い被害をこうむり続けるのである。従って、もともとどこで発生したかに関係なく地域全体を通じて、衝突や紛争を平和的に解決するための努力を強化することを強く求める。
 
女性と健康
11. 性行動に関する健康と権利についての教育を含む適切なリプロダクティブ(再生産にかかわる)ヘルス・サービスを誰でも利用できるようになることが、青年期の人々を含むすべての個人と家族全体の生活条件の改善を実現するための前提条件である。
 
12. アジア地域において青年期の女性人口の一部が、高い妊娠率を持ち、その妊娠率が高まっているケースもあることに警鐘をならし、青年期の人口のリプロダクティブ・ライツと性行動に関連する十分な情報・教育およびサービスを彼等に提供することが必要である。
 
13. 更に、既存の家族計画サービスが不十分なことにより、女性の健康と福祉に有害な、安全でない中絶が行なわれ続けていることに懸念を表明する。
 
14. ここで私たちは、私たちの地域全域において、ジェンダーに配慮したリプロダクティブヘルスサービスと家族計画サービスの利用可能性と有効性を高めるために、強くコミットメント(自分の問題としてかかわり合うこと)することを誓約する。
 
15. 政府に対し、経済的な状況が悪化しているとしても、女性とジェンダー関連のプログラムに対する予算を引き上げることを求める。このような経済環境の悪化はまた、若い女性と子供の人身売買、搾取、売春、虐待および非合法な麻薬取り引きにかかわる危険性を増大させることになる。同時に、国家および地域(機構)の担当部局に対して、社会の網の目を破壊し、不確定性を増し、政治的な意志および社会的な関心の欠如をもたらすこれらの問題に対して、直接・真剣にそして直ちに注意を払うよう呼びかける。
 
16. 私たちは、アジアの多くの地域で女性の経済的・社会的地位が低い状態が続いていることが、女性の人権侵害と悲惨な状況、乳児と妊産婦の高い疾病および死亡率、少女の性器切除、性選別、新しい生殖技術の商業化と不適切な使用、また性的虐待・搾取・暴力などの有害で非人間的な慣行およびに爆発的な性行為感染症およびHIV(ヒト免疫不全ウイルス)/AIDS(後天性免疫不全症候群)の蔓延の大きな原因となっていることを認識している。私たちはコミュニティ(村・町などの共同体)から国際的なレベルにいたるまでのすべての政府・国際機関に対して、このような女性の置かれている条件、および慣行のすべてを排除するための緊急かつ直接的な対応をとるよう呼びかける。
 
女性の社会・経済におけるエンパワーメント
17. 非識字者の3分の2は女性であり、特にその多くはアジアの農村女性である。少女と女性に対する教育は、このような状況を打破し、女性がその持てる能力を十分に発揮し、さらにアジア地域のより広範な社会・経済開発を行なう上で必要不可欠である。貧困の女性化が都市・農村の双方で今なお引き続き進行している。
 
18. 私たちは、私たちの政府に対し、女児と男児に対する基礎教育および中等教育の完全実施(義務教育化)とより広い就学機会の確保を呼びかける。更に、新たな雇用機会の創出と経済的自立につながる職業教育、高等教育を女児・男児に公正に実現するための特別な配慮を行なうよう要請する。
 
19. 私たちは、教育機会の拡大を通じて、女性と男性の双方の社会における役割と貢献に対する態度と行動の変化を促進し、旧来の男女の固定的な役割から平等、相互尊敬、生活のすべての側面−特に家事、育児およびそのほかの家族に対する責任−における調和のとれたパートナーシップヘと変えていく必要性があることを強調する。
 
20. 私たちはまた、政府および民間部門のいずれにおいても就職、報酬、昇進に際しての男女格差を排除するように求める。
 
21. 私たちは、どのような理由で女性が世帯主となったにせよ、女性を世帯主とする世帯の特別な、そしてその満たされていないニーズに対して、特に注意を払うように要請する。
 
22. 私たちは、女性が自らを尊敬し、その価値を自覚し、他の女性達に対する十分な支援を行なうことで、女性の持てる力を十分に活用し、社会における多様な役割に対する尊敬の下で、選択の幅を最大限広げることができるように支援することが必要であることを強調する。
 
23. 私たちは、メディアが、ジェンダーにおける公正、女性と男性のパートナーシップなどの新しい概念を普及する上で重要な役割を持っていることを認識するよう呼びかける。
 
人口と女性問題に対する資金
24. 私たちは、国内的・国際的な財源を十分に調達する必要性があるとの強い国際的合意に注目する。更に、「国際人口開発会議行動計画」に記されている必要と推計されている資金需要を承認する。私たちは、人々の代表として選ばれた存在として、予算上の、人間資源、行政資源の最適配分を行なうことで人々の人口と開発に対する支持を実行可能なプログラムにする責任を受け入れる。更に、人口・開発プログラムに対して必要となる資金は、可能な限り予算を見直すことで利用可能とするべきである。
 
25. 資金提供を行なっている地域と国(ドナー・コミュニティ)に対し、政府開発援助を各国の国民総生産(GNP)の0.7パーセントにするよう努力し、その50パーセントを女性、人口、ジェンダー関連活動に振り向けるように強く要請し、その資源の利用状況をモニターする。また、各国が行動計画、プログラムに明記されたように資源を配分するよう要請する。
 
26. 先進国と開発途上国の当事国が相互主義の基盤に則り、ともに協力して、均等に政府開発援助の20パーセント、そして国家予算の20パーセントを基礎的な社会プログラムに配分するよう強く要請する。その予算は、軍事支出の削減を通して得られるであろう。
 
27. 私たちは、国際的な金融機関に対して、構造調整並びに経済復興プログラムが、社会的な公正を実現し、ジェンダーの公正を実現し、女性とその家族のニーズを満たすような人道的なやり方で企画され実施されるよう強く求める。
 
28. 私たちは、人口、女性、ジェンダーに対する政策およびプログラムを支援するための十分な国内資源を動員し、分配することに対する有権者の支持を取り付けることが必要であることを強調する。
 
人口・女性問題解決における国会議員の役割
29. 政府に対し、ジェンダーの視点をその開発戦略、政策とプログラムに統合的に組み込み、それらの目的と運営を行なう上でジェンダー問題が持つ重要性に十分に配慮することを求める。特に人口と開発活動に関する立法を行なう場合に、ジェンダーの問題を十分考慮に入れることが重要であると確信している。
 
30. 女性の法的、社会的、経済的地位の改善、および女性がその権利を十分享受できるための政策やプログラムの制定と実施を政府が実施可能にするための立法を勧告し支援する。
 
31. 人口、環境保護、持続可能な開発の間の複雑な相関関係に対するより一層の認識の促進,その問題の解決に向けた積極的な態度、およびその問題に対する理解を得ることが容易でないことは承知しているが、それらを獲得できるように私たちは支援し努力する。
 
32. この努力の一環として、私たちは各国における女性の政治参加の現況を検証し再評価するためにコミットし、人々の代表としてまた、政治分野におけるリーダーとしてより公正な社会を築き上げることを擁護するだけではなく、その実現のために活動するという私たちの責任を受け入れる。この点から、私たちは、女性の政治参加、特に意思決定にかかわる地位への女性の参画を強化するために働く。
 
33. 私たちは、人口、開発、ジェンダー関連のプログラムを促進し実施する上で、男女を問わず政府・国家機関、非政府組織、民間部門で活動している人々の間の良好な協力関係を開発し、維持することが必要であることを認識している。
 
34. アジア地域における女性問題の解決を果たす上で必要となる、女性の地位に関する以前に開かれた主要な会議で採択された行動計画に準拠した形で法律を立法するために、この分野に対する適切な研究と、専門家の間の情報共有と協力が不可欠である。
 
35. この点で国会議員はユニークで重要な役割を持っている。その役割を十分に果たすために、国会議員の間のネットワークを国家レベルでも、地域レベルでも、地域間レベルでも構築する必要性がある。特に人口と開発に関するアジア議員フォーラム(AFPPD)と各地域の人口と開発問題に対する国会議員活動とのより緊密な関係を構築すべきである。このようなネットワークは国会議員に、社会・経済における課題の相互依存関係に対する認識を深めることに止まらず、経験を交換することで、このような問題を解決するための協力を促進し、拡大するものでければならない。
 
36. 世界の人口問題の解決を果たす上で、アジア地域が指導的な役割を果たすべきであるという信念に基づき、第12回人口と開発に関するアジア国会議員代表者会議の参加者は、自らの政府に対して以上の決議を伝達し、この決議実現のために私たちが活動することをここに誓約する。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION