食料安全保障と人口に関する特別運営委員会
食料安全保障と人口に関するAFPPDステイツメント
1996年5月2日
マレーシア国、クアラルンプール
1. 私たちの属しているアジアは、世界人口の約6割を占める巨大な人口と多様な文化・社会−経済条件を持っている。人口と開発に関するアジア議員フォーラムは、各国の国民から付託を受け、未来に対して責任ある判断を行なわなければならない国会議員としての立場から、飢餓や栄養不良の根絶を図り、人類の未来を希望あるものとするために食料安全保障と人口について、以下のステイツメントを行なう。
前文:人口と食料安全保障
2. 今世紀において、我々人類は、かつてない規模の人口増加を経験した。現在、地球規模での、地域、各国における多大の努力によって、その増加率は減少しているものの、絶対数ではかつてない規模の人口増加が引き続いて起こり、この人口は巨大な食料需要を生み、地球環境に対して強い圧迫を与えている。
3. 私たちは、今、かつて無限であると見なされていた母なる地球を有限の唯一無二の世界として認識しなければならない。人類の科学・技術の進歩がいかに果たされたとしても、この母なる地球の限界を越えて私たちは生きることはできない。私たちは、この地球という閉じた世界の上で運命共同体であり、この宿命を逃れることはできず、この地球上で持続的に生存する道を探らなければならないのである。
4. 今世紀において人類は、緑の革命をはじめとする科学・技術の進歩によって歴史上かつてない食料の増産を達成し、この食料生産は人口増加をも上回った。しかしながら、未開拓の可耕地はもはやわずかしか残されていない。淡水資源の逼迫は日を追って強まっており、更に、塩害、酸性土壌による被害、過収穫、化学肥料、農薬の過剰投入などによって土壌の健全性は喪失し、限界生産力は低下を始めている。無限に見えた海洋資源もその限界が見えてきており、収穫の低下を引き起こし、これまで人間の過った活動すべてを受け入れていた私たちの地球は、環境悪化という形で、その限界を示している。
5. これまでの世界の食料需給に関する予測は、しばしば限られた専門家の手によってなされてきたものである。予測をより正確なものとするために、すべての国に対して自国の人口扶養力を推計することを勧告する。それは、様々な機関から集まった多分野の科学者や公務員による学際的な専門家グループによってなされるべきである。国会議員に様々な意見を収集し聞く責任と能力があると信じている。
6. 世界の食料と人口の需給予測は短期的には楽観論になりうるものの長期的には悲観的な見方を取らざるを得ない。この現状認識に基づいて私たちは、未来の世代にこの母なる地球を渡すための努力を今行なわなければならないのである。そこで私たちは、1)人口増加と食料生産、2)食料生産と環境、3)農村開発(コミュニティ・デベロップメント)について申し入れを行なう。
人口増加と食料生産
7. 人口増加低減に対する努力を行なっても、なお人口の絶対数はかつてない増加を示している。この人口増加は巨大な食料需要を生む。人口増加を可能な限り抑制することが、人類が地球上で生きていく上での最も基本的かつ不可欠な対策となる。更に、(環境)負荷を軽減し、持続可能な食料生産を行なうために、環境と調和的な農業開発を行なう必要がある。
8. 国会議員として、国際人口開発議員会議カイロ宣言、国際人口社会開発議員会議コペンハーゲン宣言、国際女性人口開発議員会議東京宣言を再確認し、国会議員としてこれらの問題にコミットしていく。カイロの文書に盛り込まれた思想は、プライマリー・ヘルスケア、家族計画、リプロダクティブ・ヘルスサービス、そして初等教育の大幅な拡充を呼びかけている。このことは、女性と女児および開発から置きざりにされた農村地域において決定的な重要性を持っている。各国政府並びに国際社会に対してこれらの活動のための資金および資源を増加させることは国会議員の重要な役割であると確信する。
食料生産と環境
9. 過去半世紀、食料供給の伸びは人口増加率を上回っていた。社会・技術的発展は緑の革命を生み出した。この過去の成功は重要であるが、その成功はまた、食料安全保障に対して誤った感覚を与えてしまった。これまで、食料生産に成功してきたにもかかわらず、地球的、国家的、家庭内の食料分配の問題、持続的な将来の食料生産の増加、環境保護を達成しうるような持続可能な農業開発をいかに果たすかという問題が残されている。
10. 政府と国会議員はWTO合意を含むすべての国際的な協定が各国の農業生産にどのような影響を与えるのか検証するべきである。同様に、地域内特恵の貿易ルールもまた食料生産と価格構造に必ず何らかの影響を与える。途上国がその余剰農産物を輸出することが困難となるような措置が先進国によってとられている事例もある。従って、各国政府は、国際協定が他国への農業輸出にどのような影響を与えることになるのか、細かく検証することが必要である。国際条約や協定を結ぶ前に、当事国政府はその合意に含まれる条件が農業や環境に対して悪い影響を与えないか検討する必要がある。
11. サミットの焦点が主に食料生産に向けられていることを理解している。しかし同時に、特に最も不利な立場にある共同体が食料の獲得手段と利用を可能にするという課題を重点的に扱うべきである。農村および都市貧困者は必要な食料を確保し、生きていけるようにならなければならない。食料や森林資源の生産者、特に女性は、土地や金融、適切な技術などの生産手段を利用できなければならない。
12. 村金融、小規模灌漑、農業改良・普及など、既に知られている方法を普及させることで食料増産を図るための努力を行なわなければならない。これらの方法はよく知られた方法でありながら、小規模生産者の活用は十分ではない。
13. 現在の農業には環境悪化をもたらす部分が見受けられ、持続可能ではない。環境悪化を抑制し、より持続可能な農業を発展させるために更なる努力を行なわなければならない。
14. 農林水産業・工業・サービス業など経済分野別に環境による制約は大きく異なる。農林水産業は土地面積、土壌、気候など物理的および環境から制約を直接的かつ最も大きく受ける。この点で、他の産業と異なり環境条件を十分に考慮に入れた、持続的な開発が最も重要となる。また、適切に管理された農林業生産は環境維持に貢献することができる。
15. 農林水産業などの第一次生産の体系が崩壊した中で、人類の生存はありえない。現在のところ、多くの第一次生産は環境破壊的であり、持続可能ではない。すべてのこのようなプロセスを環境保護と持続可能な開発の観点から見直し、産業分野別に公正で合理的な経済・貿易システムを構築する。
16. 地球レベルでの食料安全保障を確実なものとするために地域間および国際協力を拡大し、各国はそれぞれの環境条件と文化的伝統に基づく食料生産を奨励し、有限な地球環境を守る上で必要不可決となる貿易システムを構築するための合理的な経済政策を立案できるようにする。地震、洪水による飢餓などの緊急事態に対応する食料救援を食料安全保障国際協力の一環として組み込む。
17. 食料輸入国と輸出国の相互協力と協調関係を強化することで、地域内、地域間、地球レベルでの食料安全保障を構築する。
18. 環境保護を導く税の体系を構築するよう政策研究を行なう。更に、炭素税構想をより広く適用し、環境の価値を経済的活動の中に反映させる。炭素税による収益を環境保全に向け、環境保護が、途上国にとって利益となるような制度を構築する。
19. 自然条件、最適な生態的組み合わせに基づく、経済・社会・文化・技術の調和に立った「循環システム」を構築することで、持続可能な農業を実現する。人間、生物、環境の有機的な関係に基づく共生可能なシステムの構築を行なわなければならない。
農村開発(コミュニティ・デベロップメント)
20. 食料、水資源の確保および環境保護に大きな役割を担ってきた、農村コミュニティは近代化の過程にあり、人口増加の圧力にさらされている。人口増加の圧力とともに人口の都市への移動が起こり、都市周辺社会における治安、都市環境問題の悪化、耕作適地の減少などが進行している。
21. 人口増加と人口移動にともない、農村コミュニティが担ってきた食料生産、国土保全、環境維持の機能が脆弱化している。人口増加の抑制と環境と調和的な食料生産を実現するために農村開発を行なうことが急務である。
22. 政府は地方生産者にインセンティブを与え、コミュニティが自分の利益を図るための組織化を行なうための適切な法的枠組みを形成するべきである。法そしてメディアそれぞれに地方の人々、特に女性に焦点を当ててそのエンパワーメントを促進するよう注意を払うべきである。いかなるコミュニティ・デベロップメントも女性の人間資源開発を十分に行ない、その力を開発プロセスの中に有機的に統合することなく達成することはできない。
23. 多くの社会で農民は十分な社会的・経済的な力を持っていず、各国の政策は農民にとって身近なものと感じられないでいる。一部先進国の農民は大きな力を持っているが、多くの場合、その力を根本的な変革の阻止に使っている。すべての農民の力を経済・社会的に有意義に使うべきである。
24. 国際人口開発会議行動計画で定義された意味における家族計画と性行動に関する健康を含むリプロダクティブ・ヘルス・サービスを利用できるようにすることで、農村地域および農業共同体におけるリプロダクティブ・ライツを確保する。
25. 人口分布の適性化を行ない、活力ある地域開発を行なう上でも、中小都市の開発を行なう。地方の中小都市の開発を十分に行なうことで大都市への一極集中を防ぎ、環境と調和的な農村地域の開発を行なう。このような開発は人口の大都市への過度の集中を防ぎ、環境と調和的な農村の開発を促進するであろう。
26. 人口、持続的な食料生産、環境保護、社会開発は相互補強的かつ相互依存的な関係にある。これらの分野の問題解決を成功させ、速やかに実施するためには包括的かつ学際的な取り組みと、公的専門諸機関の連携が必要である。
27. 適切な対応策をとるためには、食料不足と栄養不良にあえいでいる人の参加が必要であり、世界食料サミットにおいては食料安全保障、人口プログラムの改善を行なう上でどのような参加型のアプローチをとるべきであるか検討するべきである。女性および女児の教育の向上および社会参加は、リプロダクティブ・ヘルスにおける選択権のみならず金融制度の利用、農業技術、栄養資源の利用の拡大をもたらし、家庭およびコミュニティにおける(女性の)意思決定を容易にする。
28. これまでの国会議員会議で決議されてきたように、これらの問題の解決には平和と、参加、協力と学際的なアプローチが不可欠かつ緊喫の課題である。私たちアジアの国会議員は、ともに働き、共通に直面している課題を解決に導くことによってのみ、人類の未来を築き上げることを再確認し、私たちの決意の現われとしてこのステイトメントを提出する。
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