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新年のご挨拶
ジェトロ・パリ・センター船舶部
芳鐘 功駐在員
 新年あけましておめでとうございます。昨年3月17日にジェトロ・パリ・センター(中小造工パリ共同事務所)に赴任以来まもなく10ヶ月が経過しようとしております。9月には、「欧州造船所視察及びハンブルグ国際海事展(SMM2002)出展」ミッションとして、三輪会長をはじめ中小造工会員各社の皆様にご来仏いただき、同ミッションに私も同行させていただきました折、皆様と貴重な意見交換をさせていただきましたこと、また、私のつたないご案内にもかかわらず皆様から温かい激励のお言葉を賜りまして、誠にありがとうございました。この場をお借りして改めて御礼申し上げます。
 さて、当地フランスに関する昨年1年を報道機関の取り扱いの多かったトピックスで振り返りますと、年初のユーロヘの通貨統一、春にはシラク大統領再選(5月)、中道右派の新政府誕生(6月)、W杯での仏敗退(6月)、夏には独・仏周辺を襲った大洪水、その後9.11テロ事件再発に備えた警備体制強化とつづきました。最近のトピックスとしては、アラビア半島イエメン沖の「ランブール(仏船籍)」号事故(10月)、スペイン北西部ガリシア沖の「プレスティージ」号事故(11月)と、相次いでタンカー事故が発生し、当地新聞紙上は毎日のように関係記事で埋め尽くされております。特にフランス・ブルターニュ沖で起きた「エリカ」号事故から丸3年が経過した直後の「プレスティージ」号事故に関しては、重油汚染がフランス南西部にも及ぶことが確実視されており、また、本船が2006年まで重油を流し続けるであろうとの予想も示されている中、〜「エリカ」号事故で得た教訓は一体何なのか〜という厳しい論調で、仏「フィガロ」紙に特集が組まれるなど、仏各紙がこぞってこれまで以上の反応を見せており、今後も目が離せない状況が続くと思われます。
 また、赴任初年度ということで、読者の方々には大目に見ていただきまして、この場をお借りして、私自身の実体験上でのトピックスを幾つかご紹介したいと思います。
 先ずは、ユーロヘの通貨統が何と言っても第一に挙げられます。赴任当初、殆どのレストラン・商店の値段表示には旧通貨(フラン)と新通貨(ユーロ)が併記されており、会話においては先ずフランで値段確認をしてからユーロで支払うといった光景が多かったのですが、1年が経過し、今やすっかりユーロが定着しております。(といっても、年輩の方の多くは物品の相場観を尋ねるときに未だフランで確認しているようですが・・・。)通貨統一以降ユーロは順調に右肩上がりの強さを保持しており、ドルと逆転する場面も幾度と経験し、円ベース給与の私の実生活に大きく負の方向に作用していることは余談に過ぎませんが、当分ユーロ高の勢いは衰えないのではないでしょうか。とは言え、ユーロランド内の複数の国への出張・旅行の際には、例え言葉が違っても通貨が同じという体験は新鮮かつ何よりも便利で、両替不要は言うまでもなく、圏内の物価比較を瞬時に行えることが欧州経済全体に大きく影響すること必至です。ユーロランドはもちろんのことEUにすら加盟していないスイス国内の国境近くのドライブインやキオスクでは、もはや当たり前のようにユーロが通用しているということが現実に起きています。周辺経済が自国政策を先んじている顕著な例です。物価の高い英国などが、自国経済保護のため周辺諸国との価格差をあまり露骨に民衆に知らしめたくないということが、ユーロランドに加盟しない理由の一つだという噂は、民衆の相場観としてはうなずけるものがあります。また、訪問国の通貨を収集していらっしゃる方々には、ユーロランド12か国の各国独自の個性あふれる8種類コインの収集が新たな楽しみとなっています(ただし、紙幣は12か国共通)。
 次に、パリのスリ・強盗等の犯罪の多さです。実際に私も赴任1ヶ月後に通勤途中のメトロ1号線車内にて東欧出身と思われる14、5才位の少年少女5人組に囲まれ、強引なスリに遭遇しました(幸い未遂に終わりましたが)。パリ市内メトロ各駅では始終「スリにご注意!」の構内放送を繰り返し行っていますが、未成年に対する犯罪に甘く、功を奏していないのが実態です。安全と言われている地区にお住まいの自宅アパルトマン地下駐車場にてタイヤやカーステレオの盗難に遭遇した方もいますし、町中ではローラーブレードやバイクを使用したショルダーバッグの引ったくりも多発しており、彼らを取り締まるためのローラーブレードを装着した警官の姿も今やパリ名物となっております。パリ市内の宿泊ホテル前で日本人旅行者のご婦人が強盗に襲われたところを、勇敢に立ち向かったご主人が暴行の末殺害された事件も昨年起きました。今から10年以上前フィレンツェの町中で、私の同伴の友人がやはり14、5才位のジプシー2人組に白昼堂々囲まれてTC等貴重品の入ったウェストポシェットの中身を盗まれ、運良く捕まえて市警察に突き出した際に、未成年故に即時釈放しようとする警察に憤怒した私に対して宣うた市警察幹部の宥めの一言が今でも忘れられません。「命があっただけラッキーと思いなさい。」パリにおいても前NY市長のような強力な犯罪撲滅政策を打ち出してもらいたいものです。
 実体験の最後にご紹介するのは、9.11事件1年後のテロ再発が囁かれていた時期に我が家で起きた笑うに笑えぬ出来事です。我が家は代々先輩から引き継いだアパルトマンですが、仏ローカルTV放送以外に、アナログ衛星放送にて、米国CNN及びCNBCのニュース番組並びにEUROSPORTSといった英語放送のほか、独を中心とするニュース・ドラマなど、欧州各国から配信される約50ch程のTV放送が受信できます。急性気管支炎を患って暫く床に伏していたある日、久し振りにCNNでも見ようとTVのスイッチを入れたところ、今まで映っていたチャンネルが全て「No Signal(受信不可)」表示となってしまい、その代わりに、今まで映ったことのない5番組が、くっきりと鮮明に色々なchで見れるようになっていました。しかも、その5番組全てが中東及び北アフリカのアラブ諸国からの放送だったため、テロ再発に備えてパリ市内の警備が一層厳しさを増していた時期だけに、「もしや電波ジャックでは?」と思い、一瞬緊張が走りました。その後、我が家のバルコニーに設置した衛星放送用パラボラアンテナが折からの強風により5度ほど動いただけのことだと判明し、結果的に笑い話で終わりましたが、全くの偶然とはいえ5度程度のパラボラの傾きでアラブ系放送専用の衛星に同調したということが、如何に当地が中東・北アフリカに地理的に近いのかということを改めて実感させられる出来事でした。日本にいれば色々報道を眺めていても、心のどこかで所詮は「無関係の国々」というようにしか認識していないこれらの諸国も、当地では他の欧州諸国とともに隣国という実感が沸いてきます。
 長々と書き連ねてしまいましたが、日本ではなかなか経験できないことを実体験することが海外生活の醍醐味でありますし、外からの眼を通して改めて日本という国を再確認する絶好の機会でもありますので、今後とも欧州駐在の地の利を活かした情報発信に心がけて参りたいと思います。
 最後に、我が国造船業界におきましては依然厳しい経営環境が続くことと思いますが、当パリ共同事務所を欧州・アフリカ・中東地域での日本の造船業界の活動をサポートする拠点として、今後ともご活用いただきますれば幸甚です。
 
海外事務所活動レポート
プレスティージ号事故発生から一ヶ月
ジェトロ・パリ・センター船舶部 芳鐘 功駐在員
 2002年11月19日にスペイン沖で船体がまっぷたつになった大型タンカー『プレスティージ』は、積み荷の7万トンの重油と共に、スペインのガリシア地方沖270キロ、3500メートルの地点で沈没した。難破した「エリカ」から流出した原油がブルターニュ地方の海岸を覆ってから3年後のこの新たな海洋事故に、海運の安全性確保の問題が新たに検討されている。今回、沈没した「プレスティージ」をめぐる事故発生から1ヶ月間の仏・西の動きを追ってみた。
<仏・西、海上輪送の安全強化に関して合意>
 スペインのガリシア沖における石油タンカー、プレスティージの沈没事故を受けて、スペインとフランスは、11月26日にマラガで開催された首脳会談で、排他的経済水域(海岸から200海里=370km)への最も危険な石油タンカーのアクセスを制限することで合意し、危険性の高い船舶の航路を、現行欧州規則よりも沿岸から距離を置くよう定めた追加措置を首脳会談の翌日から火急的に適用することで一致した。
 またシラク仏大統領及びラファラン仏首相、アスナール西首相は、12月12日にコペンハーゲンで開催されるEUの首脳会議で、2000年に採択された海運安全強化のための欧州指令の適用加速を議題として取り上げるよう求めることでも合意した。海上輸送安全に関する問題は、EUの運輸相理事会(12月5日)及び環境相理事会(12月9日)でも検討され、EUの環境相らは自然災害に対するEUの新基金である連帯基金を海洋汚染除去コストの一部に充当するよう欧州委員会に要請している。
<スペイン政府への批判高まる>
 プレスティージの沈没事故による海洋汚染の予防対策の遅れのみならず、実際の被害への対策に関しても、またメディア対策に関しても、後手に回っているアスナール西首相に対して国民は批判的になっている。
 ガリシア地方の海洋汚染に伴い、アンダルシーア地方のスペイン社会労働党(PSOE)は12月6日、政府に対し、ジブラルタル海峡付近を通過する危険な船舶について安全性の検査を強化するよう要請した。ジブラルタル港では12月6日夜に3万トンのケロシンを積載した米国タンカーが貨物船と衝突したが、ケロシン流出には至らなかった。PSOEはスペインの海岸線が欧州諸国の中で最も長いことを指摘しつつ、ガリシア地方とともに、ジブラルタル海峡が危険な物質を積載する老朽船の寄港地であることを強調した。またPSOEはアスナール西首相にブレア英首相と会談し、老朽船のジブラルタル入港をどのように阻止するか検討するように求めた。なおスペインでは同国の港に停泊中のマルタ籍の老朽タンカーが11月30日に出港を命じられたが、その後、難なくジブラルタル海峡付近のアルヘシーラスに入港できたことが問題視されている。また、これにともないスペイン社会労働党(PSOE)のロドリゲス・ザパテロ書記長は「プレスティージ」沈没によるガリシア地方の海洋・沿岸汚染除去対策のために、今夏ドイツと中欧を襲った洪水の際に創設されたEU連帯基金の本年度予算の残りを速やかに活用すべく、アスナール西首相に「あらゆる必要な努力」を払うよう強く求めると発表した。
 これに対し、アスナール西首相は12月9日の国営テレビ局のインタビュー番組で海洋汚染を「スペイン最大の環境災害」と認めつつ、汚染が引き起こす経済的、社会的影響を防ぐために、政府は事故当初から対策を講じており、今後とも必要なあらゆる措置を講じる用意があると語った。首相はまたEU諸国とEU加盟候補国、並びにロシアに書簡を送り、12月6日にEU諸国の運輸相により採択され、近くコペンハーゲンEUサミットで協議された後、来年1月1日から適用される予定のシングルハル重油タンカーが域内の港に寄港することを禁止する措置を支持するように求めたと述べた。首相は最後にガリシア地方をできるだけ早く訪れ現状を視察する意向を表明し、視察は写真に収まることではなく、対策を講じるためであり、ガリシア地方の住民に援助を惜しまないと締めくくった。一方野党は首相の発言に不満を隠さず、社会労働党(PSOE)はうわべを取り繕うもったいぶった発言に過ぎず、批判を隠ぺいするものだと、再度首相を批判した。
<フランス側の対応>
 一方、仏政府は石油流出による海岸汚染の危険性が高まっているフランス沿岸地域について、石油汚染の対策措置を発動している。
 スペイン沖で沈没したタンカー「プレスティージ」からの石油流出に関連して、仏ピレネー・アトランティック県は12月7日、海洋・海岸汚染の対策措置である「ポルマル・テール」プランを発動した。消防隊や軍の動員に加えて、除染用に漁船数隻を徴用し、石油回収用の網を配備するなどの準備作業が開始された。ラファラン首相は8日、関係閣僚らを集めて開いた緊急対策会議で、「ポルマル・テール」プランをランド県にまで拡大する方針を決めた。バシュロ環境相は7日、ピレネー・アトランティック県を視察した機会に、気象条件次第ではあるが、石油が仏海岸に漂着する可能性は高いとして、予防措置としてプラン発動を決めたと説明した。現時点で、仏国境から15キロ地点のスペイン沖に石油ホールが確認されているが、タンカーからの流出石油である以外に、タンカー沈没を好機と見た別の船舶が、航行中に行なった不法な廃油投棄に由来する可能性もある。政府は、クリスマスに消費のピークを迎える養殖カキヘの影響は当面は考えられないとしているが、石油が徐々に漏出した場合には、仏でも大西洋岸南端からブルターニュ半島にかけての幅広い地域が、数ヵ月にわたって被害を受ける可能性も否定できない。
 また、県レベルでは、ヴァンデ県のフィリップ・ドゥ=ヴィリエ知事は、トロール船30隻と210人の乗組員からなる「流出重油対策艦隊」を組織することを12月10日に発表した。これはサン・ジル・クロワ・ドゥ・ヴィーの漁師達によって考案されたもので、トロール船1隻あたり10トンの重油回収能力を持つという。艦隊は常に2隻のペアで行動し、漁業も平行して継続する。
<「プレスティージ」号の重油流出防止のためのプロジェクト>
 「プレスティージ」号の船内には12月10日現在、5万6000トンの重油が残されたままで、毎日125トンの重油が流出している。何とか重油流出を食い止めることができないかと、仏潜水艦ノーティル号は12月12日、「プレスティージ」号に接近し、重油が流出している孔の幾つかに栓をすることで流出防止が可能かを試す作業を行なった(12月13日時点で結果は不明)。一方、蘭Smit社は、同社が船体の割れ目を塞ぎ、重油タンクから重油を吸い出す作業を行なう技術を持つと名乗りを上げている(推定コスト5000万ユーロ)。また仏中小企業Geoceanは、重油が流出している孔(複数)の上に重油回収装置を設置する(漏斗様のもので回収した重油を袋に集めて海上まで引上げる)ことを提案。さらに「プレスティージ」号をダイナマイトで爆発させ、一気に重油を海上へ浮上させポンプで回収する案(少しづつ流出する重油を集めるより容易)は、ダイナマイト使用に愛着を抱く海軍軍人には歓迎されそうだが、アスナール西首相が敢えて同案を採択するかは疑問だ。最終的に最も現実性があるとされるのは「棺」により「プレスティージ」号全体を覆って重油流出を食い止める案。ただしいずれは「棺」にも割れ目ができて重油流出が再開することは避けがたいが、耐用期間はコンクリート製で数百年、スレンレス製で数千年とされ、「棺」に弁を設置しておけば、吸出新技術が開発された際にこれを利用して「棺」内の重油を吸い出せる利点もある。
 また、アルストムは11月28日、油防除船「Oil−Sea−Harvester(OSH)」の概要を発表した。アルストムはCEPM(石油・海洋研究委員会)の依頼に基き、CEDRE(事故による水域汚染に関する資料・調査・実験センター)が作成した仕様に則ってOSH実現のための研究を進めてきたが、「プレスティージ」号沈没により海洋汚染に対する関心が高まっている折りから、OSHプロジェクトの公開に踏み切った。
 CEPMでは99年のタンカー「エリカ」号遭難の際に、海洋に流出した化学物質・石油を回収する船舶の機能が極めて不十分であったことを教訓とし、アルストムとDORIS(オフショア関連エンジニアリング)に回収船の設計・開発を依頼した。なおCEPMは1ヵ月後に、両社が提出するプロジェクトを比較・検討することになっている。アルストムが考案したOSHはトリマラン型で、全長136m、幅32m。船体の中央部は大量の汚染物貯蔵能力を持つ。また中央部の左右の側面部が各々長さ50m、幅4mの『波の動きが緩和される空間』を作り出し、この空間により暴風雨の際も海洋に漂流する石油の回収が容易に行なえる。模型で実施したテストによると、海洋では5mの高さの波が同空間内では半分の高さに鎮まり、毎日6000トンの石油など浮遊物が回収できる。速力20ノットで30日間の連続航行が可能で、また13ノットの低速で航海しながら、回収した石油と海水を分離し、汚染除去した海水を海に戻す作業も行なえる。なお調査を完了して、OSH建造するためには今後2年間と1億ユーロが必要だ。(2002年12月20日付)







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