第3章 艤装作業における標準作業手順書及び作業要件書
中小造船業の艤装作業においては、船殻作業に見られるような機械化、自動化の進展が見られない。主な生産性向上施策は、ブロック艤装などの先行艤装に見られるような、工事量の平準化、総工事期間の短縮及び運搬の合理化を含めた早期艤装や、作業者の多能化及び下請け依存率の増大策などである。
艤装作業は、極めて多くの艤装部品を取扱う関係から、その作業内容は複雑で、また多岐にわたる技能が必要とされる。さらには、複数の職種の作業者が同時に作業するいわゆる混在作業となるため、その作業管理が工程の確保、作業能率の向上に極めて重要な影響を与える。
作業管理の基本となるのが作業分類であり、作業内容の明確化である。特に作業現場では造船所の従業員と協力会社の従業員が混在するため、造船所の従業員間だけでなく、協力会社従業員との作業分担も明確にしておく必要がある。
このような背景から、中小造船業における職種区分や作業内容を調査し、下記作業分類を試みた。
艤装作業の分類は、作業管理単位と密接な関係がある。管理単位は、造船所によって異なるが、まず作業名から始まって組織名である班、係、課、部単位となり、この管理単位で、工程計画や時数計画がなされ、フォローアップされ、見積もり参考資料になっている。
近年の低船価時代にあっては、作業者の数を減少させることが、生産性向上施策の柱となっており、作業者数の減少は現場組織の簡素化となり、現場の組織名称の数も大幅に減少している。
かつては工作部の現場組織として、内業課、外業課、船体艤装課、機関艤装課、電気艤装課などがあったのが、内業課と外業課が統合され船殻課、それに船体艤装課の1部も加えるようになったところもある。また船体艤装課と機関艤装課、電気艤装課が統合されて機関課になったところもある。それに伴い今までの作業が複合化され作業者の作業範囲が増大してきている。
現地調査の結果、作業のための移動距離を短くして作業範囲を限定することで生産性をあげるべく、鉄艤装や配管、仕上げを甲板と機関に分けていたのを統合しているケースも見られた。
また、居住区の木艤装のように、殆どの造船所が資材部発注で専門業者に設計から材料手配、工事施工までを委託し、造船所はその工程管理だけを所掌するような作業形態が見られるようになった。このように専門業者に工事一式を委託する作業は、電気艤装関係、機械加工の船尾管ボーリングなどにも見られた。
以上のような状況から、艤装作業の呼称及び分類は各造船所により異なるが、艤装作業内容を実地に調査した上で、新たに試みた新造船(艤装)作業の分類を表3.1に示す(船殻を含めた新造船および修繕船の作業分類は、添付資料2に示す)。
表3.1 新造船艤装作業分類
職種区分 |
作業名 |
鉄艤装品製作 |
鉄艤装品罫書き |
鉄艤装品切断 |
鉄艤装品曲げ |
鉄艤装品組立 |
鉄艤装品溶接 |
鉄艤装品歪取り |
鉄艤装品取付 |
鉄艤装品取付 |
鉄艤装品溶接 |
鉄艤装品検査準備及び受検 |
甲板仕上げ |
係留係船装置据付、調整、運転 |
荷役機械据付、調整、運転 |
交通装置、消火装置取付 |
通風・空調装置据付、調整、運転 |
救命艇装置据付、調整、運転 |
冷蔵装置据付、調整、運転 |
塗装 |
掃除及び磨き(パワーツール) |
養生・シンナー拭き |
塗料準備・塗料撹拌 |
塗装(エアレス、ローラ、刷毛) |
乾燥及び通気機材配置 |
塗膜検査、手直し、ガス検知 |
管加工 |
管罫書き、切断 |
管曲げ加工(ベンダー操作) |
管組立 |
管溶接 |
管仕上げ |
管検査 |
配管 |
加工済み管の船内取付 |
管支持(バンド)位置決め |
管型取り |
管漏れテスト受検 |
通水・通気の確認 |
機関仕上げ |
軸系・舵関係芯見通し・据付 |
主機関積込・組立・据付・運転 |
補助機器台据付・溶接 |
補助機器据付・運転調整 |
各検査準備及び受検 |
予行・公試運転 |
製缶 |
製缶罫書き |
製缶切断 |
製缶曲げ |
製缶組立 |
製缶溶接 |
製缶歪取り |
機械加工 |
機器台表面仕上げ加工 |
推進軸切削加工 |
推進軸路ボーリング |
その他機械加工 |
電気艤装 |
電路取付・溶接 |
電線敷設 |
機器への結線 |
航海計器据付・調整・試運転 |
制御機器・盤据付・調整・試運転 |
保温・防熱 |
倉内防熱 |
管保温・防熱 |
機器類防熱 |
掃除 |
倉内掃除 |
機関室内掃除 |
居住区内掃除 |
廃棄物運搬・焼却 |
クレーン運転 |
大型クレーン |
床上操作式クレーン |
フォークリフト |
重量物運搬車 |
高所作業車 |
各点検・整備 |
運搬 |
部材移動・反転(玉掛) |
作業機器船内積込・積下ろし |
主機・補機・舵プロペラー軸搭載 |
ワイヤ点検・整備 |
足場 |
地上ブロックの足場架設・撤去 |
外板足場の架設・撤去 |
倉内足場の架設・撤去 |
機関室内足場の架設・撒去 |
甲板上背高構造物の足場架設・撤去 |
足場資材点検・整備 |
検査 |
ブロック検査(組立精度、溶接) |
空気・水圧テスト |
治工具 |
治工具製作(吊、足場ピースその他組立治具) |
治工具保管 |
治工具修理 |
木艤装 |
船倉内木艤装 |
居住区木艤装 |
保温・防熱工事 |
防火構造工事 |
床舗装 |
船具・操船 |
進水作業 |
曳船作業 |
注水・排水作業 |
索具加工 |
倉庫 |
資機材検収・保管払い出し |
資機材集配材 |
動力・保全 |
構内動力設備運転(電力・ガス・水・圧縮空気) |
廃水処理設備運転 |
安全 |
安全点検 |
安全指導 |
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(1)標準作業手順書
艤装作業の作業手順は、船殻作業に比較してチーム作業が多く、作業自体の性格上手順を誤ると能率に大きな影響を及ぼすばかりでなく、作業自体の成否に関係する重要なものである。
実際の作業では、その作業手順は過去の経験の蓄積によって先輩から後輩に受け継がれ、作業者の頭の中に記憶として存在している。
調査結果によると、標準作業手順書をもつ造船所は数多くあるが、関係する大造船所から譲渡されたり、必要に応じて必要な部分だけが作成されたもので、全作業にわたり完備しているとは限らない。
標準作業手順書は、いったん文書化されると、そのまま保存され、後で利用されることが少ない。これは自分に関係する作業手順は作業者の頭の中に記憶されていて、再度見る必要がないからである。また、作業の実施にあたっても殆ど見ることがないため、そのフォローアップが不十分で、実際の作業手順と異なることが多い。さらにいえば、大造船所から譲渡されたものは、実際の作業と異なるところがあり、その修正が十分なされているとは言いがたい。このような作業の実態との相違が、標準作業手順書が活用されない一つの原因ともなっている。
(2)標準作業手順書の例
この例に見られるような記載内容を盛り込むと、実際の作業に対して有効に利用できる。以下、標準作業手順書作成にあたっての留意点を述べる。
(i)準備物品:参照図面・・・作業に必要な全図面を記載する。
使用工器具・・・作業に使用する工器具を全部網羅する。
補助材料・・・作業に使用する補助材料を全部網羅する。
安全工器具・・・作業に使用する安全工器具を全部網羅する。
作業は段取り7分とか8分とか言われるように、作業前の段取りの良し悪しで作業能率やできばえが大きく左右される。この項を充実させ、チェックリストとして活用すると段取りがより充実する。
・工場設備や造船所のやり方により準備物品もかわるので、その点も十分考慮する必要がある。
・使用工器具や補助材料は、作業によっては、専用工具箱を作成し、工器具のリストをつけて管理するようにするといっそう効果的である。
(ii)工程:大まかな作業内容を記入する。
(iii)作業手順:工程内の作業手順を記入する。
(iv)作業要領:作業手順の具体的な作業要領を記入する。
この作業要領は重要であるが、所詮文書で書かれているだけで、作業結果(品質、能率)を左右するのは“技能”である。
例えばダイヤルゲージで計測したり、マイクロメータで計測する場合、技能の差で計測速度も、計測誤差も変わる。このダイヤルゲージやマイクロメータの正しい取り扱いがすぐにできるように文書化することは難しい。これが技能で、「技術は文書化できるが、技能は文書化できない」といわれるゆえんである。
また、作業要領の中には記録すべき項目を明確にしておくと、記録(数値)が蓄積されるにしたがってノウハウも蓄積されることになる。
・作業要領は出来るだけ分かりやすく表現すべきで、記述だけでなく図示、写真、必要ならビデオなどを利用する。
・技能をよりうまく表現しようとするならば、例のような記述では不十分で、一つ一つの動作を記述する動作分析に近いものとなるであろう。その場合はきわめて詳細で長い記述となり、利用上の煩雑さも増大するから、精粗の程度は十分、考慮しなければならない。
(v)備考:ここには使用する安全工器具、必要な検査を記入する。「安全は工程に折り込め」といわれるように、一般的な安全教育による安全処置だけでなく、各作業手順の中にその作業に必要な安全処置を明確にすべきである。また作業要領における検査項目を明確にしておくと検査工程の円滑化、顧客との信頼関係の醸成に有効であろう。その他カンどころ、注意点など記入するとよい。
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