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2.4 協力企業における雇用、技能伝承の実情
(1)一括外注業者における雇用と技能伝承
 2.3(1)のa.のグループに分類される一括外注業者の実態を聴取したところでは、全国規模で営業、工事活動を行っていて、設計と研究所を持っているところもあり、専門的に高度の工事を処理する能力を持っている。
 機器を中心とする一括外注業者は、その規模が大きいために専門領域の技術を研究し技能伝承も図っている。すなわち彼らは総合的な管理能力と個々の技術力によりその専門性を評価されていると自覚しているので、定期的な技術講習会を開くなど、技能の伝承にも意欲的である。
 b.のグループに分類される電装業者の中には社員に船舶電装士、レーダー整備士や無線整備士等の関連資格の取得を奨励しているところもある。このような専門業者はコストとともに技術的優位性が即受注増大につながることを理解しているため技量レベルの維持向上にも積極的である。そしてこれらの業者に共通することは、限られた造船所を対象とした工事のみでなく、陸の工事もその営業範囲としていることである。
 造船所においても、船における工事は陸の工事とは異なる面はあるものの、陸の資格と共通するところがあるという認識が処々で聴かれた。電装関係者は陸の電気工事士の資格を持っていることは基本技能があるとみなせると評価している。
 造船所は一括外注業者に委託している職種については、陸の工事からの技能工の補充もあるため雇用面でも、技能伝承の面でも不安は抱いていないというのが実情である。一括外注の場合は個々人の技術、技量の管理は造船所から離れて、一括外注業者の所掌と考えており、造船所側からのアンケート回答には技能伝承に対する不安は出ていない。工事のマネージメントのみならず、技術・技能の向上、継承も一括外注業者である外部に依存している。
 a.およびb.の業者は、おおむね数十人以上の人員規模であり、若い新卒者を定期的に採用し、彼らに対する技能、技術の教育・訓練カリキュラムも有している。これは、その企業の専門とする事業範囲がはっきりしており、そのための必要技能作業要件と資格が明確に定義できているためであろう。
 しかしながら、b.のグループに属する一括外注の中には、部材製作の工場運営と造船所構内の取り付け工事は異質のものであるとして一括して受注はするが、構内工事は別業者に再下請けさせているケースもある。このようなケースにおいて構内協力工の雇用と技能の継承については、次項の構内小規模協力企業の場合に生ずる問題点を内蔵しているものと考えなければならない。
 
(2)構内小規模協力企業の雇用と技能伝承
 一方、造船所構内での工事を請け負う業者に対しては、造船所本工の技能伝承がままならない以上に、その技能の継承に不安を持っている実情が判明した。
 構内協力企業の立場としては、造船所から若い世代へ技能を継承させるよう要請され技量の向上、伝承が大事なものであるとは認識している。しかし技量向上が売り上げ向上には結びつかず、余裕も無いことから、新規採用、技量向上には必ずしも積極的でない協力企業が多い。また、技能を継承させるべき人員の採用には企業規模が小さいことから難がある。最近の産業界不況の状況から、一時期よりは従業員を採用できるようになったが、定着性と質の問題では必ずしも安心できないようである。
 採用対象としては一概に若い方がよいということでなく、職業体験を持っているUターン組を主として考えたいという意見は多い。これはUターン組の方が落ち着いて仕事に取り組むというばかりでなく、まったくの素人を一から教育するだけの財政的なゆとりが無く、即戦力となる作業員しか雇うことができないという経済的な面も強い。後継者育成費用は現在の工事請負金額では賄えないという訴えが多い。
 後継者の育て方としては従来の先輩について覚えるという方式が各構内協力企業の社長の共通した認識である。ところが機関仕上げなどのチーム仕事は別として、入社後直ちに一人前に稼いでもらわなければ採算が合わないので、一人作業を強いているため従来の先輩からの伝承形態が成り立たない。技能後継者を育てることに積極的な社長は自らが時間を見て、図面の読み方を教えたり、経験からの教訓を述べたりしているとのことであったが、面談した多くの協力企業主はとても教育訓練をするゆとりを持てない実情にある。
 「幸いにして、今の60代は元気なのであと5年くらいは働けるのではなかろうか」と現状維持が精一杯であまり先のことまでは考えられないとの発言もあった。一括外注業者に比べて構内小規模協力企業は職種ごとに造船所構内にほぼ固定しているため、技術的優位が協力企業間の競争力に寄与するわけでもなく、いかに発注者側の造船所と良好な関係を保ちつつ、企業を存続させるかということに関心の中心がある。
 企業の規模が小さいため、現在の工事量では、最小限の人員だけに縮小均衡して当座を凌ぐという体制が見受けられる。工事量が増えたときは、社長同士のネットワークで友好企業から“人借り”で凌ぐ、如何にそのときのための人的ネットワークを緊密に保持するかというのが、構内協力企業社長の関心事といえる。
 しかし、一方複数の造船所と取引し、ある程度の人員を擁している構内協力企業は、定期的に若い新卒者を採用している例もある。このような会社では、採用した新卒者を1日も早く戦力化し、定着率をあげるため、いろいろな施策を行っている。社長自身が、個々人の能力、適性を把握して、目標を与え、甘やかさず、叱咤激励しているところに共通点がある。
 総じて、複数の造船所や陸上工事をもその営業範囲としている大規模一括外注業者以外の協力企業での技能の伝承は先行き不安である。したがって構内小規模協力企業の技能レベル向上策は造船所側の本工の技能伝承対策とともに今後きわめて重要な課題であるといえる。
 
(1)船舶搭載機器の高度化と据付の専門化
 現状の購入品や一括外注業者への発注傾向を見ると、今後造船業の造船所構内作業自体は外部から運び込まれた部材、機器システム、ユニットのつなぎに特化されていくものと予測される。
 その全体的な流れの中で、船舶の自動化、電子制御化など技術的に高度な仕様になるとそれに関連する工事が専門の一括外注業者に発注されるケースがより多くなるであろう。機器を中心とするシステムにおいては、客先に品質保証のできる業者が工事を一括受注するなど外部企業が品質保証も含めて造船所の中で大きな役割を果たすようになる可能性が高い。
 作業中心の業者である塗装においても、品質上重要なタンク内の特殊塗装については特定の業者が力を持ちつつある。現在でも、ある造船所では特殊塗装については特定の業者の工場へ船を回航し、工事を依頼している例がある。
 居住区艤装に使われる内装の作業方法などは陸の合理化された工事手法が大きく採用されていることを考えれば、一括外注策はもはや常識といえる。
 上に上げたようなシステムや作業方法などでは、専門に特化した部分の技術、技能について造船所構内の従来の技術者・技能者では対応が難しくなりつつある。
 
(2)構内作業の内容変化と協力企業
 現在構内で鉄艤装品などの内作を行っている造船所も構内人員のアイドル対応のためだと答えていることから考えて、将来造船所の鉄艤装品やその他の部品製作自体は加工外注として、ますます構外に発注されることになるだろう。
 現在造船業がおかれている受注環境や作業の山谷、職種の変動の大きさに対応するために、構内については本工の比率を下げ順次構内協力工に切り替えて外部依存率を高めざると得ないとしている造船所が多い。
 すでに相当数の職種において本工の人員は担当技師や品質管理等の管理要員のみの数になっており、その後継者の採用と教育だけに造船所が腐心している状態から考えると、直接作業員を協力企業へ依存する傾向は今後とも進むであろう。
 ある修繕専業の造船所では顧客にアピールするために機関仕上げの職種を本工で固めることが営業上有利であるとしており、社員に舶用機関整備士資格の取得を奨励し援助している例がある。このように造船所としての強味となるところをはっきりと打ち出して集中的に技術・技能の向上に費用とエネルギを注ぎ込む方策をとっている造船所もあるが、多くの造船所では、技能の伝承は必要であるとは認めながらも、本工を増員する方向は取りがたく、さりとて協力企業に強く技能伝承を期待するのも難しいという状況にある。
 
 造船所としては、購入品、加工外注品の船内への搭載とつなぎこみ作業および一括外注されたシステム間のつなぎこみの作業等、船舶への一体化を行うことは最低限必要なことであるが、この作業は本工で行うか、さもなければ本工とともに作業する構内協力工か、または全面的に構内協力業者に依存することになる。この部分の技術、技能の向上と継承策は外部依存率の高低にかかわらず本工、協力工の区別無く造船所にとって必要不可欠である。
 
 一括外注業者など外部の業者の専門的技術・技能が高度であればそれと共生し、造船所は中核となる職種だけに集中して技能の向上を図り、全体をマネージメントすることに主体を置くことも一つの姿であろう。 現に一部の造船所では、構内の人員は100%協力企業という徹底した形態も存在する。







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