2.3 縦強度
さきに述べたように船にかかる力はきわめて複雑であって、力の種類もその大きさも、簡単には決めることは難しい。外力を正確に決めることができれば、正しい強度計算ができないから、船の真の強さすなわち絶対強度というものはわからない。しかし、絶対強度がわからなくても、ある一定の手順で計算を行なった結果、現に無事就航している基準船と同等もしくはそれ以上の強さがあることが証明できるならば、それでも実際上の目的は十分達し得るわけである。このように、船の比較強度を求めようというのが、縦強度計算の根本の考え方である。
したがって、比較すべき強度として何を選んでもよいわけであるが、船の総合的強度を推定する上で、現在では最大曲げ応力の比較計算を行なっている。
2.3.1 標準状態
船体強度のうち、縦強度は最も重要なもので、その計算は標準状態における船の縦曲げ強度を求めるものである。その標準状態は実際に生じ得る最悪の状態になるべく近いことが望ましいが、その限界が明らかでないこと、各々の場合にその状態をいろいろ変化させる面倒を避けて一定の標準状態を想定し、その代りに許容応力を各場合に応じて適当に加減している。
船が洋上で出会う波の大ききの標準として、つぎのようなものを考える。
波の形はトロコイドである。
波の長さはこの船の長さと同じである。
波の高さは波の長さの1/20である。
この波を、縦強度計算するときの標準波といって、実際に起こる波のなかでは船にとってかなりきびしいものであるから、この波に耐える強度を持っていればたいていの場合には心配ないが、まれにはこれよりはるかに高い波が起こることがあることを銘記しなければならない。(とくに小型船の場合に多い。)
ここでトロコイドというのは、第2.27図に示すように、直線の上をころがっていく円の半径上の一点が描く軌跡である。洋上で起こる波の形は、トロコイド形によく似ていると考えられる。
(1)標準ホギング状態
標準波の山が船体中央にある。
貨物は船倉に満載している。
消費重量は前後部1/4Lの間に満載している。
(2)標準サギング状態
標準波の谷が船体中央にある。
消費重量は中央部1/2Lの間に満載している。
ここで消費重量というのは、燃料・清水・食料・貯蔵品・水バラストなどの全部の重量のことで、ホギング・サギングをひどくするような積み方を基準にするのである。
また、貨物は船倉に満載するとちょうど満載喫水になるような、密度の均質な貨物を考える。
船の強度は、このような標準状態に対して計算してあるので、この基準をこえる力が加われば、船体にヒビが入ったり、折れたりする危険もあることを忘れてはならない。(もちろん安全率があるから、すぐにこのようになることはないが)
第2.27図
2.3.2 縦強度計算における諸曲線
縦強度計算を行なうに当たって、まず重量と浮力の分布状況を知らなければならない。そのうち船の長さ方向の重量の分布を示す曲線を重量曲線という。その一例を第2.28図(a)に示す。ホギングとサギングでは荷物の積み方が異なるので両状態の重量曲線を各々作製する。この曲線と基線とがかこむ面積は船の全重量を示し、またこの面積の重心位置は船の長さ方向の重心位置を与える。
船体に働く浮力の船の長さ方向の分布を示す曲線を浮力曲線という。この曲線の形はホギングのときと、サギングのときとでは大きな違いがあり、第2.28図(b)に示すものはホギングの場合の一例である。船全体としては重量と浮力の大きさは等しいから、重量曲線に囲まれる面積は、浮力曲線に囲まれる面積に等しい。
船の長さの方向の、それぞれの位置における重量と浮力との差を示す曲線を荷重曲線とい、縦強度計算の基礎曲線をなすものである。この曲線は、第2.28図(c)に示すように、重量曲線と浮力曲線の対応する位置における縦線の差を、重量が浮力より大きいところでは基線より上方に、その逆のところでは基線より下方にとり、その先端を結んで作図する。荷重曲線の基線より上方の面積と下方の面積とは相等しくなければならない。
荷重によって船体にせん断力が働くが、船の長さ方向のせん断力の分布を示す曲線をせん断力曲線という。ある断面に働くせん断力は、その点から左の荷重曲線の囲む面積に等しいから、左から右へ順々に面積を加えていけば、第2.28図(d)に示すようなせん断力曲線が得られる。船体は自由に水に浮かんでいるのであるから、せん断力曲線の両端の縦座標は0とならなければならない。また、せん断力曲線の基線上下の面積は各々相等しくなければならない。せん断力は、船の中央附近と両端において0となり、両端からおよそ1/4Lのところで最大となる。
船体に働く曲げモーメントの、船の長さ方向の分布を示す曲線を曲げモーメント曲線という。ある断面に働く曲げモーメントは、その点から左のせん断力曲線の囲む面積に等しいから、左から右へ順々に面積を求めていけば第2.28図(e)に示すような曲げモーメント曲線が得られる。船体は自由に水に浮かんでいるので、曲げモーメント曲線の両端の縦座標は0となるべきである。曲げモーメントは、船の両端で0となり、中央附近で最大となる。
(a)重量曲線
(b)浮力曲線
(c)荷重曲線
(d)せん断力曲線
(e)曲げモーメント曲線
第2.28図
2.3.3 最大曲げモーメントおよび最大せん断力
設計の初期などにおいて、最大曲げモーメントおよびせん断力のおよその値を知りたい場合が往々にして起こる。しかし、このときにはまだ船型も構造も確定していないから、上に述べたように縦強度計算用の諸曲線を作図して求めることができない。このような場合には以下に示すような略算式によるほかはない。略算式といっても、多数の過去の資料に基いて定めた経験式であるから、相当の信頼がおける。
(1)最大曲げモーメント
最大曲げモーメントは、標準ホギング状態および標準サギング状態ともに、船の中央に生じ、その値Mm(m・t)はおよそ次式で与えられる。
(12)
ここに、W=満載時の排水量(t)、L=船の長さ(m)、C=定数、であり、Cの値は船型や積載状態によって変わるが、ごく普通の場合にはおよそ表2.1の程度である。略算するには大体C=30とすればよい。
第2.1表
船の種類 |
状態 |
Cの値 |
高速客船 |
H |
20〜30 |
貨客船 |
H |
20〜35 |
大型貨物船 |
H |
35 |
中型貨物船 |
H |
32 |
小型貨物船 |
H |
31 |
海峡連絡船 |
H |
30 |
鉱石運搬船 |
HまたはS |
35 |
油タンカー |
S |
40 |
|
(備考、Hはホギング、Sはサギング)
(2)最大せん弾力
最大せん断力は、ホギングおよびサギング状態ともに、船の前後端より大体L/4のところに生じ、その値Fm(t)はおよそ次式で与えられる。
Fm=W/C' (13)
ここに、W=満載排水量(t)、C'=定数、7〜10である。これは、せん断力曲線を第2.29図のように点線で示した三角形とみなして、求めたものである。略算するには大体C'=8.5とすればよい。
2.3.4 船体縦曲げ応力の計算
船体の縦強度計算に最も必要となるのは、最大曲げ応力である。これは、船体を中空のはりと考えて、はりの公式(9)により計算する。すなわち
S=M/Z (11)
による。この式からわかるように、最大曲げ応力は曲げモーメントMが最大となる中央部附近で、断面係数Z=I/yが最も小さい断面で起こる。この断面を強度断面といい、中央部附近で艙口・機関室などの開口の最も広い断面をとる。またyは、中立軸から最も遠い甲板または船底までの距離をとる。
第2.29図
強度断面の位置が決まれば、その断面の曲げモーメントは曲げモーメント曲線図より得られるから、後は、断面係数Z=I/yさえ求めれば、最大応力が計算できる。
強度断面の断面二次モーメントIを計算するには、縦方向に十分長く、L/2位の間にわたって同一強度で通っていて、全体の構造の主要部分として他の部材としっかり結合している部材だけを計算すべきである。この部材を、縦強度部材または単に強度部材という。
強度部材としては、外板・鋼甲板・キール・中心線桁板・内底板・縁板・縦通隔壁・船側縦通材その他の縦通材が入るが、次の部材は一般にとらない。すなわち、方形キール・ビルジキール・サイドキールソン・側桁壁・倉口縁材・単なる間仕切りの縦方向隔壁・トランク・ケーシング・局部的な二重当て板など。縦通部材はなるべく縦強度部材となるように設計・構造することが船を軽く丈夫に作る点において大切であり、溶接構造の採用によっで、このことが容易になってきた。(強度断面のI、Zの計算については3.7で述べる。)
一般商船に対しては、「船体の強度を保持するための構造の基準等を定める公示」に断面係数の基準値が規定されている(中には甲板の断面積とその他の部材の寸法の形で規定しているものもある)。これは多くの船の実績に基いて、船の主要寸法などに応じて基準を示しているものである。したがって、一般商船では、先に述べるような縦強度計算を行なうことなく、断面係数を算定して縦強度の判定が行われている。しかし、この基準値は普通の船を対象としているものであるから、特殊の船型や特殊の積付け配置の船については、基準値を適当に修正するとか、縦強度計算を行なうなどの必要がある。
鋼船では、船の長さの中央における船体横断面の断面計数は、次の算式で算定した値以上であることが要求されている。
Z≧C1・L12・B(C'b十0.7)cm3 (15)
ここに、Z=断面係数(cm3)、C1はL1の値に応じて算定した係数でL1<90m未満の時C1=0.03L1+5、L1=L又は計画最大満載喫水線の全長の97%のうちいずれか小さい方の値、(m)、B=船の幅(m)、C'b=計画最大満載喫水線に対する型排水容積をL1Bdで除した値。ただし、0.6未満のときは、0.6とする。
2.3.5 許容応力
上のようにして計算された応力は、縦強度計算に種々の仮定を含んでいるため、必ずしも実際に船体に生ずる応力と一致するとはいえない。また、構造上生ずる応力集中、動的外力の影響、そのほかの計算にのらない種々の要因(例えば、船体の構造材料は一般に腐食あるいは摩耗するため、船体の断面係数は年ごとに減少する)。が考えられるので、安全を保証するためには、算定応力を材料の極限強さよりもはるかに低い許容応力以下に押さえる必要がある。
標準状態では、船の大小にかかわらず波の高さを船の長さLの1/20としているが、実際に起こる海洋波を考えると、これは小型船では波高が過小で、大型船では過大となるので、小型船では許容応力を小さく大型船では大きくなるように、許容応力をLの大小によって変えている。
長年の経験を参考にして、次に示すような許容応力の略算式がある。
(以下で、S=許容応力(kgf/mm2又はN/mm2)、L=船の長さ(m))
小型貨客船構造基準作成委員会の公式
S=2.04L1/3(60>L)
S=5+0.05L(90>L≧60)
ただし、上の値は曲げモーメントとしてはWL/25を採用し、船体断面の係数の計算には縦強度に寄与すると考えられるすべての部材(上部構造物を含む)を参入した場合のものである。
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