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2.2 船体に加わる力
 船体は縦横の部材が有機的に結合して複雑な一体の構造物となっており、また船に加わる力にはいろいろな種類があり、その性質も複雑であって、自然の猛威の中を安全に航海するためには、各部の強さをどのように決めたらよいかということになると、きわめて困難な問題である。
 この問題を解決するために、船に加わる力をつぎのように分類して、それぞれに対する強さを求めてから、それを総合する方法をとっている。
船体を上下にそらせようとする力
・・・縦方向の力
船体を横に押しつぶそうとする力
・・・横方向の力
船体の一部だけに働く力
・・・局部の力
 この中でも、船の縦方向の力に対抗する強さは縦強度といって最も重要で、船全体の強度の目安となるものである。
 このほか、横方向の力に対抗する強さを横強度、局部の力に対抗する強さを局部強度という。また、ねじりに対抗する強さをねじれ強度といい、上にあげた三つとともに別に取り扱うこともある。
 船体を陸上構築物と比較してみると、船体の方は局面をなしていて内部構造もさらに複雑である。また、陸上構造物は地面に固定・静止しているが、船体は種々雑多な貨物を積載して風波荒れ狂う海洋を航行しなければならない。したがって、船体に加わる荷重および外力を知ること、およびこれにより船体構造に生じる応力を求めることは、船の形と大きさ、荷物の種類と積み方、航路、季節、天候状態によって内的外的条件が大いに異なるため、その生じ得る最悪状態を予見することが非常に困難である。
 船に加わる力を種々の場合について考えてみよう。
(1)港内に停泊する船
 最も簡単な場合として、波のない港内に停泊する場合の力の関係を考えてみよう。
 第2.20図は、静水中で等喫水で浮かぶ船の状態である。このとき、船に働く重力は重心Gを通って下方に向かい、船をささえる浮力は浮心Bを通って上方に向かっていて、この二つの力は同一鉛直線上にあり、大きさは同じで方向が反対であるから、船は釣り合って静止している。
 
第2.20図
 
 しかし、それでは船の他の部分にはまったく力がかかっていないかというとそうではない。試みに、船体の横断面について考えてみると、甲板や船底に加わる重力の大きさはその部分の船体や貨物の重さによって変わり、また、水面下の外板に働く水圧力の合力、すなわち、浮力はその部分の水面から下の船の形が大きいほど大きいから横断面の位置によって浮力が勝つところもあれば、重力が勝つところもある。(第2.21図参照)
 
第2.21図
 
第2.22図
 
 したがって、第2.22図(a)のように、船体を輪切りにしていくつかのブロックに分け、おのおののブロックは上下には自由に動けるが前後左右には離れないようなしかけにしてやれば、それぞれのブロックは、それぞれの重力と浮力が等しくなるために浮いたり沈んだりして、図の(b)のようになるに違いない。しかるに、船は(a)図のように完全なる一体として残らなければならないから、そためには、断面相互の間に移動を制止するためにある力が働いていなければならない。このように、見た目には安らかに浮いているように見える第2.20図の場合でも、船体内部には引張・圧縮、せん断などの力が働いているのである。これらの力は船体を構成する各部材に加わって、それらの部材に複雑な応力を生じさせる。
(2)波浪中を航行する船
 静水中でも船体にはいろいろな力がかかっていることは前に述べたとおりであるが、波浪中ともなれば、さらに、その程度はひどくなり、船体の強度がこれに耐えなければ、損傷を生じたり、ひどい場合には真二つに折れることにもなりかねない。
(a)ホギング
 第2.22図は、船体の場所によって重力と浮力との大きさが違うことを示しているが、波があると浮力の分布が変わるから、二つの力の差はまた変わったものとなる。そのうち、甲板および船底に働く引張および圧縮が最も大きくなるのは、船がその長さと同じ長さの波長を持つ波に乗った場合で、波の山が船体中央にくると第2.23図(a)のように、船の前後端部では重力が勝ち、船体中央では浮力が勝つから、船はちょうど船体中央をまくら木で支えられたときのように上方にそって図の(b)のようになる。
 
第2.23図
 
 このように船が上方にそる状態をホギングといって、ひどくなれば甲板が引きちぎれ、船底にシワがよって、船体が折れることになる。
(b)サギング
 これと反対に波の谷が船体中央にくると、第2.24図(a)のように、船の前後端部で浮力が勝って上方に押し上げられるから、船はちょうど両端をまくら木で支えられたときのように下方にそって図の(b)のようになる。
 このように船が下方にそる状態をサギングといって、ひどくなれば甲板にシワがより、船底が引きちぎれて折れることになる。
 このようなホギング、サギングによる損傷を起こさないためには、キール・船底外板・船側外板・中心線桁板・内底板・二重底縁板・上甲板・甲板下縦桁・船側縦通材・縦隔壁など、船の長さ方向に縦通する縦強度材の強さを十分にするばかりでなく、それらの部材を構成する鋼板と鋼板、あるいは形鋼と形鋼との継目をとくに十分強固に結合しなければならない。
 
第2.24図
 
(c)ラッキング
 次に船が横方向から波を受けたり、船が傾いたりすると、第2.25図のように右舷と左舷とで喫水が違い、また片方の舷が波にたたかれるので、ちょうどマッチ箱を押しっぶすような変形が生じる。このような状態をラッキング(ゆがみ)という。
 
第2.25図
 
 このようなことにならないためには、フレーム・甲板ビーム・フロアなど、船の横方向に並べられた横強度材の強さを十分にするばかりでなく、その四隅は大きなブラケットでしっかりと結合しなければならない。
(d)ねじり
 斜めの方向から波を受けるときは、船の場所によって両舷の水面の高さが違うから、もし第2.26図のように、船の前部と後部とで水面の高さの違いが反対になるような場所には、船体はちょうど手ぬぐいをしぼるようにねじられる。
 
第2.26図
 
 このような力のかかり方をねじりといって、薄い甲板などに図のような斜めのシワができることがある。また、ねじりは以上の他にも、船に荷物を左右に不均一に積み込んだとき、船が横波を受けて横傾斜した場合には静水中においても起こる。
(e)波の衝撃
 船が大洋を航海しているとき、とくに荒天の際には船が激しく横揺れ、縦揺れして、船首部あるいは船尾部が波のためにひどい衝撃を受ける。これをパンチングという。
 またそのようなときには、波が船にぶつかるばかりでなく、縦揺れによって船首部が下がるとき水面を強くたたくことになるので、そのために、船首からおよそ船の長さの1/8〜1/6くらいの後方の船底の傾斜が平らになりはじめる部分が激しい衝撃を受け、その部分の外板が内側にへこんで、やせた馬の胸のようにフロアだけがとび出したり、フロアそのものも曲ったりすることがある。このような船首船底部に対する波の衝撃をとくにスラミングといい、船尾機関船や船尾トリムの大きい船が波浪中を高速で突っ走る場合に、スラミングによる船底凹損が起こりやすい。
 これらの衝撃による損傷が起こると、外板はホギング、サギングによって生じる圧縮力その他の力に耐える強さを弱められるばかりでなく、船体抵抗を増したり、リベットがゆるんだり、溶接部にヒビがはいったりして水密を破るようなことにもなる、このような損傷をおこさないために、船首尾部にパンチング構造(防撓構造)を設け、また船首船底部をも補強する。







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