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5.コスト、船体重量を左右するフレームスペースの選択
 船の基本設計においても社会経済環境に適合した考察と選択が必要である。生産コストは、大別すれば変動費(材料費等)と固定費(工費等)に区分される。前者は外に出て行く金、後者は社内向けの金と考えて良い。そして、基本的には好況期で仕事量が多く、生産の回転率を上げる必要がある時には工数を重視し、逆に不況期で仕事量が不足する時には前者を重視するのが通常の経営上の通念である。船殻の設計の場合、船殻構造部材のスペースを小さくすれば各部材寸法は小さくなり、一般には重量は軽くなるが部材数が増えて工数増となり、逆にスペースを大きくすれば部材数も減り工数も減るが重量は増える傾向にある。従ってその何れかの処にオプティマムポイントがある筈であるが、これを見出すためには多大の労力を要する。しかもオプティマムポイントは材料価格、労務費、生産能率、性能の評価基準等の計算メジャーの変動に伴って変化するから、画一的にポイントを求めるのは困難である。然しながら、何れにしても平素から常に以上のような認識を持ち、漫然とした設計を行わないように心掛けることが肝要である。
 
 以下に大まかな判断参考用として、フレームスペースを変化させた場合のコスト変動比較を行った計算3例を示す。
 
5.1 23GT旅客船の計算例
(拡大画面:48KB)
 
LOA×LR×B×D=16.50×15.50×4.30×1.90 
主機 440 PS×2
最大速力 25.5kt
旅客定員 47P
JG、平水、軽構造船暫定基準
縦構造方式
 
 比較計算条件及び計算結果は次の通り。
 
  case 1(ベース) case 2
trans spasce(mm) 500 1,250
longi 〃(mm) 250 400
計算結果 船殻重量増減 ベース +800kg
材料費〃 +600千円
工数〃 −1,200hr
工費〃 −4,200千円
差引〃 −3,600千円
速力低下 −0.3kt
 
 即ち、速力低下0.3ktとコスト減3,600千円のパリティ評価、或いは更に両者の中間を検討することとなる。
 
5.2 19GT定置網漁船の計算例
(拡大画面:66KB)
 
LOA×LR×LWL×B×D=25.15×21.60×22.70×4.60×1.30 
アルミニウム合金製漁船構造基準(案)、縦構造方式
 
  case 1
縦構造方式
case 2
縦構造方式
case 3
横構造方式
trans spasce(mm) 600 600 500
longi 〃(mm) 300 400 500
計算結果 船殻重量増減 ベース +640kg +1,120kg
材料費〃 +450千円 +780千円
溶接長〃 −8% −9%
工費〃 −960干円 −1,080千円
差引〃 −510千円 −300千円
船殻重量増減   ベース +480kg
材料費〃   +340千円
溶接長〃   −1.5%
工費〃   −180千円
差引〃   +160千円
(注)
横構造方式では更にロンジ間に座屈防止用のカーリングを追加しなければならない。
 
5.3 4.9GT多目的漁船の計算例
(拡大画面:38KB)
 
L0A×LR×B×D=16.84×12.75×2.70×0.76
主機 550PS×1、強速力 28KT
沿海、軽構造船暫定基準
縦構造方式
 
  case 1 case 2
trans spasce(mm) 600,620,700,840,900 500
longi 〃(mm) 220〜245 220〜245
計算結果 船殼重量増減 ベース −8kg
材料費〃 −6千円
溶接長〃 +240m
工数〃 +55hr
工費〃 260千円
差引〃 +254千円
 
 冒頭で述べた様に、工費と材料費(固定費と変動費→損益分岐点)の考え方、即ち工費と材料費の何れを重視するかは建造環境によって変化する。一般には好況繁忙期には工数工費低減を重視し、生産回転率を上げて生産量・売上高を伸ばし、反対に不況アイドル期には外部流失費即ち変動費≒材料費の圧縮を重視する。
 速力及び載荷重量に対する制約が厳しくない場合は、コストミニマム第一に設計する必要がある。構造設計は既成概念に捉われることなく、常に建造環境を考慮しつつ行われなければならない。







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