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IV 工作・建造
1. 工作の要点
 工作並びに建造に関しては、下記資料を参照することが必要である。
a)アルミニウム合金製船殻工作標準(LWS W 8101−1997)−(社)軽金属溶接構造協会発行
b)      〃      精度標準(LWS Q 8101:2000)−(社)軽金属溶接構造協会発行
c)アルミニウム合金船建造技術指導書(工作編)−(財)日本小型船舶工業会
 
1.1 材料取扱い上の留意事項
a)アルミニウム合金材料は、鋼材に較ベヤング率及び硬度が小さいため撓み易く、表面が傷つき易いから、取扱い、運搬には十分注意すること。特に永久歪みを生じない様注意すること。磁性がないためマグチャックは使用できない。
b)化学成分、質別の異なる材料が同時使用されることが多いので、当初より材料の種類を明確に区分し、加工中でも混同しないよう識別記号又はマークをプリントしておくこと。
c)表面が化学変化を受け易いから、埃、煙、腐食性ガス、雨水、海水等を直接受けない湿気の少ない屋内の場所で、木製又はゴム張り架台に保管すること。
結露したり濡れたりすると裏面に沁みが付き腐食する。合紙のある場合は特に沁みが発生し易い。
d)線膨張係数が大きいため、溶接歪みが出易い。
e)固有(自然)電位が低いため異種金属との接触腐食を生じ易い。
f)ガス切断は出来ない。溶接前には溶接開先部の酸化被膜を除去する必要がある。
g)鋼材用に較べ溶接トーチが大きいため、狭隘部での溶接が不能或いは困難となり易い。設計並びに工事計画段階で十分留意すること。
h)加工硬化材及び熱処理剤は、溶接により耐力が低下することに留意すること。
i)塗料は必ずアルミニウム合金用塗料を使用すること。
j)ポンチによるマーキンは極力避けること。
k)鉄粉の付着により腐食を起こすので、鉄工事区画とは分離すること。
l)スプリングバックが鋼材より大きい。
 
1.2 冷間曲げ加工
1.2.1 プレス、ローラー、ベンダー等による曲げ加工
 スプリングバックが大きいので、曲げが可能な最大曲げ半径は表−1の通りである。
曲げ半径がこの数値を超えるものはハンマ打ちするのが良い。
 
1.2〜1.7の表LWS W 8101による
 
表−1 冷間による曲げの限界
t: 板厚(mm)
材質 曲げ半径
A5052P−0 440t
A5052P−H34 160t
A5083P−0 270t
A5083P−H32 175t
 
1.2.2 冷間 90°折り曲げ加工
 水圧プレスによる折り曲げ加工の場合、押し型・受け型の幅は鋼材の場合よりフランジ幅の広いものを使用すること。又、受け型の肩の半径は鋼材の場合よりやや大きくすること。
 冷間で90°折り曲げる時の曲げ半径は表−2を標準とする。
 
表−2 90°折り曲げ半径の標準
t:板厚(mm)
3<t<12mmに適用
材質 曲げ半径
A5052P−0 1.0t
A5052P−H34 2.5t
A5083P−0 2.0t
A5083P−H32 4.0t(t<6)
  5.0t(T≧6)
 
1.3 熱間加工
 熱間加工における加工限界温度は表−3を標準とする。但し極力低温で実施することが望ましい。温度は電気式表面温度計、温度測定用チョーク等が使用出来る。チョークは使用後完全に拭き取ること。
 
表−3 加熱限界温度
(℃)
材質 質別記号 加熱限界温度
加熱急冷 加熱加工
A5052 0 400以下 400以下
A5083 H12,H22,H32 300〃 250〃
A5086 H14,H24,H34 300〃 250〃
  H112 350〃 350〃
A6061 T4,T5,T6 250以下 250以下
A6NOl
 
1.4 打抜きプレス及びドリルの活用
 軽目穴、スロット、スカラップ等加工数の多いものは打抜きにより切断すると能率的である。打抜きダイスのクリアランスは表−4を標準とする。
 
表−4 打抜きダイスのクリアランス
材質 片側クリアランス
A5052P−0 0.065t
A5052P−H34 0.070t
A5083P−0 0.070t
A5083P−H32 0.075t
t:板厚(mm)
 
1.5 溶接による収縮量
 収縮余裕は各フレームスペース間で取る方法と、ブロックバット部で取る方法がある。
 
表1−5 溶接による収縮量
(mm)
収縮の方向 突合せ溶接 連続隅肉溶接
縦収縮(溶接線方向) 0.5〜1.0/1,000 0.5〜1.0/1,000
横収縮(溶接線に直角方向) 1.5〜3.0/溶接線1本当り 0.5〜1.5/溶接線1本当り
(備考)
(1)
板厚、開先形状、ルート間隔の大きさ、溶接条件等により変化する。
 
(2)
断続隅肉溶接の場合は連続隅肉溶接の場合の約1/2程度とみなして良い。
 
1.6 良好とされる切断機の切断条件
 アルミニウム合金用切断機は、切粉が工具から逃げ易いものとし、鋼材の機械加工よりもすくい角を大きくする。各切断機で良好とされる切断条件を表1−6に示す。
 
表1−6 切断用工具の要目
品名 板厚(mm) 切断速度(mm/sec) 歯数(25mm当り)
ソーイングマシン 2 23.0 2.0前後
3 19.0
4 15.0
バンドソー 4 50.0 10以上
5 40.0 8〜6
ジグソー(エアレスト) 2 20.0 歯の粗い方が良い
4 5.0
ジグソー 4 4.5
ジグソー(ポータケーブル) 2 33.0
4 6.5
 
1.7 仮付け溶接のピッチと寸法の例(表1−7)
 
表1−7 仮付け溶接のピッチと寸法の例(ミグ溶接)
板厚(mm) 仮付けビードの長さ(mm) ピッチ(mm) 順序
<4 約20 100〜200 飛石法又は振分法
4〜8 20〜40
8< 20〜40
注:本例は拘束のない平板の一例
 
 打抜きの場合のプレスの所要容量算定等については下記を参考とすること。
 
1)対象
 
1)スカロップ
2)スカロップに代わる水抜き穴
3)空気抜き穴
4)ソロット及びスリット
5)その他
 
 
2)プレスの所要容量の算定
 
●円形打抜きの場合
 
P=2πR・t・σs/1,000
P:所要打抜き力(ton)
R:打抜き半径(mm)
t:板厚(mm)
σs:材料の断変形抵抗(kgf/mm2)=24kgf/mm2
π:円周率
 
(注)1/4円の場合は上記の1/4
 
●一般形状の場合
 
P=S・t・σs/1,000
 
S:打抜き線合計長さ(mm)
その他は上記に同じ
 
●計算例
 
1)円形の場合
t=6mm,R=7.5mmとすれば
P=2π・7.5・6・24/1,000=6.8(ton)
 
2)スロットの場合
t=6mm,S=278mmとすれば
p=278・6・24/1,000=40.0(ton)
(拡大画面:38KB)
 
3)留意事項
 
1)スカロップのRは回し溶接のため35R以上が必要。小型船のロンジ等は高さが低くスカロップ設置が困難。鋸でのスカロップ切り、回し溶接も容易ではない。打抜きの方が勝る。
2)打抜き主用の場合には、事前に十分なマテハン計画を樹てること。
3)数造船所で異種の打抜き型を保有し、必要に応じて融通し合えば効果的。







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