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3. 型
 マーキン用の型は、一般に二次元[面]での原寸形状を与えるもので、判りやすく複雑な表現に適する。ただし大きな型になると精度上や取扱い上での問題を生じる。
 曲型は使用上空間で撓まないシッカリしたものにする必要がある。
 型の作成は安全な現図場屋内であるが、型の使用はクレーンの走る危険な工場の内外であり、作成の手間より使用の効率を優先する。
 しかも何の目的で、どの様に使うか、考えるのは作成者であり、使用者は型の指示通りに倣えば、自ずからムダのない施工が結果するようにする。
 型の作成方法は、その適用・使用度数により異なる。一回のマーキンで使い捨てならば、作成の手間をできるだけ省くようにし、複数回の使用なら作成に手間をかけても、モトが取れるようにするのである。
 
3.1 木型、紙型
 最も一般的な、つどの消耗品としての型:Templateである。
 作成場所は、型の大きさ以上の広さが必要で、作成は床の上での作業となる。定規作成に比べ、かなりキツイ姿勢である。刃物を含む器具も使用するので、安全にも十分な配慮が要る。
 
3.1.1 木型の作法
 木型の作成に当たっては、まず用材の選定がある。日本では杉板で、枝節など残っていてもよいが、納入後にしばらく自然に乾燥させてから使用する。型置き場も風通しがよく、水濡のないところにする。現在、木型の多いのは曲型であるが、撓鉄職場付近は水蒸気が立ち込めるので、注意を要する。
 次は狂いのこない釘の打ち方である。
 釘の長さは型板厚の3〜4倍がよい。標準型のように長期に使うものは、真鍮釘にするが、普通は頭の大きい鉄釘とする。
 
 型打ちは:−
1)型板を現図床に固定する。
 要領を[図3.1.1 型の釘打ち]に示す。トン・カチの2拍子、トンと軽く打って釘を型板に垂直に立て、カチの一打で釘の頭が残るように叩き込む。頭を型板面に揃うように打たないがよい。揃うまで打てば、ほとんどが軽く板にめり込む。僅かでもめり込めば、裏打ちのとき、めり込み分だけ緩むからである。
 
図3.1.1 型の釘打ち
 
 釘は一か所に複数本、同じ「木目」(木質繊維の筋)に入らないように配置する。
 型板は2枚重ねが原則。鎧重ね(斜め張:クリンカー)や3枚は不可。
2)固定した型板に現図を拾う。
 「拾う」とは型や定規に墨付けする(差金で垂直に線や点を写し取る)ことを言う。
3)木型を現図より外し、反転して裏打ちする。
 要領を[図3.1.2 型の裏打ち]に示す。
 釘の位置に、鉄板の金床(LH切抜きクズなどのスクラップを利用)を敷き、ここでもトン・カチの2拍子、トンで軽く折り曲げ方向に叩き、カチの一撃で木目に直角に押さえ込む。このとき1)で残していた釘の頭が、板面にピッタリ沈み込んで、型板を裏表から締め付けるのである。同じ重なり位置に複数の釘を打つが、裏打ちでの釘の曲げ方向は、互い違いにして、少しでも作成途中の型の狂いを押さえるようにする。
 
図3.1.2 型の釘裏打ち
 
図3.1.3 型用クレンチ釘
 
クリンカー張り
 
図3.1.4 クリンカー張りとクレンチ釘
 
 余談であるが、この1)と3)の釘打ち裏打ちテクニックが、自ずと実現する釘があった。呉NBC造船部に米国から送られた[図3.1.3 型用クレンチ釘]である。
 この釘だと尖端断面が矩形のため、どのように打ち込んでも、ひとりでに向きを変えて木目沿いに入り、クサビ状の先細なので、打ち込む間は常に抵抗が増す。したがって一様な叩き方では、釘頭を残して止まり、また木目に沿った結果として、裏打ちは、常に木目を押さえる方向に折れ曲がる。つまり教育抜きの素人でも誰でも同じ出来栄えになるのである。当時は、型釘にまで込められた米国流の合理性に瞠目したものだったが、今になって思えば、この釘は洋式木船の伝統の応用[図3.1.4 クリンカー張りとクレンチ釘]だったようである。
 もっとも米国の木型材料は1/4インチ=6ミリ厚の米松板であり、せっかくのこの型釘は、日本の8ミリ厚杉板には使えなかった。
 
 木型の作成法としては「当り付け」と「沿い書き」がある。
その違いを[図3.1.5 木型によるマーキン]に示す。
●「沿い書き」とは、型縁に沿って描けば、形状が得られる現図情報の与え方で、図例にみるように、型は曲線に合せて削られている。
 マーキンされた線は、墨差の幅だけ型の外になる。このことが、かつて(ガス道)切巾を無視していた根拠である。
●「当り付け」は、型板の上でだけ断続して形状の点列が与えられる方式である。この図例は、型に「拾われた」点位置を「当り付け」して、あとバッテンか「糸投げ」で所定の曲線に再現する様子を示した。曲線に型板を削らないから木型作成は簡単だが、それだけにマーキンは手間がかかる。
 
図3.1.5 木型によるマーキン
 
 ここで「糸投げ」とは、張糸で曲線を「打つ」ことをいう。直線は、2点間に糸を張り、線の真上に垂直に糸を持ち上げて放てば、正確に打てるが、この「糸投げ」は斜めに糸を持ち上げて、中間のもう1点めがけて「投げ」放つのである。この技に熟練すれば、確かに3点を通る曲線はできるが、これが所定の曲線とはいえないのも、また確かである。これは3点をバッテンで押さえても同じことで、よくよく注意しておきたい。与えられるのが3点なら、いずれにしても曲線表現の近似度は低く、単に3点の位置だけが曲線上にあるという意味でしかない。
 
 マーキン能率を上げるため「沿い書き」式にする標準型やミシン鋸切断型には、型板の代わりにベニア板やボード:圧搾繊維板を使うとよい。精度の狂わない耐水材もあり、板厚が薄いので、自動ホッチキスで効率的に型を縫い合わすことができる。
 
3.1.2 紙型の作法
 普通に使うマーキン用型には紙型、それも裏の透けるフイルム型が、もっとも便利である。この型材でも精度上の確認が、選定にあたって重要で、ロールから巻き出した直後と時間をおいた後の寸法変化は、キッチリ調べておきたい。変化が安定するまで一定時間かかるようであれば、その時間以上風露してから型に使うようにする。
 
 紙型の作成法にも木型と同じく「当り付け」と「沿い書き」があり、「当り付け」は、現図で「穴抜き」か、マーキンで「ポンチ打ち」か・・・に分かれる。
 その要領を[図3.1.6 紙型によるマーキン]に示す。表現内容は[図3.1.5 木型によるマーキン]と同じものである。
●「沿い書き」は、紙型をマーキン形状に合せて鋏できっておく。木型のように鋸引きしたり削ったりしなくてよいから、作業は楽で簡単である。マーキンでは、型縁に沿って墨差を走らせるのだから、紙型厚があまり薄いと描きにくい。
●「ポンチ打ち」の方は、型内容を描いただけでマーキンに渡すやり方である。マーキンで「沿い書き」の鋏切りをしてください・・・ではなく、尖頭ポンチで必要点の「当り付け」をしてください・・・なのである。一度使った型には多くのポンチ穴跡が開く。
●「穴抜き」は、初めから「当り付け」マーキンするよう、所要の点に開孔を設けておくやり方である。現図からの型描きは「ポンチ打ち」と同じだが、穴の径が抜かれる分だけ線は延長し、能書は避けておく。穴抜きは、型完成後に開孔位置に金床(木型の釘裏打ち用を利用)を敷き、穴明けポンチでパンチするのである。
 
図3.1.6 紙型によるマーキン
 
3.1.3 合せ型、一部型、巻付型
 通常・型は部材と1対1に作られる。兼用型では複数部材を一つの型に収めるが、それらの型が、完成木型として一体だと大きすぎたり長すぎたり取扱いや保管に不便があるときや、紙型材料の幅の限度をこえるときなどは、適当な大きさに分割している。
 
 [図3.1.7 型合せ]の例に示すように、型合(基)線で組合せて使う複数の型にするときは、それぞれを「合せ型」とよぶ。
 [図2.3.17 連直線]の例にみたように、定規マーキンの補助として、特定の部分に使うときは「一部型」と称する。
 
 また一部型の一種で、パイプや半丸鋼などの既存曲面上のマーキンに用いる紙型を、そのあてがい方から「巻付型」と呼称して、区別している。
 事例を[図3.1.8 パイプピラーの一品図と巻付型]に示す。この型は最先端位置で一品図寸法で合せればよいから、型合せマークは冗長である。
 
図3.1.7 型合せ
 
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図3.1.8 パイプピラーの一品図と巻付型







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