2.3.4 基準線と指標
型定規に用いられる基準線には、その目的に応じて各種・各レベルがある。
共通なのは、なんらかの基準線である判別として、その線上に重ねた×印、より重要なものには××印でマークし、必要に応じて記号を付記している点くらいである。
そのうち、もつとも基本となるものは、船体基準線である。
●船底基準線:ベースライン=0WL(0メートル水平線)、 が記号、
●船体中心線:センターライン=0BL(0メートル垂直線)、 が記号、
を押えて、メートル単位の数値を冠した、例えば、1.5WL、4BLを記号とする水平線・垂直線が、必要に応じて設定されることは、その乱用事情にもふれて冒頭に説明してある。
完成船体での絶対位置を示しているので、なにかあって、いざ・・・というときに参照できる便利さ(保険機能ともいえる)があり、それだけに型定規に使うときの必然性が、不明確なことが多い。
これらのWLとBLは、船体深さ幅の方向の基準線で、船体長さ方向の基準線は(横)肋骨線を利用している。だが、構造線なので、あえて基準線とはいわない。
記号は、フレームラインのFで、その後にフレーム番号を付け、F96のように指示する。特に部材長さの中間位置のフレーム線を、中央フレームと称し、ブロック大組立の基準とする場合には、特定の意味を込めて、基準フレームとか、親フレームとか・・・呼ぶことがある。
ついでだが、ロンジフレームも同要領の、L+番号(付番については、『JIS-F0201-1983基本船こく構造図の自動製図通則』に規定。)で指定している。こちらは船体基準線には利用できない。
船体基準線以外は、それぞれ目的に応じて、部分的に使用されるものである。船体基準線が既に使われており、その目的にも兼用できるなら当然付加されることはない。
1)マーキン基線
定規を用いてマーキンを行うときに、最初に描き(これを「基線を立てる」という)、以降のマーキン作業の準拠する基準となる線を総称する。
組立工程での板継ぎ後の仕上げマーキンは、マーキン対象材が大きく、精度を要するので、基線を立てた定規マーキンが主体となる。
加工工程の部材マーキンでは、やはり部材が比較的大きく、型作成では精度伝達に懸念がある場合は、マーキン手順が面倒でも基線を立てての定規マーキンとしている。
詳細は事例に則して後述とする。
2)型直線、連直線、見透線
部材形状の確認のための参照・チェック・検査に用いられる直線類で、現図工程の型定規作成段階で決めるものである。
「型直線」とは、[図2.3.16 型直線]に示すように、型や部材が比較的細長く、その全長に渡る直線、または直線辺がない場合に限って、
図2.3.16 型直線
●木型など組立後の運搬や保管による型自身の狂い
●フイルム型などペラペラした形状をマーキンのため素材上に置いたときの位置の狂い
●部材切断後の熱歪み、または部材組立後の溶接歪みを検出し、是正するために設けるものである。
他の目的でも、なんらかの直線があれば、それが利用できるので、別途設けるにおよばない。
「連直」線は、複数のモノを連絡する合マークを兼ねた共通直線をいう。その目的から連絡線と呼ばれることもある。[図2.3.17 連直線]に、その例を示す。
図2.3.17 連直線
●マーキン用
部材精度上から定規マーキンにするが、部材の一部に型にした方がマーキンしやすい場面があり、その部分のみ型にすることがある。その、型のことを「一部型」と称する。その場合、定規部分にある直線を、一部型にも描いておけば、その線を重ねることで、定規と型の形状が接続できる。図例では、部材の下辺に直線があり、その線を部材端まで伸ばして、連直線とするのである。この一部型のマーキン位置押えは、型定規のどちらにもあるR止まり位置より、黒丸●で示す部材端とするのがよい。精度上、やはり定規で与える形状位置の方が正確で、型合わせ誤差も入らないからである。
なお図に一点鎖線で示したように、部材上辺が直線形状であれば、この辺が連直線の役割を兼用できるから、一部型内に下辺延長の連直線は要らない。
●板合わせ用
板継する部材、図例では1A+1B合わせに、やはりマーキン用と同じ要領の連直線を1B側に描いておいて、1Aの下辺直線の延長に位置させる。一点鎖線形状だったら、連直線不要の事情も同じである。
この図例形状には当てはまらないが、型マーキンとするとき、型を二つに分けて作成することがある。例えば、木型にして一体型では取り扱いに大きすぎる、一部の型だけ個別に作れば主体の型は兼用できる・・・などの場合である。このときは分割型を、この板合わせ用と類似要領の連直線にして型合わせとしている。
3)艤装・塗装の参照用、シップライト搭載位置決め用の基線
他工程からの要請により船殼ブロックにマーキンしておく基準線類で、ほとんど船体基準線の一部が援用されるが、ブロック反転後のマーキン裏回しであることが多い。裏マーキンなら、その線に「ウラ」と能書を入れておく。曲り外板ブロックの外板面裏回しならば、四周シーム・バットを押えた専用マーキン定規作成の必要がある。
4)船体の方向表現と表示原則
船体基準線に併せて、基本となる基準に船の東西南北・天地に相当する方向がある。これを、便宜上で船体「指標」と総称しよう。「この型には指標が多すぎる」「定規に指標の記入が抜けている」などと使う用語としてである。指標の、それぞれの方向の呼び方や記号には、地域や造船所にての決まりがあり、[図2.3.18 船の指標]に、その例を示す。
羅列して見ると、
長さ方向:−
●船首>首>表>前:FW(フォアワード)
●船尾>艫>尾(とも)>友>後:AW(アフトワード)
左右方向:−
●左舷>左:P(ポートサイド)
●右舷>右:S(スターボードサイド)
幅方向:−
●中心側>中>内:IN(インボードサイド)
図2.3.18 船の指標
●舷側>玄>外:OT(アウトボードサイド)
深さ方向:−
●上方>上:UP(アッパーサイド、アップワード)
●下方>下:DN(ダウンサイド、ダウンワード)
のように様々である。このように、書きやすさ、判りやすさ・・・など考え合わせて、これらのどれを使ってもよいのであるが、マーキン面の呼称として、上下、表裏、内外が使われるので、その区分には留意する必要がある。
また、左右方向は、幅方向の中心から離れる向きに符号が変わるだけで、中心線にまたがる場合にのみ使われている。
次に、この指標の表示であるが、必要最少限としたい。事例で説明しよう。
[写真2.3.1 指標不要]は、両端スニップのFB.である。両端部は対象で、取付辺は自明。どちら向きでも同じだから、指標は要らない。
[写真2.3.2 指標一つ]の形鋼部材は、「上端」がフランジ・スニップでウェブは開先継手。その「上」の指標一つだけあればいい。一般に、取付辺が逆フランジ側とに決まっているからである。
[写真2.3.3 指標二つ]では、部材は取付辺が自明でないので、二つの指標が表示されている。
この部材に記された指標は、同じ場所から見て取れることが条件である。大型の部材で、記入文字が小さければ、両端に指示しておくべきである。指標を読むために、近寄ったり、探したり・・・しなければならないのは、まずい。
写真2.3.1 指標不要
写真2.3.2 指標一つ
写真2.3.3 指標二つ
5)マーキンでのポンチ打ち指示
基準線やその他の位置で、後消えては困る場合、例えば仕掛品の間に錆が出たり、マーキン・ペンが薄れたりする、ブロック塗装でマーキン線が隠れる・・・などでは、必要なとき再現できるために、ポンチを打って穴傷が残るようにする。一般に上記3)に挙げた船台各工程で使用する線や点が、この対象となる。
記号は[図2.3.19 ポンチ打ち]に示すよう黒丸●を付加している。
図2.3.19 ポンチ打ち
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