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2.3 取付/組立
 まず、各組立工程での位置決め組み付け作業が、部材のマーキン情報だけで済むか、図面参照と併用か。また精度押さえの原則を決めておく。
 『2.1 切断』の項で触れたように、倣い開先設定と関連する隅肉溶接の脚長、現品寸法から割り出される断続や片側溶接/タック割の指示、設計図には記入のない埋込みスキャロップ・隅切、これに関連する水圧エアテスト・ピースの設定・・・も、型定規による指示の一部であるからには方針は明確でなければならない。
 さらには、次工程準備に取付けて用済み後には取り外す吊環・整理用金物・足場ピースの取付け位置指示・・・などはどうするのか、も決めておくといい。
 
 これらの取付/組立情報の取扱いは、それぞれの造船所の「そのとき、そのところ」での生産品質と効率を向上するように総合検討して決められる。
 本書では一般的な説明に止めておく。
1)小組立工程では図面は見ないのを原則とする。
 この工程での組み付けパターンは、ほぼ次の2種類に決まっていて、部材の形態で判断できる。必要な情報は全て部材現物上に示しておく。
●ウェブ(大骨)+Fc.PL+小骨(ウェブを補強するFB.や、BKT.類)
●条材+端部BKT.
いずれも本体(主になる部材:一次部材ともいう)があり、その上に付加材(二次部材ともいう)の取付情報を、漏れなくマーキンするのである。
 このパターン以外は、例えば、機械台・シーチェストなどの「箱組み」もの、上下端にBKT.を組み付けるビルトアップHピラーなど部材でのマーキン指示が面倒なもの・・・のみは、例外として図面を見る約束にしておく。
2)大組立工程以降では、図面で読める情報は、図面に任せる。
●全ての情報を現物上にマーキンするには手間が掛かり、さらに表現に工夫しても判りにくい場合がでる。既にある図面を読む方が、情報伝達において冗長でない。
●現物情報は事前検討には使えない。注文生産の造船では、大組立以降の作業パターンは、変わることを前提とし、図面を読む習慣を持ち続ける方が良い・・・と考える。
 
2.3.1 取付位置と板/型鋼の逃げ
 造船の船殻構造では、板・骨構成の位置寸法を線で表し、それぞれの板厚はその線のどちら側かにあるとするのが、一般である。この約束は、工業ではガラス窓製作に見出だせるくらいの独特のものである。
 表示記号は、すでに[図1.3.3 中心線と一般の取付位置記入]に示した通りである。
 この片面で構造を示す線をモールドラインと呼ぶ。同じ板面の構造物に板厚差があれば、当然に一本の線であるモールドライン側がフラッシュ面となり、板逃側にのみ段差が生じる。
 もし構造上の都合で、どうしても反モールドライン側を一線(フラッシュ)にしたいときは、反モールドライン側に(段差ナシ)一線を設けて、これを仮モールド(ライン)と称している。仮モールドは、構造物の位置寸法を表すのではなく、あくまで板逃とフラッシュ面の「つじつま」を合わせるための便法にすぎない。したがって、この取扱いは型定規作成レベルであり、線図や構造現図で描かれるものではない。それだけに型定規作成において重要なポイントとなる。具体例は後述する。
 
 板逃をモールドラインのどちらにするか・・・は、骨付き面:スティフナーサイドに関係する。骨付き面とは、構造物を骨組みと板に分けたときの骨の比較的多く取り付く板の面を言い、フラッシュ面を選ぶ方が、骨の板付き縁に段差切欠を設けないで済む。実際に形鋼のウェブ縁に段差の裾引きをすれば、ウェブ縁に倣い開先をとるのと同じく、切断歪み取りが面倒なだけではなく、ウェブ寸法が浅くなってしまう。その浅くなるスカントリング:材料寸法で設計しておかなければならない。
 モールドライン=スティフナーサイドとする所以である。
 
 板と板が隅肉(T)取合いのとき、直角取り合いなら、どちらをスティフナーサイドにしても同じであるが、取付度があるときは、すぼみ度と開度で骨の形状が変わる。例としてウェブの倒れ止め(トリッピング)BKT.を[図2.3.1 スティフナーサイド]に示す。図の形状を見るだけで直感的に、すぼみ度側のBKT.の方が、開度側のものより面積が狭く、つまり軽くて、しかもどちらか片面しかないのなら、やはりすぼみ度側のBKT.の方が、倒れ止めとしての強さ(機能)も優れていることが判るだろう。
 この構造上の優劣から、すぼみ度側をスティフナーサイドとするのである。こうすれば同じように直付きから次第に倣度が発生してきても、直切りのまま行ける範囲があり、いくらか倣い開先を切る範囲が少なくてすむ。
 
図2.3.1 スティフナーサイド
 
 以上の関係から、外板面に取り合う構造は、すぼみ度側をモールドラインとして、その反対:開度側が板逃となるのである。
 この要領を[図2.3.2 モールドラインと板逃]に示す。
 中心線部材は、モールドライン原則(一線片面板逃)よりも、船の左右舷対称の原則の方を優先とし、例外的に、中心モールドライン板厚振り分けとしている。
 
(側面)
(断面)
図2.3.2 モールドラインと板逃
 
 また船型線図で描かれる線は、全てモールドラインであるが、船の幅方向、深さ方向は、骨付き面である板内面で定義されてきたのに、長さ方向のみは、不都合にも伝統的に板外面で定義されてきた。
 これは、かつて船首尾端には、鍛造や鋳造のマッシブ(固まり形状)な船首材:ステムと船尾骨材:スターンフレームが配され、板内外とするような区分がなかったことによる。やがて溶接での信頼性が高まり、板構造に変わってきたが、船の主要寸法定義は、船に関連する船級登録などの社会的規範の基礎要件であるため、いまなお合理的に変更するに至っていない。(ISOでの『造船におけるコンピュータ応用』77年のTCに、日本から持ち掛けたことがあるが、その後立ち消えのままである。)
 現状は[図2.3.3 船首尾端のモールドライン]のようにされている。
 
図2.3.3 船首尾端のモールドライン
 
●船首:−
 以前は規則通りに、板逃を先端のR範囲は外面モールドとし、次第に内面に入れ替わるように現物線図を求め、板厚段差も外面に出す折衷方式で補正してきたが、この作業は面倒であり、やがて廃れてきた。現状は図のように先端でも板外逃げなので、厳密には規則に対し板厚:tだけ船長さ:Lが長くなっていることになるが、測度承認機関からは黙認を得ているようである。言い訳としては「tは、一日の気温変動によるLの熱膨脹に見合う程度だから、誤差の範囲」としているが、正確に言えば「正確にやる」だけの価値がないからである。
●船尾骨材:−
 こちらは構造機能上で板が厚く、かつ推進性能上で外面フラッシュが要求されるので、船首端と同じ訳にはゆかない。ここも例外として、図に示すよう規則通りに、骨材板厚内でモールドラインを処理している。船尾骨材より上の通常外板部は、原則に戻し船首端に準じている。
 
 やはり骨付き面をフラッシュにする[図2.3.4 仮モールドライン]の例を示しておこう。いずれもに対して若干傾くことになる。
 
図2.3.4 仮モールドライン
 
L.BHD.:−
 さきに説明したように船体中心線部材は、板厚が左右振り分けであるが、下端と上端の板厚振り分け位置を押さえて、そのスティフナーサイドを直線で結び、これを仮モールドとする。
●T.BHD.:−
 船尾側のFr.位置は、[図2.3.2 モールドラインと板逃]で見たように、尾面モールド首板逃とするが、その位置にT.BHD.があり、スティフナーサイドが首面だとしよう。このときは、この位置だけ首面モールド尾板逃とするか、または図示のように首板逃のまま上下端板厚首面をフラッシュとするよう結んだ仮モールドを立てるか、いずれかにすることになる。
 
演習題:−
1)上記のT.BHD.の例で説明したように、この位置だけ周りと逆のモールドにするか、同じ向きのモールドのままで仮モールドを立てるか。その利害得失は?
2)船体中心線部材は、対称振り分けとせず、左舷面スティフナーサイド、右舷に板逃と規約すると、どんな不都合が出るか?
  
 
 以上のように、すべての部材の取付は「取付線+板逃」で指示できるが、さらに、この記号にフランジの向きを付加して、「形鋼の逃げ」と称するものがある。形鋼とはいうものの、フランジ部に向きのある非対称断面の条材:バルブプレート・L型ビルトアップをも代表し、T形鋼などは含まれない。記号は[図2.3.5 形鋼の逃げ]に示すようになる。
 もともと山形鋼のモールドラインは、[図2.1.31 傾斜貫通フレームの断面]で説明したように、背面である。腹面には、フランジ端・凹角・ウェブ端に小Rがあり、面や線の定義に適さないからである。したがって、ほとんどが[図2.3.5 形鋼の逃げ]の左側「正」の取扱いとなる。右側の「逆」逃げは、艤装上の都合:例えばスペース幅一杯にマンホールやベルマウスが設けられるなどで、フランジを逆向きにする特例として適用されている。
 なお図面の表示であるが、上記の形鋼の逃げ図示でSP:スペース寸法を示しているように、部材配置寸法は片矢印で示し、矢印方向がモールドラインと規約しておくと、設計意図が明確に伝わる。
 実はこの[片矢印=]の約束をJISにしたく、『F 0201−1983基本船こく構造図の自動製図通則』に織り込み検討を提案したが、当時はまだコンピュータ化がやがて[設計=現図]へ移行する意識に乏しく、先送りとなっている。
 
図2.3.5 形鋼の逃げ







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